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「忙しい中、集まってくれてありがとう」


ここは本土にある『B.B.C』本社の会議室。白蘭から依頼を受けた日から数日が経ち、私はうおちゃんや一時的に帰国している凛と裕次郎を連れてやってきた。

会議室で持っていたのは、現社長の跡部君。そして秘書として活動をしている大親友のりっちゃんだ。彼らを囲うように立っているのは、元氷帝テニス部メンバー。急に声をかけたのにも関わらず、全員揃ってくれたみたい。皆に感謝だ。


「わざわざこんなメンバー集めたんだ、急な依頼でも入ったんだろ?」


高級そうな椅子に座り、肘をつきながら跡部君は私にそう問うてくる。


「うん。私によく依頼をしてくる常連さんからなんだけどね……」


なるべく分かりやすいように、皆が理解できるようにこれまでの経緯を話した。

話している途中で元青学テニス部メンバーと元立海テニス部メンバーが合流してきたから、噛み砕きながら皆に伝える。裏会社で今でも繋がりのあるメンバーには、事前にメールを流したりして状況説明はしたから、今この場にはいない。


「白蘭って、あの有名なミルフィオーレのボスなんッスよね?」


そう私に問うてきたのは、テニス界で世界ランク十位に位置している赤也君だ。彼も、凛たち同様一時的に帰国していたからこの場に呼んだの。


「海外なのにも関わらず、俺たちに資金援助してくれてる大手企業だ。それだけ期待してくれてる証拠だな」

「日本に事業を拡大する確率は日々上昇しているからな。海外でも問題視されている"苛め"にこれだけ力を注ぐ会社は、珍しいと思っているに違いないだろう」


ノートパソコンを取り出してカタカタと打っているのは柳さんだ。その横で貞治が眼鏡を押し上げながら会話に参加している。


「しっかし、日本でも有名なあのボンゴレの組織内で苛めか〜……やりだした理由はなんだ?」


頭をかきながらフーセンガムを口に含む丸井君が首をかしげている。

理由なんて考えただけでキリがないのは分かっている。救出者・苛めの黒幕の名前を見て、現時点で分かる事と言えば一つくらい……


「カッコイイ男は全員私のモノ、邪魔する奴は排除する……そんな思考回路が働いている人がいるんでしょう」


嫌そうに眉間にしわを寄せているのは、姫花さんだ。優花ちゃんも小さく頷いている所を見ると、元悪女ということもあってか、名前・所属している人達の顔写真を見て簡単に想像できてしまったのだろう。


「なあ……一応この依頼は受ける気でいるんだよな?」

「そうね……お得意さんからの依頼と言うのもあるし、親しくして貰ってるから」

「じゃあ、すぐにイタリアへ行く……でいいんじゃにゃい?」


大石君と菊丸君が交互にそう問うてきた。

勿論受ける気でいるし、このままイタリアに向かおうとは思っているが……向こうの状況が分からないし、相手はマフィアだ。一般人ではない……最悪な場合、自分の命が危機に晒されることだって考えられるんだ。そんな状況の中、一般人に近い彼らを連れて行っても良いものか……少し心配になっている。

一応メンバーをリストとして白蘭さんに提出しているから、拒否さえされなければ連れて行く気でいるけどさ。


「多分、かなりの長い期間海外の方で活動する事になるかもしれない。援助関係はミルフィオーレに任せているから大丈夫だと思うけど……」

「私は行くからね! 勿論!」


最後まで話をしていないのに、そう声を上げたのはりっちゃんだ。いきなり声を上げられて、私は目を点にしてしまった。


「もう、10年前のような悲劇を生みだしちゃいけないんだよ。それが、海外であってもね」

「ハッ、分かってんじゃねーか。鈴」

「当たり前じゃない! 苛めは、憎しみと悲しみしか生まないんだもの」


彼女の言葉に、私はゆっくりと瞳を閉ざす。脳裏に浮かべるのは、10年前の事。

物的証拠もなく、ただ"見た"だけが証拠だと言っていたあの頃の事……やっていない、と声を上げている人を偽りだと言って暴力をふるっていた人達がたと言う事を。

全て、この会議室にいるメンバーのほとんどが犯した出来事なのには変わらない。敵と味方に分かれていた彼らだが、今は同じ目標を目指して歩きだしているんだ。


「急な話だから、参加できない人は言ってね。ここにいるメンバー以外にも、外部から声をかけて賛同してくれた人が何人かいるから、その人達連れて行くし……」

「おい秋穂、その話は初耳だぞ。アーン?」

「だって、今初めて言ったんだもん。皆のよく知る人達だから、大丈夫だよ」


本社に行く前に、前もって携帯で連絡を取ったところ……


『イタリア、ですか……良いでしょう。力を貸します。んふっ、僕の力がどこまで通用するか見物ですね』

『僕も行きます! 兄さんや秋穂さんの力になりたいですから……』

『蛮が行くなら私も行くわよ〜〜! 最年長者の意見も、取り入れて損はないわ〜!』

『わざわざバビロンシティにいる僕に連絡を入れるなんて……それほど重大な出来事が起きてるんだろう? 良いよ、Dr.ジャッカルも行くらしいしね』


……と言った感じで返事をくれたんだよ。彼らには、後で拡散メールで待ち合わせ場所を教える予定でいるから、現在待機してもらっている。


「それに、跡部財閥はイタリアへと事業を拡大する予定で今動いているから……視察という名目で行く気でいたしね」

「まあな。……てことで、俺様は行くからな」

「あ、私もね!」

「わったーも行くからな! にーりたんとや言わせねーらんぜ!」
(俺たちも行くからな! 嫌とは言わせないぜ!)


跡部君、りっちゃん、うおちゃんを後ろから抱きしめる凛がそれぞれそう言ってくる。

他のメンバーへと顔を向けると、それぞれ小さく頷いてくれた。この場に参加してっくれているメンバー全員、私と一緒に行ってくれるみたいだ。


「皆、ありがとう。永四朗や精市君たちにはメールして一緒に来てくれる事が分かってて、先にイタリアに向かってもらってるの。私達も行きましょう」


依頼人の待つ、イタリアへ……

私は椅子から立ち上がり、そう皆に言った。そして、跡部君が用意してくれた飛行機に乗り込んで……私達は日本の地を後にしたんだ。




02章:舞台はイタリア




飛行機に揺られる事数時間、無事に目的地に着いた。航空の中を少し大きめの荷物を持って歩く私達を、周りにいる人達が遠巻きに見てきている。

荷物はいつ用意したのかって言うと、私はそのまま行く気でいたからだけど、他の人達もどうやら同じ気持ちでいたらしい。

重要な話=苛め騒動=何処に行っても大丈夫なように準備をする=旅行用ケースに荷物を積める結果になる。

と言った具合になったんだとか。


「やっぱり、目立っちゃうか」

「当たり前だってば」


跡部君を筆頭に、凛も裕次郎も世界的に有名な人達なのだ。知らない人はいないだろう……それに、皆顔が整っている人達ばかりだし。

そう思って歩いていると、視界に見慣れた後姿が入ってきた。だけど、ファンの子であろう人達に囲まれて、こちらに気付いていないみたい。


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