03
*Side 星野*
私には、一つ歳の離れた姉がいました。名前は星野燐、何処にでもいるごくごく普通の女の子だった。
姉は並盛中学へ、私は隣町にある緑山中学へと通っていました……私達が違う学校に行っていたのは、特に理由はなかった事を憶えている。私は緑山中の雰囲気が好きで、お姉ちゃんは並盛中の雰囲気が好きになった。ただそれだけだ。
確か、私が中学一年になってしばらくしての事だったかな。姉に恋人ができました。名前は雲雀恭弥先輩、並盛中に君臨する不良にして風紀委員の委員長もやっている、とても怖い人……
だけど、姉繋がりで知り合った時……とても優しい男性(ひと)だと思ったのを憶えています。彼なら、姉を任せられると思ったんです……
そんな二人には、共通して知り合った友達がいました。今のボンゴレ守護者に属している人達です。何事もなく、姉は友達にも恋人にも恵まれた明るい日々を送っていました。
あの女が来るまでは……
海外からの帰国子女として、一人の女子が並盛中に転校してきたと姉から聞いてました。
名前は金銅愛美……海外でも有名な金銅財閥の娘。最初は姉も仲良くしていたそうです。新しく、女友達が増える……そう家に帰ってくる度に話してくれたから……
そして私達がいつもの日常を過ごしている最中、沢田さんにはリボーンという子が家庭教師として厄介になる出来事があったり、ボンゴレの後継者争いでXANXUSさんと闘った事も話してくれました。
そして、なんと姉はリボーン直々にボンゴレリングを受け取っていたのです。地の守護者になってくれ、と言われた時はとても嬉しかったと話してくれました。
『これで、恭弥の傍にいられる……ツナ君たちと一緒にいることができる……力になれるのが嬉しいんだ』
『良かったね、お姉ちゃん!』
『うん!』
友達以上の絆を手にして、涙を流しながらそう私に話してくれたのを……今でも思い出せる。
……だけど、姉がボンゴレ守護者になったことを快く思わない人がいた。その人こそ、金銅愛美だった……
『どうして、アナタがここに……ッ!』
『私が何処にいようと、関係ないじゃなぁ〜い』
確か夏休みに入って数日経ったある日の事、玄関からそんな会話が聞こえてきて思わず身を潜めた事があった。
玄関には、姉と金銅愛美が睨み合いながら立っている姿が目に飛び込んでくる。
『愛美ね、ボンゴレが欲しいのぅ〜! 財力もぉ〜権力もぉ〜、とっても強いんだぁ〜。愛美がずぅ〜っと狙っていたのに、どうしてアンタが易々と手に入れてるのよッ!』
『んなッ! 私は最強ヒットマン・リボーン直々に任命されてボンゴレリングを持っているのよ! ボンゴレが抱える罪も理解しているし、それを背にツナたちと一緒にいる事を認めてくれた』
『許さない……私が一番でなくちゃいけないのに、なんで一般人の私よりも可愛くない奴がボンゴレリングを持っているのかが不思議でならないわ……見てなさい、そう遠くない未来、地獄の底へと落としてあげるわ』
甲高く笑う彼女の声が耳触りで、思わず自身の耳を塞いでしまった事を憶えている。
その言葉が現実として姉の元に降りかかってきたのは……夏休みが明けて約二週間が経った時だ。
いつも明るくて、いつも優しく話をしていた姉の顔から、いつの間にか笑顔が消えていた。笑顔が消えていくのと同じように、身体に無数の傷跡が着いているのを目にするようになったんだ……
なんとかしてあげたい、姉を助けたい……だけど、別の学校に通う私にはどうする事も出来なかった。そして……恐れられていた事実が、私の元に舞い込んできた。
『お姉ちゃんが、自殺……?』
秋頃、校内放送で呼び出されて学校にかかってきた電話に出た私の耳に入ってきた言葉を口にして……私は言葉を失った。
どうして……? 一体、なにがあったの……?
今日……家を出る前だって、私に向かっていつものように「行ってくるね」って声かけてくれたじゃん。
そんな姉が、もう……この世にはいない。私は、とても信じられなくなって暫く会話らしい会話ができなかったって友達に言われた事を憶えている。
そして元凶を知ったのは、姉の告別式の時だった。
式の当日、参列している私の横から小さな話声が聞こえてきたんだ。
『アイツ、ようやくくたばってくれたな……』
『ああ。これで愛美が嫌な想いせずに済むな』
『うむ、極限に粘り強かったな』
『これで正式に、愛美にボンゴレリングを渡す事が出来るよ。良かったね』
『はい! これでぇ〜、愛美もボンゴレの仲間ですねぇ〜』
嫌な会話だった。そして、耳障りな声に思わず目を見開いた。
この声は……獄寺さん・山本さん・笹川さん・沢田さん……そして、金銅愛美。
彼らの言葉を聞いて全貌を理解してしまった。姉は、自殺なんかじゃない……殺されたんだ。沢田さんたち・ボンゴレファミリーによって……
とても信じられなかった。何故なら、ボンゴレには雲雀さんもいたから。
私は、雲雀さんだけは信じていたかった。姉の味方でずっと在っていたと思っていた……
そんな私の気持ちに答えるように、告別式後に雲雀さんに呼ばれたんだ。その時、隣には六道さんも一緒にいた事を憶えている。
『ゴメン……僕が傍にいたのに、燐を殺してしまって……』
『雲雀さん……』
『何度も、謝っても謝りきれないんだ。もっと早く、草食動物たちの動向が掴めさえすれば……こんなことには……ッ』
『今を悔やんでも仕方ありませんよ、雲雀恭弥』
静かに、六道さんがそう口を開いて雲雀さんの肩に手を置いた。
『それは僕にも同じ事が言えます。彼女を慕っていたクロームや犬に千種たちも、言葉にならない声を上げて涙を流していました。現に、僕も……』
視線を下に落とした時の彼の眼は、少しだけ腫れていたような気がした……
少しだけ話を聞いたら、六道さん達は隣町にある黒曜中学校に通っていたんだそうだ。だから、並盛中の苛め騒動のことに気付いてあげられなかったと、悔やんでいた。
『あんな草食動物たちを見たくないな……勝手に僕を仲間呼ばわりして、仲間にしたんだから――きっちり代償は払ってもらわなきゃ』
『それは僕も同じことが言えます。復讐者に掛け合って牢獄から出してくれた彼らには一応感謝してますが、このような状態の組織に属していたくはない』
『なら、抜けるんですか?』
そう問うた私の言葉に、二人は少しだけ驚いたように目を見開いたけど……小さく笑みを浮かべて首を横に振ったんだ。
『抜けないよ。彼らに、お灸くらいは添えていくつもりさ』
『それは僕も同じですよ。全く、ここまで君と意見が合うのは気味が悪いですね』
『同感だ。早く終わらせたいものだ』
睨み合いながらも、お互い協力関係を結んでいる二人を見て少しだけ元気を貰えた。
お姉ちゃんは、全員から嫌われているわけじゃない。ちゃんと慕ってくれていた人・愛してくれた人がいる。
この人達の力になってあげたい……そう、思ったんだ。
|