02
「兄さん、今何て言った? 灯さん……だって?」
「ええ。あの時見た映像と比べると幼さが残りますが、彼女は間違いなく灯さんでしたよ」
「そう、か……」
彼女が、苛めにあってるなんて……思わなかった。千景さんと一緒にいたという事もあるし、彼女も鬼の人だと言うのはなんとなく理解できる。
だから私たちの時代から数百年前であるこの時代に生きているのにも、不信感は抱かなかった。
「よし、これで大体の方向性が決まったね!」
パンッ! と手を叩いて、私は持っていた箸を置いた。
「白蘭からの依頼も遂行するけれど、新選組内で起きてる苛め問題を解決させよう! 灯さん達の居場所を奪還しようじゃない! あ、千景さんの依頼もちゃんとやるよ」
「んだよ、そのオマケ扱いはよぉ〜」
ニッと笑う匡さんに私も負けじとニッと笑顔を向ける。だって、彼らの未来を知っているから……千景さんの横で笑う灯さんの姿を、私は見て知っているから。
この二人をどう引き合わせてあげようか、そう考えるとなんだか柄にもなくワクワクしてしまう。
だってさ、これって恋のキューピットになるってことじゃない? テンション上がるってもんでしょ……!
「んじゃ、大体の話がまとまった所で……私たちの事を彼らに話したいんだけど、異論ある人いる?」
「ちょい待って、いきなり何や……もう暴露するっちゅーことか?」
「まあね。その方が、彼らも協力的になってくれるでしょ?」
「話によるとは思いますが……相変わらず突拍子もない事を言う……まあ、秋穂らしいですけどね」
侑士君や永四朗が驚きながらも、諦めたような溜め息をついている。
私のキャラ知ってるんなら、こういう事を言い出すことくらい察しなよ!
「えっとですね、単刀直入に言いますと……私たちはこの時代の人間ではありません」
「はぁ!!?」
心底驚いたような声を出したのは匡さんだ。この人は喜怒哀楽が激しい人だな〜
そんなことを思いながら、私たちの事を含めて……どうしてこの時代に来たのかという理由も含めて話をした。
白蘭の依頼をきっかけにこの時代にタイムスリップした事、新選組の事、君たちが鬼だと知っている身であることまで。
最初は信じても良いものか迷っている千景さんたちだったけど、話が進んで行くうちに無理やり理解しようとしていたな。まあ、今信じてもらえなくてもいいよ。後々分かってくる事だからね。
「――っと言うわけ。大体分かった?」
「え、あ、うん……」
「今分からなくても結構ですよ。少しずつ、理解してくれればこちらは問題ないのでね」
補助するように話してくれた蔵人兄さんに感謝しながら、私はジーと三人を見つめる。
今後も関わってくるんだ。関わりが深くなる人にあだ名と言う名の愛称を付けるのが私のスタイルだ。だけど、問題のあだ名が思いつかずに困っていた……
(ん〜、どうしようかな〜……)
私の視線の先には、千景さんたちはそれぞれのメンバーと話をして盛り上がっているようだった。
中でも赤也君は、久寿さんに懐いているようでくだらない話をいっぱいしているように見える。
『ソイツ、俺らに変なあだ名付けたんだぜ?』
ふと、あの時のレストランで会った彼の言葉が脳裏をよぎる。もしかして……あの時話した"ソイツ"って……――私?
「――よし! 決めた!」
いきなり叫び出す私に、騒いでいた皆が視線を動かした。
「苛め問題のことだけど……ここで話していても、何も始まらないじゃない? 来週、池田屋に出向こうと思うんだ」
「え、でも確かその日って……」
りっちゃんは言葉を続けようとして止める。
来週……6月5日、その日は歴史書にも書かれている有名な事件・池田屋事件が起きる日なのだ。まあ、正史通りに進めば池田屋事件が起きるのだが……この時代ではどうなるか分からない。だからこそ、出向こうと思った。
「そうするなら、行ける奴は限られるな。どうする気だ?」
「そんなの、私一人で行くに決まってるじゃん」
何処に考える余地があるんだ? そう思いながら話をすると、千景さんから驚きにいた声が漏れた。
「貴様のような女一人、一体何ができると言うのだ」
「なんくるないさー! そんなに心配しなくても良いよ、カゲッちゃん」
「………………は!?」
妙な間が開き、呆れたような声を上げたのは匡さん。久寿さんも目を点にして思考を停止させているみたい。
「今、誰に向かって……!」
「? 風間千景さんだから、カゲッちゃんばーよ。ちー様も良いかなって思ったけど、ありきたりだしね〜。あ、匡さんはキョン・久寿さんはアマやんって呼ぶから、ゆたしく」
「お、俺らもかよ!」
「アマやん……ですか」
心底驚く三人を横に、私は満足そうに何度も頷いた。うんうん、そうだね。その方が私らしく話ができるかもしれない!
「りっちゃん! お茶のおかわり頂戴〜!」
「うん、どうぞ」
ニコニコと笑いながらりっちゃんに湯呑を差し出すと、すぐ近くから刀が抜かれたような音が聞こえた。
……ん? 刀が、抜かれたような音……?
「貴様……この俺を愚弄していると見受ける。覚悟はできてるのだろうな?」
「へ? ちょ、カゲッちゃ……! なんで怒ってるの!? 怒る意図が分からないんですけどーー!」
「今までの行動を振り返れば分かる事であろう?」
わー、ダークスマイルを向けてきてるよこの人……! ここで斬り合いとか勘弁!
慌てながら助け船を求めようと顔を動かすけど……
「斬り合うなら外でやってね。この家の庭が広くて良かったね、秋穂」
「いやいやいや、少しは止めに入ろうよ! 精市君!」
「ヤダ♪ だって面白そうじゃない」
ぅわあ……楽しんでる、この人超楽しんでるよ……!
背後から見慣れている黒いオーラが出ているよ!!
「遺言は言ったな? 覚悟を決めろ」
「一体なんの!?」
その後、私はどうなったのかと言うと……
手を抜いた状態ではあったけど、カゲッちゃんとの戦いは引き分けに終わった。
私が本気を出さなかったのが不満なのか、ムスッとしながら睨んできた。これは……"次戦う時は本気でかかってこい"と受け取った方が良いのかな……?
「ねえ永四朗、カゲッちゃんって私と仲良くしようとか思ってないのかな……凄く殺気ビンビンに出してたんだけど……」
「そんなことないと思いますよ。現に、彼は秋穂の事を気に入ってますし」
「そうかな……?」
今から一つ屋根の下で暮らすっていうのに……この調子じゃ、先が思いやられるよ……
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