02

 

―ラン♪ ランラン♪ ランランランランラーン ビャクラーン♪



目と口しか付いていない黄色い丸い物体が無数に出てきて、一ヶ所に集まり『ばびゅーん』と大きな爆発音のようなものを発する。

その中から出てきたのは、白い髪の二頭身キャラだ。このキャラがとても愛らしくて、思わず「可愛い」とぼやいてしまった……


『ハハハハハハッ!! どう? 面白かったかい?』


二頭身キャラと入れ替わるようにパソコン画面に映し出されたのは、パフェを食べる私の常連さん。現在、イタリアを拠点に動いている組織のボスである……


「もう白蘭、こっちはそんなに暇じゃないんですから……また私のパソコンに入り込んで……」

『だって僕が退屈だったんだもの、遊びに来ちゃった』


パフェ用のスプーンを口に銜えながら話をしている彼は、白蘭。ミルフィオーレと呼ばれるマフィアの頂点に君臨しているボスだ。でもね〜、この人……ボスっぽく見えないんだよね。

先週だって、モニター越しだったけど部下の人に『明日の会議の資料できてますか!?』って言われてたし……


「こっちは忙しいんですけど……」

『そっか♪ そろそろ永四朗クンの試合が始まるもんね。ちなみに僕も同じ番組見てるから』


分かっているなら何で連絡を入れたのさ! でも、彼にしてはとても珍しい時間帯に回線を繋いだな、て思った。

白蘭は基本的にフリーダムな人ではあるが、これでもマフィアのボス。とても忙しい人なのだ。

その人が、こんな時間に一般の回線を使わないでわざわざ連絡を入れてきたという事は……なにか大事なことでも起きたのだろうか?


「……で? 私をおちょくる為に特殊な回線を使ってテレビ電話を繋いだわけじゃないでしょう、緊急なことでもあるのですか?」

『流石秋穂チャン。頭の回転が速くて助かるよ』


食べ終えたであろうパフェの容器を横に置き、瞳を細めた。こういう表情になる時は特殊な話に限られるから、少しだけ緊張するな……


『確か秋穂チャンが支店長を務めている"Bloody Bird Company"ってさ、主に苛めに関して問題解決している会社でしょ?』

「ええ、そうですよ。全国に事業が拡大しているおかげで、国内の苛め問題は解決されています」


現在、B.B.Cは社長の跡部君を筆頭に、りっちゃんや氷帝・青学・立海の元テニス部メンバーが集まって事業を支えている。

神奈川支店の店長はテニス界でも有名な源一郎さんが担当しているはずだ。立海メンバーはいつもと変わらず騒がしい、と以前の電話で話をしてくれたっけ。

雅治君は、あの時と変わらず詐欺屋を営んで毎日を過ごしているそうだ。テニスをする、という道があったのにも関わらず、彼は裏稼業に専念すると宣言していた。

本社がある東京には、副社長に日吉若君を迎えて元メンバーがそれぞれの部署で活躍してくれている、とりっちゃんの手紙にも書いてあったことを思い出す。

確かこの前、大阪に在住している侑士君の従弟さんを入社させたって話を聞いた気がする。他に、千葉の方でも何人か仕事仲間として入社させたんだとか。共通しているところといえば、皆テニスプレイヤーだということ。近々紹介してくれる話になっている。

そして裏新宿は、昔と変わらずロウアータウンをMAKUBEX君が統括しているそうだ。笑師君は新しく士度君の知り合いの亜紋(あもん)さんという人とタッグを組んでお笑い業界を目指しているとか。近々テレビ出演するというメールが入ってたから、忘れないうちに予約録画の準備をしないといけないな……

三代目Get Backersである蛮君と銀ちゃんはというと、いつもと変わらない万年金欠生活を送っているんだって。時々私がお金を送っているからなんとか生きてはいるけど……

従弟の蔵人兄さんは、行動範囲を関東に限定してたけど少しずつ拡大させてるみたい。最凶最悪の名は、いろんな場所に広まっているようだ。


「――苛めは、憎しみと悲しみしか生みません。後悔したところでなにも生まないのは明白……だから跡部君は会社を立ち上げたんですよ」

『キミの通り名を使っているという所を見ると、昔に大きな事件が起きて……キミが解決した。といったところかな?』

「まあ、そんな感じですが……詳しいことは調べれば分かると思いますし、それがどうかしましたか?」


今から10年前、りっちゃんが自殺未遂を起こしたあの事件のことを思い出しながら白蘭に話す。

テレビの方を見ると、もう永四朗と精市君の試合が始まっていた。あ、今永四朗が1セット取った。


『キミにしか……頼めないんだ』

「白蘭……?」


さっきとは打って変わった焦り様に、私は言葉を閉ざす。


『お願い。彼女を……優を助けて……! このままじゃ、僕の眼が届かないところで死んじゃうよ……!!』

「え、あ、ちょ……」


優、という人物がどんな人かは分からない。でも画面越しで必死になって話をする彼を見て分かった事が一つ……その名前の人物は、白蘭さんにとってとても大切な存在だということ。


「落ち着いてください白蘭、詳しい依頼内容が分からないのでなんとも言えませんが……内容によって、対処しましょう」

『いいよ。何でも聞いて、一応こっちからの依頼は……』


その後、端的に白蘭さんは今回の依頼内容を話してきてくれた。

助けてほしい人物は、星野優さん。私より三つくらい年下の女性。現在、日本でも有名なマフィア・ボンゴレファミリーへの招待状が届いた事を理由にボンゴレ本社へ向かう。

そこを拠点にして仕事をこなしているのだが、急に連絡が取れなくなったんだとか。

現在のボンゴレとミルフィオーレは、信頼関係は固くお互いの部下を取り変えてはそれぞれの欠点を指摘し合い、共に急成長を遂げている組織たちだ。

私も、ミルフィオーレ以外にボンゴレからも何件か依頼されて遂行した事があるから大体の人数や組織関係は知識として入っている。


「それで、"助けてほしい"というのは……どういう意味で?」

『そのままだよ。信じられないけど、ボンゴレ内部で苛めが起きているみたいなんだ……優をターゲットにしての、ね』

「そう、ですか……」


目線をパソコンのモニターとテレビと、交互に移しながら私は返事を返す。

テレビの方はと言うと、緊迫した雰囲気に包まれている。永四朗がかろうじてリードしているが、精市君がどう反撃してくるかが見物になっているようだ。


「主犯は分かっているのですか?」

『モチロン。証拠も揃えて、前に一度ボンゴレに声をかけて優を返してもらおうとしたんだけど……』

「失敗に終わった、と」

『そうなんだ……今のボンゴレはおかしいよ。ライバル会社としては、前のような環境に戻してあげたいんだけどね……』



―比嘉も、氷帝も、中学時代からある一致団結して皆で笑いあえていたはずのライバル校のテニス部を昔に戻してあげたいだけ―



白蘭さんの言葉を聞いて脳裏をよぎったのは、10年前の合宿で私が皆に言った言葉の一つだった。

証拠も揃って、持ちかけようと動いたが認めてもらえず、途方に暮れている白蘭。そんな中、私の事を思い出してくれたのだろう。

紅い鳥―Bloody Bird―の存在、そして私の通り名を使った会社の存在を……


「私一人では流石に限度があります」

『そう、か……』

「ですが、あの時のメンバーを連れて行っても良いと許可をくれるのならば……引き受けましょう。その依頼」


私の言葉に、沈ませていた顔をバッと上げた。絶望に似たような表情に、わずかだが光が宿ってきている。


「とりあえず、こちらの会社に資金してくれている額を少しだけ多くするだけでお受け致しますが、どうされますか?」

『モ、モチロン! 彼女を助けだせるのなら、何でもしてあげるよ! だけど、あの時のメンバーって……聞いても良いかい?』

「構いません。今から10年前、この会社ができるきっかけとなったある事件のことですし……一応連れて行きたいメンバーは……」



私は、通話状態を維持しながらカタカタとパソコンのキーボードを打ち始めた。

あの時のメンバー全員の名前と、裏会社繋がりで手助けをしてくれたメンバーの名前を書きだし、保存したデータを彼のパソコンに転送する。データを受け取ったであろう白蘭さんは、名前のリストを見て目を見開かせていた。

まあ、人数多いしね。驚くのも無理はないかもしれない。


「ちなみに、星野さんが現在いる場所は?」

『ボンゴレ本部……イタリアさ』

「ならば、今送ったデータに書かれているメンバーを連れてイタリアに向かいます。宿泊先の提供も、一緒にお願いしてもよろしいですか?」

『モチロンさ! 待ってるからね!』


ピッと音を立てて通信が切れた。あんなに安心しきった白蘭さんの顔を見たのは初めてだ。

それほど、向こうの状況は深刻化しているという事なのだろうか……?


「なんで、人間は同じようなことをやっているんだろうね」


哀しく呟きながら、空を見つめる。

先程まで天気がよく晴れ渡る大空が広がっていたが、今は分厚い雲に隠れて暗くなっていった……


「さーてと、跡部君たちに連絡を入れなきゃいけないな。後、永四朗にも……」


試合が終わったことを知らせるテロップが流れているテレビを消して、私は携帯電話を手に立ちあがる。

10年前のような悲劇を、海外で起こさないようにする為に……依頼されたからには、こなしましょう。確実に。依頼人の笑顔が戻るまで、全力を尽くす。それが……『B.B.C』の大きな会社目標の一つだから。

 


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