九章

*奈津美Side*

今まで秋奈の背負っていた荷物を、少しだけ垣間見た時だ。

もし同じ立場だったら、私ならやり直そうとか思わなかったんじゃないかなって。ホント、秋奈は強いよ。

話を聞いただけだから想像しかできないけど、想像以上に辛かったんじゃないかな。

そんな親友の傷に気付いた姫条も凄いと思った。

だからかな、私には手出しができない。二人の仲を、裂くような事なんて……最初からできなかったような気さえするんだ。


「あ、なつみん。貼られてるよ」


大親友の声に反応して顔を上げる。

人だかりができているけど、秋奈の順位を見るにはそんなに邪魔にはならなかった。


「あ! 校内一位! 流石じゃん!!」

「わぁ〜〜!」


目を輝かせているところを見ると、本人も凄く嬉しそうだった。


「しかも葉月と同点! やるね〜アンタ」

「へへへっ、今回は頑張ったからね」


照れながら頭をかいていると、少し離れた場所から男どもの声が聞こえてきた。


「おー! 自分らも見に来とったんか」

「あ、姫条君」

「俺なんか赤点決定。来週から地獄の補修だ……」


ハァ、と溜め息をつきながら話しているのは鈴鹿だ。コイツは相変わらずみたい……

……あれ? 姫条はなんだか嬉しそう。


「へっへー、俺も本気を出せばあんな上位にいけるんやな。もっとまじめに勉強に取り組まなアカンな」

「でしょ? 姫条君なら、やればできるって」


二人の会話に首をかしげ、私はもう一度順位表を見た。


「ッ!! ちょっと姫条! 何でアンタみたいな赤点常連が10位内にいるのよ!!」

「そら決まってるやないか、優秀な家庭教師に見てもろたおかげや」

「家庭教師って……」


信じられない……あの姫条が、学年8位なんて……


「ったく、この裏切り者!」

「何が裏切り者や。勉強に対する執念と意地があったおかげやっちゅうねん」

「これで兄さんとの約束は果たされたね」

「せや! はよ報告せなアカンな!」


報告? 私は首を傾げた。

秋奈のお兄さんって、あの黒服を着たカッコイイ人だよね?

あの人と、姫条は何かを約束してたんだ……私の知らない間に……


「さ、これからHonky Tonkに行ってテスト終了の食事会開こうよ! マスターが前もって料理とか用意してくれてるんだ!」

「お! ほんまに!?」

「なあなあ、俺も便乗して行っていいか?」

「勿論! あと、たまちゃんとか有沢さんとか誘おうよ! あ、ミズキちゃんも! 男子軍も何人か誘ってみようか!」


私が言葉を発する隙もなく、あっという間に今夜はあの喫茶店にメンバーが全員集合しそうだ。

たぶん、私も行った方が良いんだろうな……ま、行くけどね!

今日の帰り、五月蠅くなるだろうな〜。




 


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