02
あの四人は、あの病室に来て以来……姿を見せなくなった。もう会う事もないだろう……そう思うと、少しだけ寂しく思える。
でもね……彼らの口ぶりから察すると、もう一度会えるみたい。その"再会"の時を、私は気長に待っていようと思う。
そして、ミルフィオーレの医療班にお世話になって約二週間、私は無事に退院。その時出迎えとしてやってきたのは、永四朗に跡部夫妻だった。
「秋穂、良かった……無事で良かったよぉ……!」
「うん、心配かけてごめんね。りっちゃん」
「もう、無茶はダメだからね!!」
ガクガクと私の肩を揺らすりっちゃんに、横に立つ跡部君は面白そうにクツクツと笑っている。
「そ、それと……今後のボンゴレは、どうなるの?」
「嗚呼、そのことですか」
ホテルまでの道のりの中、永四朗は私が身動き取れなかった二週間の間に起きた出来事を話してくれた。
ボンゴレは壊滅状態にまで陥ったのは知っている。ボスである綱吉君は、操られていた時の記憶が残っていたようで、何度もセイちゃんに頭を下げたんだとか。
操られていることは分かっていても、身体が言う事を聞かない……意識と身体が全く違った行動を起こしている状態だったらしい。
おかげでボンゴレの地の守護者は空席になり、一体誰がその席に座るかで争いが起きた。
だけど……
『僕の代に、地の守護者は必要ない』
綱吉君のその言葉に、会議として参加していたボンゴレに関わりのある人達が揃って疑問の言葉を投げかけたんだとか。
綱吉君の元家庭教師であるリボーンは彼の意見に賛同したそうだ。
『地の守護者は、星野燐しかいねぇんだ。もういない奴だとしても、そいつ以外に俺らは認めねぇんだよ』
『そう。だから、いらない』
はっきりとした口調で、そう言い放つリボーンと綱吉君の言葉にはとても大きな力が込められていたんだとか。
彼の言葉を聞いて、雲雀さんは小さく涙を流したらしい……もうこの世にいないけれど、彼女がこうしてこの場に在っていたという証が出来たのだ。
この後のボンゴレは、ヴァリアーやミルフィオーレ、そしておしゃぶりを持つアルコバレーノと呼ばれる人達の手を借りて、再建の道を歩もうとしていた。
哀しい過去を、忘れないように……星野燐が存在していた事を、証明するように……一時は証拠隠滅にまで陥った彼女の生存を、何とか形として残していこうと必死になっている。
そして、途中でどうなったのか分からなかった白蘭の婚約者発表の話だけど……
私の予想が当たったのか、白蘭の妻としてセイちゃんが迎え入れられた。当の本人は目を点にしてどう言葉にすればいいのか困り果てていたっけ。
結婚式を一ヶ月後に控え、今はバタバタと準備に明け暮れているらしいよ。
『逃げようとしても捕まえるからね。だから、この僕から離れようだなんて思わない方が良いよ』
ニッコリと笑みを浮かべられ、セイちゃんは少しカタカタと震えながらも白蘭の元にいることを決めたらしい。
式典には私達も参加する事になっているから、もうしばらくイタリアにいる事になりそう。
「盛大にやるのかな……?」
「あの様子だと、盛大以上に何かをしでかすらしい。一応俺ら跡部財閥も記念品は送る予定だ」
「私はどうしようかな……」
「出席されるだけで良いと思いますよ」
「そ、そうかな……」
「そうだよ、秋穂は病み上がりなんだから……参加だけすればいいの! その分、私達が秋穂達の分も一緒に送れば問題ないんだし!」
そう言われてもなぁ……少し困りながら眉間にしわを寄せている時……
―ありがとう。皆の目を覚ませてくれて……ありがとう―
遠い場所から、優しく声をかけてくる声が聞こえた。
立ち止まって辺りを見渡すけど、私に声をかけた人物の姿は見えず……代わりに暖かい風と共に一片の花弁が私の手へと舞い降りてきた。
薄い桃色の花弁を見て、不思議そうにりっちゃんが首をかしげる。
「ねえ、それって桜だよね」
「……みたいだね」
「おかしいな、この辺に桜の木なんかないはずだ」
「いやいや、それ以前に今の季節は秋だ。春に咲く花弁が何故今あるかに疑問を持とうよ」
彼の言葉を聞いて、思わず突っ込んでしまったが……あまり気にしないでおこう。
私は、右にりっちゃん・左に永四朗の手をつないで歩きだした。この先、何があってもこの二人には支えられ続けるんだろうな。
勿論、凛や裕次郎達も同じように。どんなに月日が流れようとも、私は彼らと一緒にいたい。
繋がれた手に少しだけ力を込めて、私達は帰り道を歩いてくのだった。
END
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