02
「まず最初に、元比嘉・立海メンバーと一緒に視察程度にボンゴレ本部へと向かう。そこで、社内の様子を個々で分析してほしいの。頭の回転が効く柳君・精市君に、詐欺屋の雅治君は特に念入りに周囲を見渡してほしいな。ほんの些細なほころびがあったら、すぐにチェックしてね。源一郎さんと赤也君たちには、ボンゴレ守護者に関わりのあるメンバーとの接触をしてほしい。特に雷の守護者は、組織内最年少だと聞いているから」
「了解ッス!」
「比嘉のメンバーは、特にどう行動したら良いのかとか……細かく決まっていないから、基本的に自由にしてて良いよ。私と永四朗の後を追ってきても良いし、建物内に何があるのかの探検をしても全然構わないし……」
「分かったさー」
そして、その後に待機組にはボンゴレ側の動向や噂話まで、なるべく細かい情報を集めてもらうように指示を出した。
裏稼業組は、外からボンゴレの情報を収集してほしいという事を話しておいたんだ。表と裏、そして第三者からの情報……後は、ミルフィオーレが集めたっていう情報にも目を通してもらわないと。
その情報も、何かしらの形で有効に活用できるかもしれないから……
「――以上になるかな。白蘭からは話ある?」
「ん〜、ボクからは真6弔花のメンバーを紹介したいんだけど……いいかな?」
「うん! 良いと思う。私はメンバー全員と会った事があるから良いけど、他の人達と会わせてあげてくれるかな」
そう話す私に、白蘭は小さく首をかしげる。
まるで、私がこれから何処かに出かけるかのような……そんなニュアンスの言葉を使ったせいかもしれない。
「何処か、行くのですか?」
「そっだね〜。一応ここの周辺を探索という名の散歩をするだけだよ。大丈夫、すぐ戻ってくるから」
「――気を付けてくださいね」
「分かってるって!」
後の事を永四朗に任せる事にして、私は部屋を出た。
何をしに外へ出るのか……実を言うと、ハッキリと決めていない。周辺の探索をするとか言ったけど、すでにここ近辺の情報は頭の中に入っているのだ。
なのに、何故外へ出るのか……なんとなく出たいと思ったから、細かい理由は分からない。
「それにしても、イタリアの空気は独特だな〜」
ミルフィオーレ本部から出て、大きく伸びをしてスゥ、と空気を吸う。空気なんて、何処も同じものだと思ってたけど……訪れる地によって感じ方や匂いが違うものだ。東京と沖縄が違うのと同じ、だね。
「それにしても、不思議な感じ……」
まるで、誰かに導かれるように……誰かに誘われてるかのように、私は足を動かし始める。
操られているとか、そんな感覚は全くない。もしあるとしたら、真っ先にマリーアさんが反応しているから。呪術関係には敏感だからね、あの人。
「ま、とにかく散歩だな! 散歩!」
最近は切羽詰まった仕事ばかりだから、こうして羽を伸ばしてゆっくりと道を歩くことはなかった。夜になる前までに帰ろうと心に決めながら、私は人通りの中を歩きだす。
***
*Side ???*
「やっと見つけたな〜」
「しかし、まさか本当に日本を飛び出して海外に行かれるとは……」
すぐ傍でケタケタと笑いながら話す奴らを横に、俺は目を細めて高い建物から彼女を見降ろした。
見間違えるはずがない……赤い帽子に、赤い服。背中に描かれているあの鳥の模様を持つ彼女は、数百年経った今でも簡単に思い出せる。
俺たちは、彼女に借りがあるんだ。
「でも、あの時話してくれたから……こうして先回り出来たんだと思うよ」
「ああ、そうだな」
横で話す愛する我が妻の言葉に、俺は小さく笑みを浮かべる。俺たちは、受けた恩を決して忘れはしない。たとえ、"今"の彼女が疑問を持とうともな……
「だけどよ〜、この時間帯のあいつらには俺達の事は知らないんだろ? 確か面識があるのはこの先の……」
「これ以上言うな。例えあいつ等の身に覚えがなくても、俺たちには"貸し"がある。それを今返すだけだ」
「早く、問題が終わるよう……手助けをするんだよね。千景」
「ああ、そうだ……」
少し強く吹き付ける風に身を委ね、俺たちはこの場から姿を消す……
"え? 恩? 別に気にしなくても良いのに〜。私達は『依頼』のついでって形で君たちと関わっただけだよ?"
あの時、俺達と別れる時だ。彼女は太陽のような屈託のない笑みを向けてそう言ってきたことを思い出す。
全て返しきれないくらい、多くの恩を受けたのだ。俺の願いも叶えてくれた奴に礼をするのは当たり前のことだろう。なのに、何故お前は受け取ろうとしない……?
"ん〜、そこまで言うならさ……私達の知らない場所で『恩』を返してくれればいいよ"
"貴様はそんな曖昧なモノで良いのか?"
"うん。ここからは君たちの完全な自己満足になるんだもん。それに、行動するか否かは、統領のカゲッちゃんに任せるぜ!"
グッと親指を立てて片目を閉じる彼女に、流石の俺も脱力したのを憶えている。このノリについて行けた自分を褒めてやりたいくらいだ。
"……いい加減、その俺を愚弄するような名で呼ぶな。虫唾が走る……"
"えー! 私なりの愛称なんだから、気にしないのッ!"
何を考えているのか分からない、理解不能な人間だった。だが、特殊な能力も持ち合わせている人間でもあった。
俺たちに手を貸してくれたのが彼女だから、こうして俺たちに出逢う"前"の彼女の手助けをしようと思い、里を離れて遠く離れたこの地に来たんだ。
「この服、目立つんじゃないかな……」
妻の言葉で現実に帰る俺は、来ている服を何度も見てアタフタしている彼女に笑みを浮かべる。
「特にこの地に住まう人間と差して変わったところはない。気にしすぎだ」
「そうかな……」
眉を寄せて何かを考えるそぶりを見せる我が妻は、人ごみの中消えゆく彼女の背中を見つめた。
この先、どう彼女に気付かれずに手助けをしようか……それだけを考えながら、俺たちは歩き出す。
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