03


*Side 秋穂*


「じゃあ、手に入れた情報をまとめてみようか」


今はお昼時、周りから聞こえてくる会話に耳を傾け続けてきた私達は、近くのうどん屋に足を運んでいた。椅子に座り、事前に持ってきた紙とペンを出してスラスラと書き始める。

今は、文久四年(1864年)5月28日だということ。文久四年と言えば、六月にかの有名な"池田屋事件"が起きる年だ。他の情報はと言うと、新選組は着々と知名度を上げているという事。そして、情報収集をしていくうちに――ある噂を耳にした。


「なあ、あの新選組内で苛めが起きてると言うのは、どう思っちょる?」

「ん〜、確かな情報じゃないからハッキリと言えないかな。だけどその情報が本当なら、厄介だね」


雅治君と精市君の言う通り、苛めという言葉が私を悩ませているのだ。

半年前、二人の男子を新選組が客人として招いており、その彼らが前々からいるであろう手伝いの女性に手を上げているんだとか。果たして、その話は真実なのか偽りなのか……?


「全く、本当に人間って単純で馬鹿な生き物だよねー」

「ああ、貴様の意見には同意しよう。全く愚かだと思わんか?」

「ホントにね! …………ってッ!!」


ハッと我に返って振り返る。そこには、昨晩の暗い道先で出逢った金髪赤眼の彼・千景さんが立っていた。


「昨晩ぶり、と言ったところか。秋穂とやら」

「ど、どうも。千景さん……」

「あらあら、秋穂のお知り合いさん〜?」


首をかしげて、私と彼を交互に見つめているのはマリーアさんだ。眼を細めている所を見ると、彼が普通の人間でない事を察した様子。流石、魔女さんだよ!


「ここで逢えたのも何かの縁だ。俺はおまえに頼みたい事がある」

「頼み事、ですか……」

「ここで話すのも難だ。場所を変えよう」

「へ? あ、ちょ……ッ」


……と言った具合に、半ば強引ではあったけれど千景さんに誘導されながら私達はこのうどん屋の二階へと足を運ぶ事となった。二階は個室になっており、集まって雑談をするには持って来いな場所だ。

驚いている雅治君と精市君を横に、永四朗が一言二言話してから動き出す姿が見えた。詳しい話は後で言うから、今は大人しくついていこう……という結論に達したんだろうな。

腕を引っ張られる事数分、二階にある奥の部屋の戸を開くと見覚えのある人達が座っていた。


「お、やっとお目当ての奴を見つけてきたのか。風間」


ケタケタと笑いながらそう声をかけてきたのは、匡さんだ。


「えっと、昨晩ぶりですね」

「おう。しっかし、こう見るとお前ってここら辺じゃ見かけない奴だよなー」

「ははは、よく言われます」


そんな会話をしていると、後ろの方で追いかけてきた永四朗たちが入ってきた。

お盆に乗っているうどんを持ちながら……


「あー、すいませんけど……お話は食べながらでも大丈夫ですか?」

「構いませんよ」


外の景色を見ていた赤髪の彼・久寿さんに礼を言いながら、私達は近くにあるテーブルを引っ張り出してうどんを食べ始めるのだった。


「改めて名乗ろう。俺の名は西国を治める鬼一族・風間家当主、風間千景だ」

(風間……?)


彼の苗字には聴き覚えがあった。確か、先日の苛め騒動の元凶である金銅さんが言っていたあの言葉……


『日の元に住まう鬼は、四種類の領地に分かれていると聞く』


そうだ、確かそんな事を言っていたな。


『東西南北に領地を分け、西は風間・東は雪村・北は桜花・南は赤屍が牛耳っていたと聞くが……今となっては伝説。存在すらしていないはずだったが……』


もし、あの時話していた鬼の話が本当ならば……雪村という人と桜花という人に会えるかもしれない。南の赤屍っていう言葉が一番気になるけどね……!


「それじゃ、私も改めて……何でも屋・Bloody Birdの木手秋穂と言います。B.B.Cという大きな組織に属しています。そして彼は……」

「木手永四朗と言います。秋穂の旦那、と言ったところですね」

「幸村精市と言う。宜しく」

「俺は仁王雅治ナリ」

「わんは甲斐裕次郎! ゆたしく!」

「忍足侑士や、よろしゅう」

「最後は私ね? マリーア・ノーチェスよ。純粋な魔女だから、ヨロシク〜」


ウインクして話すマリーアさんに、久寿さんが「魔女……?」と小さく呟いて首をかしげていた。


「それで、私に頼みたい事って?」

「俺達は、女鬼を探しているんだ」


そう答えたのは、千景さんではなく匡さんだった。


「女鬼……?」


裕次郎の問いに答えるそぶりを見せずに、千景さんは真っ直ぐ私を見つめてくる。目は口ほどに物を言う、という言葉があるせいか……大体、彼らの目的が分かってしまった。

跡部君のような眼力(インサイト)は持っていないんだけどな〜……
 


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