*Side 跡部*


困った。本気で俺は困っている。

今、サクラを連れて大場邸から離れた場所にある別荘へとやってきた。必要最低限のものが完備されてる事以外、手付かずとなっている場所だ。

それで、何に俺が困っているのかって言うと……この別荘には、俺とサクラしかいない。好きだという想いを隠していた俺にとって、すぐ傍に彼女がいる事――これは拷問に近い……耐えられるかが心配だ……


「電気が通ってて、ガスも付いて……冷蔵庫の中の食べ物って使って良いですか?」

「ああ、好きに使ってもらって構わねぇ」

「分かりました! じゃ、夕飯作りますね」


綺麗に畳まれているエプロンを身に着け、台所の奥へと姿を消す。アイツ、危機感と言うものがないのか? 俺様と二人っきりなんだぞ?

ジェット機はさっき帰るように指示を出したから良いとして……さて、どうするか……


「あ、あの……跡部先輩」

「ん? なんだ?」


あれから数分。台所から顔を出すサクラは、少し遠慮がちに言った。


「ちょっと、手伝ってくれませんか?」

「別に構わなねーが、何作ってんだ?」

「ハンバーグですよ」


笑顔に誘われるように、台所へ向かうと……そこには少し大きめの銀色のボールが置かれていた。


「……で、どうすればいいんだ?」

「手を洗って、自分の食べたい大きさにお肉を手にとって丸めてください」


指示に従い、肉(と言う名の具材)を手に取る。水分も丁度良く、手にとって丸めやすい。不慣れなことだから少し慌てながらも、着々と見慣れた形のハンバーグを作っては綺麗なトレーへと置く。


「坂内って、料理とか好きなのか?」

「ど、どうしたんですか? 急に」


俺の声に、彼女はピクッと反応しながら問い返してきた。


「いや、楽しそうに作るから……」

「そりゃ大好きですもん!」


材料の分量から、全てにおいて完璧に等しいくらい他の料理が上手に出来上がっていく。料理自体やったことがない俺だったが、彼女が横でアドバイスしてくれたから……何とか下準備が終わった。


「まあ、両親は共働きで家にほとんどいないことがありますから。朝と夜のご飯は姉と当番を決めて作ってますよ」


だから慣れたのかもしれませんね。料理が上手いことを褒められて、嬉しそうに頬を染めるサクラ。なんて愛らしい……そんな彼女の反応に、俺は……――
 



―ドコッ!!!!!




「!!? ちょ、先輩!! どうしたんですか!?」


手を洗い、壁を一発殴った。こうでもしないと、自分が彼女に何かをしでかしそうで怖かったから……


(くそっ! なんでコイツはこんなに可愛いんだ……なんでこんな気持ちをこの俺様が抱かなきゃいけないんだ……! あれか? 俺様は世間で言われている"エロ親父"と同じ属性なのか!!?)


困惑している俺の心中を全く知らないサクラは、慌てながら「はわわわ……」と涙をためて困り果てていたのは言うまでもない。

今日は、ハンバーグをサクラと一緒に食べて二つに分かれている寝室にそれぞれ入って寝ることになった。こういう時、女性用の服とか置いてあることに感謝したぜ。



***



一方で……


「あ……」

「どうかした? みよ〜」

「うん……エロ親父化した跡部景吾がサクラちゃんを狙っているって、お星様からのお告げが……」

「なにその変なお告げ……」

「占いと全く関係ないお告げ来ちゃったか……」


俺らの事を心配して集まっていた花椿カレンと宇賀神みよとサクラの姉・ユズが話し合っていることを、俺たちは知らない。


 



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