02
*Side ???*
私は千鶴ちゃんの手を握り、四方を囲む新選組の仲間を見つめた。
「佐之さんも新八っつぁんも! どうして千鶴達を疑うんだよ!!」
「平助は騙されているだけなんだ! いい加減目を覚ませよ!!」
いつも仲が良いこの三人が言い争っている。本当ならそんな事、してほしくないのに……握り拳を作って悔しそうな表情を浮かべる平助君。私は、どうすればいいのだろう……
平助君の力になれない、目の前にいる佐之さんと新八さんの睨みつけるような瞳に――固まるしかできない。
「あれ? こーんな裏路地で何やってるの? 巡察、終わってないでしょ?」
飄々とした声が聞こえてきた。私達に、味方してくれている新選組の一番組組長・沖田総司だ。
「おう、総司じゃねーか。コイツら、また蓮華に手を出したんだぜ……!」
「あれ? おかしいなー、目撃者の話によると……彼女に手を上げた姿は見てないって言ってるんだけどさー」
少し大げさに後ろを向きながら話をする総司さん。彼の後ろには、青や黄色と言った法被を羽織る人達が心配そうにこちらを見つめていた。よかった、一部始終を見ていた人がいたんだ……
「おいおい、こいつらの見間違いじゃねーのか?」
「アーン? 俺様の眼力(インサイト)を甘く見んじゃねーよ」
「無抵抗な人達に手を上げるなんて、大人として失格です!」
少しだけ偉そうな男性と、彼に寄り添うように立つ女性が交互に言う。この二人、夫婦(めおと)なのかもしれない。
「な、なんだよお前ら! 部外者は関係ねーだろうが!」
「そんなことはどうでもいい!!」
ハッキリと叫ぶように言ったのは、黄色の半被を羽織る男性だった。
「仮にも武士であるはずのお前たちには、仁義というモノを持ち合わせておらんのか! 全く、たるんどるぞッ!!」
「よーく考えれば分かるってのに……新選組って、馬鹿ばっかりなんッスかね」
「んなッ」
黄色い法被を着ている二人に言われ、言葉を失っているのは新八さんだ。
独特な髪形をしている彼は、総司さんと似たような声色を持っているみたいだから、尚更言葉を失っているのかもしれない。
「おいおい、お前らは赤の他人だろうが。あっちすっこんでろよ!」
「ハァ? 暴力を振るっちょる場面見りゃ、赤の他人やっさーとしても気んかいなるもんやっさーし、止めんかい入りたいと思うもんだばぁ?」 (ハァ? 暴力を振るってる場面見りゃ、赤の他人だとしても気になるもんだし、止めに入りたいと思うもんだろ?)
今度は紫の法被を着ている金髪の男性が会話に入ってきた。
法被の色は違えど、作りや形が同じ所を見ると……彼らは仲間なのだろう。
「ま、大方彼らが君たちの後ろで庇っている女性に手を出したという話をきっかけに、制裁と称して手を上げていると言ったところでしょう」
「!?」
今度は頭上から声が聞こえてくる。
私達は驚いて顔を動かすと、屋根から降り立った男性がニッコリと冷ややかな笑みを浮かべて私達に話してきた。彼の着ている服……黒一色の洋装ってことは、外国から来た人ってことなのかな?
「早かったなー、蔵人さん」
「ええ。荷物は全て『運び』ましたので、探していたら言い争っている君たちを見つけてね……」
「ってことは、後は帰るだけッスね!」
「早く幸村や秋穂達と合流しよう。今見た事も話さなければならん」
長身の彼の登場に、法被を着ている一行は同意の声を上げている。もしかして、このまま帰っちゃうのかな……?
「いやー、協力ありがとね」
「いえいえ! 新選組の沖田総司に会えただけで、俺過激ッス!」
「そう? なら、今度は屯所に遊びにおいでよ。君たちなら大歓迎だから」
「マジですか!? やったー!」
総司さんと黄色い法被を着る彼が嬉しそうに会話をしている横で、紫の半被を着ている彼はニヤリと笑みを浮かべた。
「まさか、あぬ新選組が治安を守るまーろか問題沙汰を起こしはるなんてな……周りが知っのみぐさぁ〜らでーじなってるよな〜」 (まさか、あの新選組が治安を守るどころか問題沙汰を起こしてるなんてな……周りが知ったら大変だよな〜)
「う、うん……」
「嗚呼、忘れないうちに……」
嫌味を言う彼らの横に立っている長身の彼が、姿を消したかと思ったらすぐ横に現れて私も千鶴ちゃんも驚きの声を上げそうになった。それは周りにいる隊士達も同じようで、皆彼に目線を向けている。
「ここで会えたのも何かの縁です。私は赤屍蔵人と申します、お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
「え、あ……雪村千鶴と、言います」
綺麗な笑顔に負け、千鶴ちゃんはペコリと頭を下げて名乗った。私も名乗っておいた方が良いかも……
「私は桜花灯と言います……」
「ほう? 灯さん、ですか」
「?」
ふと、小さく驚いたような表情を作る赤屍さんを疑問に思いながら見つめていると、先程と同じ綺麗な笑顔を向けてきた。
「君は……?」
「俺は藤堂平助! 新選組八番組組長だ!」
「そうですか、それでは藤堂君に雪村君に灯さん、また何処かでお会いしましょう」
クスリと笑って黒い帽子に手をかけて頭を下げると、先へと歩いている彼らの後を追って行った。
「あの人、山南さんみたいな人だったな」
「そう、だね」
遠ざかって行く彼らの後姿を見つめる私は、この先で私達の力になってくれるんじゃないかと言う、小さな期待を胸に抱いた。
今出逢ったばかりだけど、あの人達なら……私達を助けてくれるのかもしれない。
そう、思わずには居られなかった。そんな私達の横で、舌打ちをしている蓮華さんの歪んだ顔が視界に入ってきた……
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