02
「相変わらず、遠く離れてもオーラが半端じゃないね。秋穂の旦那様」
「あ、アハハハ……」
特に女子が多いようで、相手をするのに必死そうな横顔が見えた。りっちゃんに肘でつつかれながら、私は小さく笑う他リアクションが取れないでいる。
ふと顔を上げた彼は、私の顔を見るなり嬉しそうな笑顔を向けてきてくれる。その笑顔が好きで、私もついつい笑みを浮かべてしまうんだ。
そして、ファンの子たちをかき分けてこちらに向かってきてくれた。後ろには精市君と、越前君に国光がいる。
「遅かったじゃないですか、心配してましたよ」
「ごめん。流石に日本から飛行機で来たからさ、時間かかるんだってば……」
「それは分かっていましたが……」
両手を合わせて謝りながらそう話をすると、永四朗は私の腕を掴んで後ろから抱きしめてくれた。背中から伝わる彼の温もりが、私はとても好きだ。周りから嫉妬に近い奇声が聞こえるが、気にしないでおこう……
今回は半年以上離れていたから、永四朗の温もりが久しぶりすぎて……ずっとこうしてほしいという気持ちも込めて彼の腕に力を込めてしまう。
「んふっ、早速見せつけてくれるとは思いませんでしたよ。秋穂さん」
「!」
そう声をかけてきた人物は、私達の乗ってきた飛行機とは別の飛行機でやってきた人だ。
「テメェは……元聖ルドルフの観月か」
「お久しぶりですね、跡部君。他の皆さんもお揃いで……」
人差し指で自身の髪をいじりながら懐かしみも込めて会話に入る彼。
「観月さーん! 荷物はこれで全部ですよね?」
「ええ、そうですよ。ありがとうございます、裕太君」
そんな彼・観月さんの後ろから声をかけて走ってきたのは……不二裕太君。不二周助君の弟さんだ。
「裕太……君も、ここに来てたなんて」
「兄貴! 当たり前だろ! 俺、どうしても秋穂さんに恩返ししたいんだよ! 兄貴を正気に戻してくれた人なんだし、さ」
ギュッと握り拳を作る裕太君。彼の言う"恩返し"は、10年前の苛め騒動のことだというのは誰もが気付いた事だろう。
弟である彼でも、周助君を止める事ができなかったのだ……悔やんでも悔やみきれないのかもしれない。
「後二人はもう少ししないと来ないから、先に目的地へ行こうか」
「目的地って、確か……」
テニスバッグを背負う越前君に、私はニコッと微笑む。
「そう。イタリアを拠点にしているミルフィオーレ本部、だよ。確か迎えの人が来てくれてるはずだから……」
人差し指を頬に当てて辺りを見渡す。一応私の今の服は、裏稼業をする際に着用している赤いロングコートに赤い帽子である。
遠く離れていたとしても、コレを目印に探してくれているはずだけど……
「あ〜〜! 桔梗ー! 見つけたよ〜〜!」
可愛らしい少女の声が聞こえてきた。日本語で話す声が聞こえたということは、私が連れている人達が誰なのか分かったのかもしれない。
「秋穂〜! 会いたかったよ〜!!」
「おっと……」
ピョーン、と飛ぶように地面を蹴って私に飛びついてきた彼女は、白蘭の部下"真6弔花"と呼ばれているメンバーの一人・ブルーベルちゃんだ。
ちなみに、真6弔花のメンバーと私は面識がある。白蘭がいつもモニター越しでくだらない会話をしている時に、ついでに紹介してもらったから。
中でもブルーベルちゃんは、よく任務と言う名目で私と直接会う事があったの。でも最近会うことはなかったから、こうして話をするのは本当に久しぶりだな。
「久しぶり、ブルーベルちゃん」
「うん! 今日はびゃくらんに頼まれてお迎えに来たのー! 旦那さんは初めましてだねー!」
「ええ、初めまして」
ニコッと微笑む永四朗に、負けじとブルーベルちゃんも太陽のような笑顔を向けてくる。
「こら、ブルーベル」
「あたっ」
コツン、と彼女の頭に小さな握り拳が降ってきた。ブルーベルちゃんの後ろに立っている人は、白蘭が最も信頼を置いている真6弔花のリーダー核・桔梗さん。
「秋穂様も、お変わりないようで」
「こんな短期間で変わらないよ、私はね」
「ハハンッ! その通りですね!」
桔梗さんとブルーベルちゃんと何回か言葉を交わした後、私は皆に二人の事を紹介した。
半分驚きながらも、跡部君は白蘭が信頼している部下ということを理解したうえで桔梗さんと握手を交わす。
ブルーベルちゃんは、赤也君や凛に興味がある様子。沢山話をしてみたい、というオーラを発しているようだ。
「大体自己紹介も済んだ事だし、早く本部に行きましょう?」
「あー、そのことなんだが……」
「目的地変更、なの」
言いにくそうに桔梗さんが口を開き、唇を尖らせながらブルーベルちゃんが言葉を続けるように言う。
「変更って……じゃあ、私達は何処に行けばいいんですか?」
「びゃくらんね、今ボンゴレ本部にいるのー! 緊急会議、なんだって」
「ええ、まあ白蘭様のことでしょうから会議という名の優を返してくれないか、という話を持ちかけているだろう……」
私がイタリアに付く日にちは前もって話してあったはずなのに、彼も必死なのかもしれない。
多分、これは勘でしかないけれど……白蘭は優ちゃんって子の事が好きなんじゃないのかなって。好きな子の心配をしない男がいるわけがないもんね。
「昨日ね、ツンツン頭の奴や電気を出す銀髪や黒コートを着ている奴が来日したから、先にミルフィオーレ本部に招いてあるよ!」
「え、蛮君たちもう着いたんだ……早いなぁ……」
「何言ってるんだい? 君のお兄さんの事だ。そんなの、脅し……皆に声をかけて早めに行動したに決まってるじゃないか」
精市君、ニッコリ笑いながら背後に黒いオーラを発して言わないで……! 妙なことを言いかけたみたいだけど、隠しきれてないからね!
そんなこと、言われなくても従弟である私がよーく分かっていることだから……!!
「じゃあ、予定変更。今からボンゴレ本部に行こうか」
「ですが……」
「こんな大人数で、か?」
永四朗や国光の言う通りだ、この場にいるメンバー全員連れて行くだけで注目の的になるのは目に見えている。
ならば……
「じゃあ、私と永四朗……跡部君とうおちゃん。この四人でボンゴレ本部に行ってくるよ。他の皆はミルフィオーレアジトに行っててくれる?」
「うん、その方が良さそうだね。案内を頼んでも良いですか?」
「ハハンッ! 勿論さ! ブルーベル、先にアジトへ行ってなさい」
「えぇーー!」
ぶぅ、と頬を膨らませて怒りを露わにする彼女に、桔梗さんはポンポンと頭を撫でた。
「文句を言っては、白蘭様に迷惑をかけてしまう。分かってるだろう?」
「むー! 分かったよ〜! ちゃんと案内しますよ〜」
「すまない。宜しく頼む」
「じゃあ、皆はまた後で会おうね! 永四朗、跡部君、りっちゃん。行こう」
私の声に答えるように、三人はゆっくり頷いて歩きだす。
私達の動きに合わせるように、先導を歩いている桔梗さんは時々振り向いては私達が付いてきているのを確認していた。
目指す場所は、伝統あるボンゴレファミリーのアジト。
そこでは何が待ち構えられているのだろうか……緊張する半面、戸惑いながら永四朗に手を取られ歩きだす。
「ところで、私達が向かうって事を白蘭は……」
「知りませんよ。我々で勝手に予定を変更したに決まってるじゃないですか」
「ぅわあ……怒られない、かな?」
「平気なんじゃねーか?」
そんなことを話しながら、私達は空港を出て目的地へと足を運ぶのだった。
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