03
「先ほどはご迷惑おかけしました」
「! い、いえ! 大丈夫ですよ!!」
ピクッと反応した彼女は、パァァァと明るくなりながら私にそう返事を返してくれた。
手にしているワインを見せながら「良ければ一緒に飲みません?」と声をかけると「いいだろう」と金髪の彼が返事を返してくれた。
隣に座っている赤髪の彼にイスを用意してもらい、腰かけてワインを注いでいく。
「本当にすみませんでした。彼女も、悪気はないと思うんです」
「悪気があったら斬っているところだ。我が妻に謝罪を述べさせたのだからな」
ギリッと奥歯をかみしめる彼に、私は目をぱちくりさせてから二人を交互に見た。
「もしや、お二人はご夫婦さんでしょうか?」
「え、あ……はい」
少し困ってから、頬を染めて頷く彼女。すごく倖せそうだな……笑顔がとても綺麗だよ。
「とても倖せそうですね。この時間を、大切になさっているようで……」
「当たり前だ。灯を倖せにできるのは、この俺以外にいないのだからな」
ニヤリと、まるで絵になるような綺麗な笑みを向ける彼に、彼女はポポポと顔を赤くしていった。
なんか、こういう雰囲気好きだなー。
「すごい自信ですね……とても愛されていて、倖せじゃないですか」
「はい……」
ワインが入ったグラスを持ちながら、小さく口をつけて話す彼女。
会話を聞く限り、彼女は灯さん。金髪の人は千景さんというらしい……
そして、長髪の彼は匡・赤髪の彼は久寿と言うようだ。
「あの、間違ってたらすみません。赤也君と会ったことのある方って、久寿さんで宜しいですか?」
「?」
首をかしげている彼に、赤也君は席が離れている海藻のような髪型をしている彼だと説明すると、小さく頷いてくれた。
「彼が、アナタと初めて逢ったような気がしないと話されていたので……」
「! そうですか……実は、私も同じことを思ってました。偶然ですね」
ニッとほほ笑む彼にもワインを薦めて、注ぎながら話に花を咲かせていった。
「実はな、俺らも"苛め"に似た現場に立ち会ったことがあってだな。そこで出逢った人が変な奴で……」
「へー、そうだったのですか……」
「ソイツ、俺らに変なあだ名付けたんだぜ?」
俺なんかキョンって呼ばれたんだ! と面白そうに笑って、懐かしみながら言葉を続ける。
「私はアマやんでしたね……」
「私はあーやんでした! 今も凄く気に入ってるんです!」
久寿さんと灯さんが続けて話をしてくれた。そんな中、千景さんだけ嫌そうな表情を浮かべていた。な、何故?
「千景はね、その人に"カゲッちゃん"って呼ばれてたんです。彼はちゃん付けで呼ばれる事に抵抗があってですね……」
「おい、聞こえているぞ」
コソッと灯さんが教えてくれたけど、ピキッと怒りマークを浮かべる彼に制されてこれ以上話を聞けなくなってしまった。うーん、残念!
話していくうちに、私も彼らに初めて会ったような感覚がないことに気付く。まるで、遥か昔に逢ったことのあるような……不思議な感覚。
「――なんか不思議ですね。初対面なのに、こんなに話しやすい人も珍しいです……」
「そう、ですか……」
「当たり前だ、貴様はこの先で俺たちと出逢うのだからな」
彼の言葉に、私は目を見開き灯さんはピクリと反応して千景さんを見た。
彼は一体、何を言っているのだろう? こうして会って会話をしているのに、まるで少し先の未来で"初めて"会話をする事を予測しているみたいだ。
「千景……! それは言っちゃ……ッ」
「別に構わないだろう。今言ったところで、秋穂は分からないのだから」
「ッ! 何故、私の名前を……」
名乗った覚えはない。なのに、何故彼は私の名前を知っている?
会社が有名だからとか、そういう問題じゃない。
「今秋穂に話したところで何も変わらん。時が来れば、嫌でも理解できる」
「あ、ちょっと……!」
「すみません秋穂さん、また会いましょう……」
申し訳なさそうに頭を下げて、席を立った千景さんを先頭に彼らはこの場から姿を消した。
灯さんも私の名前知ってたんだ……!
だからあんな嬉しそうに私に笑顔を向けて、話をしたのかな……
でも、私は彼らに会ったことがない。これは断言できる。でも、何故か感じた小さな懐かしさに私は首を傾げる。
「ん〜、謎だ」
もし、彼の言葉が本当なら。この先に待つ未来に、彼らと出逢えるかもしれない。
「ちょっと永四郎たちに話しておくかな」
ほとんど空になったワインのビンを片手に、私は自分の席へと戻って行った。
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