03

*Side 骸*


「改めて、こんにちは。沢田さん」

「ようこそ木手秋穂さん、他の方々も。お待ちしてました」


案内役として僕が名乗り出した事に疑問を持っていた沢田綱吉だったが、こうして彼女たちを連れてきてくれた事に少しだけ安堵の息を漏らしていた。

この僕の事を、快く思っていないことくらい……このイタリアの地に来た時から――あの金銅愛美を土の守護者として迎え入れた時から、勘付いていましたからね。

とりあえず、僕の任された用事は済みました。彼らに一礼し、部屋を後にする事にしよう。


(犬や千種たちは、今頃仕事から帰ってきている頃でしょう)


こんな馬鹿げた苛め騒動に、唯一仲間として心を許している彼らを巻き込むわけにはいかない。

特に半身であるクロームには、否が応でも巻き込んでいるのだから……そう遠くならないうちに犬も千種も巻き込んでしまうのは薄々分かっている事だ。

だけど、なるべく関わらせてやりたくはなかった。こんな馬鹿げた騒動、僕とクロームが解決へと導かせないで一体誰がやれというのだろうか?


(早く気付けばよいモノを……金銅の正体を……)


僕が寄せ集められる情報を分析すると、彼女は元々ボンゴレと同盟関係にある組織の娘だ。今から10年前、沢田綱吉が通う並盛中に通っていたらしい。

黒曜に通っていた僕が知る情報はこのくらいだ。ただ、クロームからの情報を聞いて耳を疑った事を思い出す。


―骸様、あの子が……自殺…しました―


あの子、というのは元々ボンゴレの土の守護者を任せようと決めていたある少女の事だ。

クロームや犬、そしてあの千種が懐いていた少女で、少なからずこの僕とも会話した事のある人物。そして、彼女に最も関わりを持っていたのが……あの雲の守護者・雲雀恭弥だった。

最初は警戒していた……あのボンゴレの一員になっているから。だが、話をしていくうちに……彼女の内に秘められた温かい何かに……惹かれた。

無性に、惹かれていったのを覚えている。そんな彼女が、校舎の屋上から飛び降りて自殺だなんて……10年経った今でも信じられない。


(どこから、歯車が狂いだした?)


あの子が死に、並盛中は一騒動が起こるかと思いきや……何事もないごく普通の時間が流れていた事にも驚きを隠せられなかった。

あの子の代わりに金銅愛美が土の守護者として迎えられたのを知ったのは、中学を卒業して三年ほどの月日が経ったある日のことだったな。

あの時垣間見た、金銅の黒い笑みを……僕は忘れることはないだろう。

そして……星野優。彼女が無実だと主張するミルフィオーレの白蘭。

彼らの手助けをしたいという気持ちが出てくるのは、過去の自分が成し得なかった"事件"を解決させたいが為なのかもしれない。


「この先は行き止まりだぞ、何処へ行くつもりだ」


ふと、低い男の声が耳に入ってきた。

振り向いた先にいたのは、窓際に寄りかかる金髪短髪の男……こんな奴、ボンゴレにはいなかったはずだ。

なら、秋穂さんの連れの人か? いや……彼女が連れていた人物たちには、胸元に紅い鳥のピンバッジが付けられている。B.B.Cの象徴とも言える代物だ。

だが、彼の服にはそのバッジが見当たらない。総合的に分析すれば、彼は部外者だというのはすぐに理解できた。だが、彼は特に何かをする様子も見せずに……ただ僕を見つめているだけ。


「そういう貴方こそ、こんなところで何をしているのですか? ここはボンゴレとボンゴレに招待された者以外の立ち入りを禁止しているはずです」

「フン……貴様ら人間が作る規則が、この俺達に通用するとでも思っているのか?」


嘲笑うかのような、上からの物言いに少しだけ眉間に皺を寄せた。紫一色の服に身を包み、深紅の瞳は揺らぐことなく目の前に立つ僕を見据えている。


「何か悩みがあるようだな」

「ッ……何故それを……」

「貴様の顔色を見ていれば一目瞭然だ。人間は分かりやすい生き物だからな」


まるで、自身は人間ではないような物言いに少しだけ疑問を抱く。

おかしい……目の前に立つ彼は、紛れもなく人間(ヒト)だ。僕らと大して変わらないはずなのに、何故彼は人外のような発言をしているのだろうか……?


「相当悩んでいるようだな……。仕方ない、一つだけヒントを残してやろう」

「ヒント、だと?」

「今から10年前、日本にある並盛という場所にある学校で苛め騒動があったのは知っているな?」

「……話だけ、ですが」


ほう? と言いながら、少しだけ感心するように言葉を紡ぐ。僕の様子をうかがいながら、彼は言葉を続ける。


「苛めの被害者と、星野優という人物の関係は……姉妹だと聞く」

「勿論知っていますよ。葬式の日に会っていますからね」

「なら話は早い、今まで聞いてきた話と姉妹関係にある彼女の話を比べてみろ。何かが見えてくるはずだ」


面白そうに笑みを浮かべる彼に、僕は目を見開いて止まりそうになっている思考を必死になって動かす。

もし、彼の言葉をヒントに辿り着いた"答え"が本当なら……たどり着いた答えが本当の"真実"ならば、この先で待っている未来は……恐ろしいモノになる。

偽られた守護者を迎え入れたボンゴレが、そう遠くならない未来に崩落する事を……目の前にいる男は知っているかのように口を開く。


「この俺が介入できるのはここまでだ。後は匡辺りにでも頼れ」

「ま、待って下さい……!」


面倒くさそうに呟き、この場から姿を消そうとする男を、いつの間にか呼び止めてしまった。

目の前にいる彼は「なんだ」と言いながら深紅の瞳を細めて見つめてくる。


「君は……いや、君たちは一体何者ですか? どうして見ず知らずの僕たちに手を貸すのですか?」


目の前にいる彼が口にした匡という男は、昨日秋穂さんと僕を鉢合わせた張本人だ。彼を知っているという事は、仲間と言う事だろう。

僕の問いかけに、目の前の彼は面白そうにクスクスと笑みを浮かべ……こう言い残した。


「我々は、秋穂の"元"依頼人だ。そしてお前にも"恩"があり、それを返しているに過ぎん。まあ、現時点でお前や奴らと我々には接点が全くないがな」

「それはどういう……!?」

「そう遠くならない未来、我々はお前達と出逢うということだ。それを忘れるな、六道骸……」


そう言い残すと同時に、目の前に立っていた彼はスゥッと姿を消した。

霧の術者かと思ったが、その線は薄いだろう。術者がこのボンゴレに侵入してきたら、真っ先に僕が反応しているから……


「一体、何者なんですか……?」


名前の名乗らずに、目の前から消えた金髪短髪の深紅の瞳を持つ男を脳裏に浮かべ……外を見つめた。


「不思議な、人達……ですね」


彼が残してくれた重要なヒントを頼りに、僕はもう一度歩きだそう。

この先に待つ運命に、経ち迎えるように……仲間と共に、頼れる『紅い鳥』に……声をかけて、助けてもらおう。もう二度と、悲しい事を起こしてはならないのだから……

 


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