最終章

*姫条Side*

あれ以来、俺らの関係に発展はあったのかなかったのか……いまいちピンときていなかった。

何故なら、普段通りの日々を送っているからなんや。

こんなグダグダしてたら、あっという間に卒業してしまうやないか!

せやかて、こんな俺でも……ええんやろか?

今になってそんなことを思うようになってしもた。


「あ〜〜、アカンアカン! こんなん俺らしくないで!」


昼休みの屋上。

珍しく一人で寝転がりながら叫んだ。幸い、今日のこの時間は誰もいなかった。

昼休みやのに、珍しいこともあるもんなんやな。

気持ちを伝えるって、こんなに難しいことやったか? ちゃうやろ?

いつものように声をかけて、言葉として伝えればエエやないか。何で小難しく考えてるんや。俺……

訳がわからんわ……


「眉間にしわを寄せて、何を考えてるんです?」

「お前には関係あらへん。どっかいってくれ」

「ほう? 関係ない、ねえ?」

「……はい?」


ここにいるはずのない人物の声に気付くのに、数分かかった。

バッと横を向くと、そこにいたんは……


「お、お兄さん!?」

「遊び人で有名な姫条君でも、恋の一つにこんなにも左右されるとは……過程が楽しめて私は良いですがね」

「俺は良くないんですけど!!」


俺は起き上がってお兄さんと向き合った。

そしてよく見ると、目の前にいる彼はいつもの黒服ではなく、何故か白衣を身にまとっていた。


「こう見えても私は医者ですから、保健医としてこの学校に入ることは可能です」


あれ? 今この人、俺の考え読み取った?


「いやいやいや、ここの保健医は……」

「さあ、どうされてるでしょうね?」



クスクスクス……



不気味に笑うお兄さんに、俺は口元を引きつらせる。

この人、敵に回したらアカン危険人物No.1やで。




「それで、君はいつになったたら連れて行ってくれるのですか?」



「? 何の話や」

「私の唯一の血縁者・妹のことを言ってるのですが?」


少し寂しそうに話すお兄さんに、俺は口を閉ざしてしまう。

多分、わざわざ平日の学校の屋上に来るくらいや。大事な話があるんかと思っとったけど。


「今の君なら、秋奈を渡しても良いと思ってるんですよ。あんなにも嬉しそうで、楽しそうで、ずっと傍にいたいと願う人物だからと、彼女は話されてたから、ね。しかし、いつかはこうなることは分っていました。分っていても、認めたくないのも事実なのかもしれない……」


たぶん、お兄さん自身も難しい心境に立たされてるんやろうな。

ずっと時間を共有していた家族が、離れて行ってしまうという空虚に……


「私には新しい『家族』ができる。帰る家は一つでなくてもいいでしょう?」

「??」


まるでナゾナゾのように、俺に言葉を投げてくる。益々分らん。お兄さんは、俺の何の返事を期待してるんや?

頭の上にたくさんの疑問符を浮かべていると、面白おかしくお兄さんはクスッと笑みを浮かべた。


「単刀直入に言いますと……君の家に、秋奈を住まわせてはくれませんか?」

「んなッ!!」

「確か姫条君は一人暮らしでしたよね? 何か問題でも?」


大アリや!! 何を言い出すかと思ったら……!!


「季節は夏に近づいてきている、そろそろ夏休みも始まるでしょう? 私と彼女は、海の日に式を挙げる予定です」

「!」

「気にはしていませんが、秋奈自身は新婚の中にいるのは居づらいかと思いましてね」


ま、まあ……分らんでもない。好きな奴と結ばれて、ずっと一緒にいられる幸せは大きい。

そんな二人の中にいるんは、流石に身が持たんやろうな……


「タイムリミットは式当日の明後日。良い結果を楽しみにしてますよ」


お馴染みの笑みを浮かべ、お兄さんは屋上から姿を消した。

まさか、そのことを言う為にわざわざこんなところに来たっちゅうんか?


「……ま、気にせんとこ」


おかげで、少し自信ついたしな。

よし! 善は急げや!!


 


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