02
*Side 永四朗*
「お・そ・い!」
ムスッと顔をゆがめながら、秋穂は腕を組んでハッキリと言った。
ここはミルフィオーレが所有している大きなドーム。ここで、白蘭は重大な発表をするというのだ。
婚約者の発表……その言葉に最初は聞く耳を疑ってしまった事を憶えている。だが、彼が一番好意を寄せている彼女を正式に妻として迎える事に……ミルフィオーレに属する全ての者たちは賛同していた。
むしろ一番嬉しく思っているのは、真6弔花の桔梗さんとブルーベルさんでしょう。この二人は、"彼女"の事を白蘭の次に気にかけている人達なのだから……
そして、先程から何故秋穂がイライラしながら言葉を発しているのかと言うと……
「ボンゴレの人達、遅いですね」
「そうだなー、そろそろ開始時間になるってーのにな」
陽菜さんと平古場君の言葉に俺は小さく頷く。
「チッ、あのカス共……何やっていやがる」
「ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙い゙! 友好同盟結んでいるボスの婚約発表に来ないなんて、あいつ等バカじゃねぇのか!!?」
「スクアーロ、少し声のボリューム落としなよ。耳が壊れるから」
「悪ぃな、マーモン」
「フン」
俺達のすぐ近くで、ケタケタと笑いながら話す彼らは、ボンゴレ内にある独立暗殺部隊・ヴァリアーのメンバーだ。
リーダーのXANXUSは、10年前の正統後継者に送られるボンゴレリング争奪戦を起こした張本人らしい。それだけ、彼らの戦闘能力はとても強大で強力なのだと、以前秋穂が話をしてくれた事を思い出す。
「もう! これ以上待つのってつまらないと思わなぁ〜い?」
「え、ええ……確かにそうですね……」
「んふっ、顔が引きつってますよ。裕太君」
「シシシ、オカマが気持ち悪ぃってさ」
「あら! そんなこと言ってないじゃない! ねぇ〜」
「え、えっと……」
ヴァリアーの一人・ルッスーリアという人に話しかけられてか、顔を引きつらせながら口を開く不二弟。そんな彼を面白そうに見ている観月を横に、顔を前へと動かした。
「白蘭さん、そろそろ始めないと時間が押すばかりになります」
「ん〜、でもね……当の妻が来ていないんだもん。始められないのは当たり前じゃない」
切羽詰まった声の入江さんの言葉に、豹豹としながら答えている白蘭だが……少しだけ焦りの顔が見え隠れしていた。
今日を迎える日まで、俺は何度かボンゴレに足を運んで何人か守護者の方々と言葉を交わしている。彼らが、本当に苛め騒動を起こしているなんて信じられない……と思った。
だが、白蘭が集めたという証拠の数々を見て絶句した。この騒動は、10年も前から起こっているということにも……驚きを隠せなかった事を覚えている。それに、これだけの有力な証拠が揃っているのにも関わらず、何故ボンゴレは罪を認めないのだろうか……?
「……このままじゃ時間だけが過ぎていくばかりだよ。ちょっと様子見てこようかな」
大きく伸びをしながら話す秋穂に、近くにいるメンバーが口を開いた。
「俺も行きましょう」
「じゃあ俺も……!」
「待ちやがれ、ここは秋穂と木手の二人だけに行ってもらう」
賛同するように動く平古場君を制する跡部君に、甲斐君達は目を見開かせた。
「秋穂は裏稼業の奴だ、そして木手の武術はここにいる奴らの中じゃ一番だろうが。携帯もあるんだ、困ったら連絡入れるだろ?」
「当たり前ですよ」
「白蘭、発表は続行して! ちゃんと彼女連れてくるから!!」
「……ウン、秋穂チャンが行くんだもの。信じて待ってるから」
少し間を置いての返事は、真っ直ぐと秋穂を捕えて放さなかった。
彼女に依頼すれば、100%遂行してきてくれる。そういう信頼が、彼の目から伝わってきたのだろう。
「じゃ永四朗、行こう」
「ええ」
眼鏡を押し上げて、彼女の後を追う。彼女の背中に描かれている紅い鳥が、まるで俺を安心させるかのようにバタバタと揺れながら視界に入ってきてくれた。
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