03


「まさか、こいつら長州の奴らじゃ……!?」

「もしそうなら、早いとこ片付けなきゃいけないね。変に敵に回ったら、厄介なことになるからさ……」


もう一人は少年で、もう一人は成人男性の声が響く。しかも……何故か赤也君の声が聞こえてきたんだけど、私の気のせい……かな。

何度も瞬きをして目の前にいる彼らを凝視しているんだけど、生憎部屋の中が暗いせいか……向こうの顔が見えない。

ん〜〜、困ったものだ……

そう思って少しだけ首を傾げていると、一歩前に誰かが歩み始めた気配を感じた。


「ちょ、ちょっと待って……! 私たち、君たちと争う気は全くないんだけど……!!」


そもそも! 私がここに来た理由は、ちゃんと正史通りに"池田屋事件"が解決できればいいだけであって……!!


「ですが、敵ではないという保証もありませんから……」

「ちょ、あまり動くなよ! 今日だって佐之さんたちから暴力受けたってのに……!!」

「そうだよ灯ちゃん、無闇に動かない方が――」

「ですがッ!!」


二人の男子に制止されながらも動こうとする彼女に、私は目を見開く。

この人……灯、さんなの?


「ちょっとこっち来て!」

「!!」


顔を確認したい。ただそれだけの気持ちで動いて、彼女の腕を握って窓際まで連れて行く。

奥にいるから真っ暗で、灯さんの顔が見れないんだもん!!

月明かりに照らされて、顔がはっきりと認識できた。


「嗚呼、やっぱり……」

「え、はい?」

「灯さんやっさーー!!」

「きゃあ!」


嬉しさのあまり、思わず抱きしめてしまった。

私の後ろの方で、驚きながら様子を見ているアマやんとカゲッちゃんがいるけどこの場合はスルーする!


「源一郎君や凛から話聞いてるよ! 新選組内で苛めにあってるんでしょ? 味方は? 他にも同じ境遇の子とかいる!?」

「えっと、あの……」

「あ、私は木手秋穂って言います。フレンドリーに秋穂って呼んでくださいな〜〜!!」


勢いとノリで話しているせいか、私のテンションに付いていけない他の二人は呆気にとられているようだ。


「なに? 君、この子の知り合いなわけ?」

「一方的にね! あ、確か新選組の屯所にはいつも赤也君がお邪魔してるみたいだけど、迷惑掛けてない?」

「は? お前、あのワカメ頭の奴の知り合いなのかよ!」

「まーね!」


ナデナデと撫でる手を止めずに話をしていると、アマやんの咳ばらいが聞こえてきた。

あ、完全に蚊帳の外扱いしてた……


「あー、わっさん」

「貴様は日本語も喋れんのか、時々理解に苦しむぞ」

「わっさんはうちなーぐちやっし! ゴメンって意味だからッ!!」


ビシッと突っ込みを入れながら彼を見ると、カゲッちゃんの視線はどうやら灯ちゃんへと注がれているようだった。

眼を見開き、驚きを隠せないでいるようだけど……一体どうしたんだろう?


「まあ、アレだ。私たちは君たちの敵じゃない、むしろ仲間になってあげたいくらいなんだよ!」

「仲間って……」

「苛め、なんとかしたいでしょ?」


静かに私がそう目の前にいる男性二人に話しかける。

外では中年男性の叫び声や剣同士がぶつかる音が響いている……


「君、本当になんとかしてくれるわけ?」

「ちょ、総司! お前本気で言ってんのかよ!」

「だって、いつまでも千鶴ちゃんや灯ちゃんをこのままにしておくわけにはいかないし。一応、彼女たちは僕の良き理解者なわけだし」


総司、と呼ばれた彼はブツクサと言いながら数歩前に出てきた。

成程……赤也君とあまり声が変わらないのは彼みたいだね……


「なんとかしますよ! 何でも屋"Bloody Bird"、その依頼引き受けましょうか?」

「ブ、ブラッディ……??」

「"紅い鳥"って意味! 私、よく仕事で赤い服着てるから……周りからそう呼ばれているってだけ。通り名だって思ってくれれば良いから」


いつまでも抱きついているわけにはいかないと思い、私は立ち上がりながら灯さんの手をとって彼女も立ち上がらせた。

少しだけフラフラしている所を見ると、相当重症のようだ。


「そんじゃ、総司さんのご依頼、確かに承りました! あ、依頼料とかいらないからね。念の為に言っとくけど」

「い、いらねぇのかよ! てっきり高額なモンかと思ってたぜ……」

「ま、私はこれでも有名な分類に入る"何でも屋"だから、報酬は相当値が張るものばかりだけど……今回は特別だよ」


さて、そんな話をしていると周りの声も聞こえなくなってきた。

静かになった所を見ると、騒動は無事に終わり……新選組の手柄になったのかな?


「いやー、今回は良い収穫があって良かったー! 今度、赤也君と一緒に屯所へ遊びに行くからその時は宜しくね」

「分かった。待ってるから」

「お、俺も! 藤堂平助の知人って言えば通してくれっから!」

「……というと、君は藤堂君って言うのか。そして、総司さんの苗字は……?」

「あ、僕は沖田。沖田総司って言うから。周りから"総司"って呼ばれているし、できればそっちで呼んでほしいかな」

「ん〜」


その可能性、明らかに低いです。

私は味方だと認識した人にはあだ名で呼ぶって決めてるから……ま、今は良いあだ名が思い浮かばないから別に良いか。


「ま、そう呼ぶ事にするよ。ほんじゃ、もう夜が明けそうだし……お暇しようか、お二人さん」

「ええ、行きますよ風間」

「ああ……」


一向に灯さんから視線をそらさずにいるカゲッちゃんを引きずるように、私たちは池田屋を後にする。

朝日に照らされている道を歩きながら、私は振り返った。

ひょんなノリと勢いで受けた依頼だけど、解決させるには相当時間がかかりそうだなって直感的に思ったから。


「ま、なるようになるでしょ」


腕を頭の後ろで組んで歩きだす。

どうやって解決させてあげようかな〜、なんて考えながら……

 


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