03
*Side 白蘭*
秋穂チャンたちが部屋から出て行ったあと、僕は本を二冊共机の横に置いて……言った。
「そろそろ出てきたらどう? もう秋穂チャンたち、いないよ〜」
僕と優チャンしかいない空間……だけど、僕には分かる。息を潜めるように、四つの気配がすぐ近くにあるって事が。
「フッ、流石と言うべきだな。マフィアの統領よ」
そう言って現れたのは、全部で四つ。そのうちの一つが、僕に向かってそう言ってきた。横に立っている優チャンは、彼らを見て少し驚いているようだ。
「せ、先日はありがとうございました!」
「いえいえ、傷の方も治っているみたいですし……良かったです」
微笑む彼女は、優チャンの反応を見て嬉しそうに話してきた。そう、彼らはあの騒動の中……優チャンたちを治療して秋穂チャンと共に闘った人達なんだ。
「ねえ、これで良かったんでしょ?」
「ええ。お手数お掛け致しました……」
律義に礼を言う赤髪の彼に、僕は小さく首を振る。
「いえいえ〜、丁度秋穂チャンたちも暇を弄んでたところだし……丁度良かったよ」
「あいつ等、向こうで"俺ら"と会ったら驚くだろうな〜」
「実際、あの驚いた顔は今でも忘れられませんよ」
ケタケタと笑う長い髪を頭の上で結んでいる彼は、どことなく懐かしむように話をした。
「……で、僕がタダで彼らを"向こう"に向かわせると思ってないよね?」
「やはりな……」
トップであろう色素の薄い髪をなびかせている赤眼の彼は、僕の前に立って一つの手紙を置いた。
「これは……?」
「奴らが戻ってきたら開けろ。それ以外で開くことは許さん」
「ふ〜ん……」
とても古風な手紙……いや、彼らには"書簡"と言えば良いのだろう。念を押すように彼は目を細めて僕を見つめてくる。
それほど重要な代物のようだ……秋穂チャンたちが戻ってきた時、開くのが楽しみだ。
「分かった。彼らが戻ってきたら開くよ」
「宜しくお願いします」
「では、帰るとするか」
彼の一言を合図に、後ろに立つ二人の男は頷く。隣に立っている彼女も同意するように顔を動かして、そっと寄り添うように立った。
「では、また会おう」
「ウン。またね、風間千景御一行様♪」
彼がそう一言残してこの場から姿を消すのと、僕が彼の名前を口にしたのはほぼ同時だった。彼らがどう秋穂チャンたちと関わったのか……それは僕にも分からない。唯一分かる手段と言えば、この手元にある歴史書くらいだろう。
ページを開くと、最初の部分からさっきまであったはずの文字たちが綺麗に消えていた。歴史が変わっていく証拠だ……
「ねえ優チャン、一緒にこの本を読んで行こうよ」
「は、はい」
彼女を傍に引き寄せて、ほとんど書かれていない本と化した歴史書を片手に、僕は椅子から立ち上がって彼女と共に部屋から出るのだった。
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