02


「丁度良かった、今ツナが呼んでるんだ。来てくれるか?」

「う……あ……」


ガチガチと震えだす彼女の手を、なんとか落ち着かせようと私の手で包む。これほどまでに過剰反応を起こすなんて……一体、彼女に対してボンゴレは何をしているというの?


「残念ですが山本君、彼女は私に用がありますので。こちらが終わってからではいけませんか?」

「へ? いや、緊急だってツナに言われてんだ……こっち優先させてもらっても良いですか?」


ニカッと屈託のない笑顔を向けているが、彼の笑顔は作りものだ。目が、笑っていないのだから。


「すみませんね〜、どうせ金銅さんが星野さんに何かされた……と言いながら泣きついてきて、それの"制裁"で彼女を呼び出しているのが見え見えですよ」

「んなッ……」


私の言葉が図星だったのか、言葉を失う山本君。


「現場は見たんですか? ちゃんと監視カメラ動いてますか? カメラの死角になっているような所はありませんか? 一方的な意見に左右されてませんか? 現場と金銅さんの意見に、矛盾はありませんか?」


どんどん言葉による攻めを続ける私に、山本君はジリッと後ろに下がって顔を少しだけ歪ませていった。言葉攻めをされたのは、初めてのようね。


「何でだよ……どうして、雲雀や骸……オヤジにリボーンみたいに言うんだよ……」

「へぇ?」


なるほど、雲雀さん・骸君以外にも山本君のお父様にリボーンさん。この四人は"真実"を見極めているという事になるのかな。

そして、山本君は……揺らいでいる。昔の桃城武君のように――

いや、これは揺らいでると言うより……


「ねえ、こう言う言葉があるんだけど……」

「?」

「"真実は、その人の中にしかない。その『真実』ですら、言葉にした瞬間に疑わしくなる"ってね」

「それって、どういう……?」

「真実は、それぞれの心の中にしかないって事。そしてその真実は、言葉として他者に伝わった時点で疑わしくなるものよ」


そう、コトバというものは不思議だ。ある意味、麻薬の類と同等の効果を発揮することだってある。その言葉によって隠されている"真実"に、彼は気付くだろうか……? 否、もう気付いているはずだ。

彼の様子を見て、一つだけ仮説が立てられるのだから。でも――その仮説自体、とても可能性として低い。あまり視野に入れない方が良いかもしれない。


「では、私達はこれで。早めにそちらに向かわせるようにしますので、待ってて下さいと伝えてください」

「あ、ああ……」


軽く一礼し、私は山本君に背を向けた。予定の時間から大分オーバーしてしまった。跡部君やりっちゃん、待たせちゃったな……

そんなことを思いながら歩く私の背中を、複雑そうな眼差しで見つめている山本君がいるのを、今の私は気付く由もなかった。


「一体、どうすればいいんだよ……ツナに獄寺、皆の態度が異常になっているっていうのに気付いてるってのに、何もしてやれない……ツナたちの機嫌を優先させちまってること自体、間違ってるのか……?」


ダンッと壁に握り拳を作って殴る彼を、一人の人影が少しだけ哀しそうに見つめていた……




***




*Side 山本*


「ッ! 誰だ!!」


B.B.Cのメンバーに連れられて行った星野を見送った後に感じた気配に、俺は振り返りながら叫んだ。

すると、人影はビクッと反応しながらも真っ直ぐ俺の事を見つめている。両手を胸のあたりで組んでいる女性に、俺はジッと見つめる。


「あ、あの……」

「?」

「自分の、思うように……行動してください」


まるで、今のやり取りを聞いていたかのような言葉に、俺は口を固く閉ざす。だって、ついさっきまで彼女はここにいなかったはずなのに……どうして?

いや、彼女自体この建物内で見た覚えがない。彼女・木手さんの関係者には見えないし、ボンゴレの関係者ではない。なら、なんで部外者がこんな場所にいるのだろうか?


「この先、貴方には大きな分かれ道に差し掛かる。選択の仕方によって、未来が変わってしまうくらい――とても大切な分割点。だからこそ、ハッキリと気持ちを明確にしておく必要があります。山本さんなら、必ずできますから」

「!? お前、何で俺の名前――」

「ふふ、ナイショです」


まるでいたずらっ子が出す笑顔を向けながら、目の前にいる彼女はスゥ……と姿を消す。

ここに存在しなかったかのように、自然に姿を消したから……しばらく放心状態になっちまった。


「い、今のは……」

「おい! 野球馬鹿!」


現実に引き戻してくれるような心強い声に、俺はハッとなって振り返る。そこには、呆れて煙草をくわえながら火を付けている獄寺が立っていた。


「10代目がお呼びだ! さっさと来い!」

「あ、ああ! 待たせてゴメンな」

「ケッ、優の姿も見えねーし……早く憂さ晴らししてーっつーのに」


ブツブツと呟く獄寺の後姿を、俺は哀しそうに見つめることしかできなかった。


「なあ、お前はいつからそんな事を言う奴になったんだ? 獄寺……」


そんな俺の呟きに気付く奴は、誰もいない……――




***




*Side 秋穂*


「おせーぞ」


部屋に入っての第一声が、跡部君のこの一言だった。少しだけ眉間にしわを寄らせているけれど、私の背後に立っている星野さんの姿を見て目を見開かせる。


「秋穂、彼女は……?」

「今回の救出者、てところかな」

「ようやく見つかったんッスね」


フゥと息を吐いて話す越前君に、私はニッと笑みを浮かべる。


「それとね、山本君が昔の武君見たいになってるの。早く気付かせてあげたいと思ってね」

「ボンゴレ雨の守護者が、ですか?」


名前を呼ばれ、再度驚きながら話す武君。私はコクリと頷いた。


「さて! 状況報告をしながら、今後の彼女の保護についての話を……」

「ちょ、ちょっと待って下さい」


私が人差し指を立てながら話しに入ろうとした時、後ろに立つ星野さんは慌てながら口を開いてきた。


「白蘭様の命とはいえ、貴方達に頼ることはできません」

「なんや、自分で上手く物事解決できると思うてるんか?」


首をかしげながら問うてくる忍足君に、星野さんは少し押し黙ってしまう。


「ここまで悪化してんだ、わざわざあのミルフィオーレのボス直々に秋穂が依頼を受けたってーのに」

「木手さんが、ですか?」

「うん。昔からのお得意さんだしね、力になってあげたいと思うのは普通でしょ」

「で、でも……もう無理ですよ」


小さく震えて、唇を開こうか否か迷っているようだ……ここには監視カメラも付いていないし、この場にいるのは私達だけだ。そんなにためらうことはないのに……


「どうして、そう思うの?」

「皆、金銅さんの言いなりなんです。私の言うことなんて聞く耳を持ってくれない……唯一雲雀さんと六道さんたちが仲介してくれてるような状態ですし……」

「言いなり、というのが気になるな」


顎に手を添えて話す国光に、周助も同じように考えだした。


「そうだね、只の女性の言葉にどうしてそこまで絶対的な信頼が持てるのかが不思議だ」

「柳や観月の話によると、どうやら10年前に何かしら大きな出来事があったようやで」

「大きな出来事?」


大きな出来事、と聞くと私達が真っ先に脳裏に出てくるのは――10年前の金井さん姉妹による苛め騒動。あの時の私は、無茶ばかりしていたな〜。と今になって思える……


「ま、詳しい事はMAKUBEX辺りに任せる事にしようぜ。星野、だったな……話聞いても良いか?」

「は、い……もう、私の言う事は誰も信じてくれませんし……せめて、私の事に関する全てをお話します」


力なく微笑み、星野さんは私に誘導され椅子に座った。そんな彼女を囲うように、私達も事前に置かれている椅子に座って彼女へと視線を動かす。


「あれは、今から10年も前の事です……」

 


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