*Side サクラ*


『今しーちゃん家の前にいるよ』


そう短く打ってメールを送信した。

あっという間に暗くなった空を背に、私は跡部先輩の後を追ってしーちゃんの家に着いた。高い塀に、門から見える豪邸と広い庭に圧倒される。


「これくらいの事で驚いてんじゃねーよ」

「で、ですが……やっぱり凄いです。お金持ちオーラというか、なんというか……」

「そんなんじゃ、俺様の家を見た時の反応が楽しみだな」


小さく笑う先輩に、私は「ハハハ……」と空笑いをする。

先輩の家って、どんだけ広いんですか……!

そんなことをしているうちに、屋敷の方からザワザワと騒がしくなってきた。


―バタンッ!


離れている扉から一人の女子が飛び出してきた。


「お譲様! このような時間に外へ出られては、旦那様に叱られてしまいますぞ!」


執事らしき人の声を無視して、私たちの方へと走ってくる人影。綺麗な蒼い瞳に、漆黒の黒髪を頭の上で結んでポニーテールにしている。彼女は、さっき電話口でも話した……


「しーちゃん!」

「サクラ……!」


フェンス越しに私を抱きしめ、瞳に溜まった涙を流す。ガシャンッと音を立てた事に驚きながら、私もしーちゃんの肩に手をまわした。


「ここまでどうやって着たの!? 東京から相当離れてるのに……」

「えっと、それは……」

「俺様が連れてきたんだ。在り難く思えよ」


ハッと気付いたように、しーちゃんは私の隣にいる跡部先輩を見た。


「あ、跡部君……」

「よう大場、先月ぶりだな」

「ええ、こんなに早く再開するとは思わなかったわ」

「ほ、本当は私だけで行こうとしたんだけど……すぐには行けなかったし……それで……」


声を小さくしながら頭を下げる私。そうだよ、本当なら私だけで沖縄に行こうとしてたんだもん。旅費の事とかどれだけ掛かるかあまり考えてなかったけど……


「へー、跡部君がねー」


よくよく考え、ニヤリと微笑むしーちゃん。なんか、妙なことを考えてませんか?


「まあ、今日は夜も遅いから明日おいでよ。朝は比嘉中に行った方が早いかもしれないけど」

「あ、そっか。確か部活動だったよね……テニス部の。マネージャーどう?」


私の問いに、しーちゃんはニカッと笑った。


「楽しいよ、吹奏楽部辞めた私を快く歓迎してくれたしね」


ポンポンと私の頭を優しく撫でてくれる。

その後、しーちゃんの後ろから使用人さんたちが五月蠅く騒ぎだしてきたので話は一時中断。明日に持ち越しとなった。

そして私はと言うと……


「すぐ近くに俺様の別荘がある。行くぞ」

「はい」


私の歩幅に合わせて歩いてくれる先輩に、嬉しくて……愛おしくて……そんな感情を心の中で渦巻きながら夜の沖縄の道を歩いて行った。


 



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