02


池田屋前に着き、キョンは店に入らず別の道へと歩いて行ってしまった。カゲッちゃんから別の用事を頼まれたのだろう……

残ったカゲッちゃんとアマやんと共に向かった部屋は、二階の少し奥ばった場所にあった。


「ここならば、我々のことに気付く武士はいないでしょう」

「そうか」


話のやり取りを聴いて思った事と言えば、彼らはこの池田屋で行われるであろう密会を偵察に来たということくらいかな。

確か、カゲッちゃんたちは長州に属していて……これから密会する人達は尊王派の人達らしい。


「密会に聞き耳を立てるって言うのも、なんだか傍から見たら怪しいものだよね」

「仕方がありません。それが我々の仕事ですから……」

「ふーん」


仕事ならば仕方ないか。私も護り屋をやっている時が一番時間が長く感じたものだ。

それと同じだと解釈する。あ、待ち時間の感覚的な意味でだからね!


「もしよろしければ、秋穂さんの事を詳しく聞いても宜しいですか?」

「へ? 私の事?」

「ええ、彼らが厚く信頼を置くのは理解できましたが、先日の風間と斬り合いをした時……ただならぬ気配を感じたもので」


少し言いにくそうにアマやんが口を開く。

どう言葉を選んで私に問えばいいのか分からないでいるみたいだ。


「ん〜、いずれバレることだし。別に良いっか」


頭をかき、私は彼らが理解できるように話を始めた。

自身の血を使って武器を生み出している事や、ちょっとした怪我でも瞬時に治してしまう事も。


「ま、心臓貫かれても数週間気を失うだけで生きてるし。変な体質って言っちゃえば変だけどね」

「不死身と言ったところか……」

「いんや、こう見えて普通に風邪引くし病気にかかるよ。寿命で命を落とす点では、ここら辺にいる人と変わらないさ」


そう、普通に生活をしている分には特に支障はない。ただ私の場合は裏稼業をしているから、戦場と化している場所に自ら赴く事があるだけだ。


「……ここまで来ると、南を統括する鬼の話を思い出しますね。確か、赤屍家でしたか……」

「あり得ない事ではないだろう。現に赤屍家は人間と交流が進んでいる……混血の鬼が生まれているのも耳にしているしな……」

「ということは、彼女は赤屍家の……」

「子孫、という位置付けになるのだろうな」


……二人の話を黙って聞いてる中、私は目をパチクリと動かしていた。

やっぱり、先日の騒動で耳にしたことは嘘ではなかったみたい。鬼の世界で赤屍家なんて、存在してたんだ……

私はその点で一番驚いてるんだけどさ……


「……ところで、秋穂」

「ん?」

「未来から来て、尚且つ俺達と出逢っているということは……その時、お前たちの前に現れたのは俺と天霧と不知火の三人だったと言うわけだよな」

「は? あん時いたのは四人だったよ?」

「!?」


さも当たり前のように言ったのが悪かったのか、アマやんが目をカッと見開いて心底驚いてしまった。

カゲッちゃんも似たような反応しているし……

あ、私とした事が……灯さんと一緒にいた事を話しそうになってるじゃないか……ッ!

これは絶対言わないって心に誓ったのにッ! なんとか阻止しなければ……!!


「四人、ということは我々以外にもう一人……鬼がいたという事ですか」

「あー……」

「おい、一体誰だと言うのだ?」


そう言ってくると思った。真剣な眼差しで、彼は私をジッと見つめてくる。だけどね、言わないよ。言わないんだからね!

でも、私はそこまで意地悪な性格を持ち合わせてるわけじゃないんで……


「もう一つヒントを言うとね、彼女はカゲッちゃんと仲良く話をしていたし……とても幸せそうだったってことくらいだね」

「ッ!?」

「はいはーい! これ以上は言わないからねー! 自分で探してね〜!」


それに、今までのちょっとした会話や今後の私の態度を見れば……分かるかもしれないしね。

そう思いながら、どうやってあまり態度に出さないでいようか悩んでいると……


「会津中将殿御預かり、新選組! 詮議の為、宿内を改める!」

「!!」


はっきりとした、男の声が響いてきた。

深夜と呼べるこの時間帯に、彼らはこの宿内に侵入しいたのか。

元々歴史が苦手な為、"池田屋事件"と言った有名な出来事は名前だけ聞いたぐらいしか記憶にないのだ。

その事を永四朗に言ったら「しっかり聞かなかったんですか」と呆れられてしまった……

仕方がないじゃないか、今から10年も前と言ったら……勉強とテニス部マネージャーと裏稼業を並行してやってたんだから。

授業中寝るなんて、もう常習犯と化してたのが懐かしい……


―キィン! キィン!


そう遠くない場所から剣がぶつかる音が聞こえる。

カゲッちゃんの後ろから外を見ると、何人かの武士が二人の新選組と闘っている姿が目に飛び込んできた。


―ガラッ!


すぐ傍で、勢いよく開かれる襖の音が聞こえる。

カゲッちゃんたちは気に止めるようなそぶりを示していなかったが、私はなんとなく気になって振り向く。気配からして、三人か……


「あなた達、こんな所で一体何を……!?」


この部屋に、聞き慣れない女性の声が響く。

……あれ? この声、何処かで聞いた事があるような気がするけど……何処だったかな〜〜……

 


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