「出し巻き卵、美味しかった」

「うん、サクラにそう伝えておくね」


教室に戻り、サクラの作った出し巻き卵がとても気に入っているみよはいつも以上の笑顔を私に向けてくる。

私が言うのも難だけど、サクラって本当に料理が上手なんだよね。時々見習う部分もあるから、妹の力は恐ろしいって最近思っていたり。今度、綺麗な卵焼きの焼き方を教えてもらおうかな。


「そうだ、出し巻き卵のお礼……してない」

「へ? いーって、『美味しい』って言葉だけでサクラは十分だと思うよ?」

「ダメ、私が許さない。今日のサクラちゃんの運勢、占ってあげようかな……」


もう、そんなことしなくてもいいのに……

言い出したら止まらないのがみよだから、仕方がないって言っちゃえば仕方がないか……


「――ねえ、ユズ。サクラちゃんって、友達多かったりする?」

「そうだね〜、比較的多いかな。地方の友達も何人かいるみたいだし」

「地方って、とても遠いところだと何処?」

「ん〜、大阪? いやいや、沖縄……だったかな〜」


サクラの所属する吹奏楽部は、全国大会に行っちゃうほどとても強いらしい。去年の全国大会では、大阪や沖縄からやってきた選手と友達になれたんだって喜びながら帰ってきたっけ。


「やっぱり……」

「? なにが『やっぱり』なの?」

「あのね、ユズ。落ちついて聞いてね」


さっきの嬉しそうな表情とは一転変わった、強張った表情。私は思わず唾を飲み込んだ。


「どうしたの? もしかして、サクラの運勢って悪い方に行くとか?」

「違う。サクラちゃんは好調、このまま行けば友好〜好き状態になるのは間違いない」


お、跡部君との相性の事を言ってるのかな。順調みたいだぞ、頑張れサクラ!


「けどね、サクラちゃんのお友達の星の導きが……最悪」

「さい、あく?」

「ここからとても離れた場所にある星なんだけど、とても小さくなってるの。いつ消えてしまってもおかしくないくらいに……その星をずっと支えていた心強い星も、だんだん距離を置いて行ってる……このままじゃ、崩壊する」

「ほ、崩壊!?」


た、大変……!! その話が本当なら、なんとかしないといけないんじゃ!?

けれど、その星の正体が何なのか分からないから何もしてあげられない。でも……唯一分かるのは――


「その小さな星の場所って、沖縄で合ってるの?」

「多分。ここから一番遠い南の位置にあるから……」


みよの星占いは100%当たるから、早く教えてあげないと……!

そんな私の思いを裏切るように、授業開始のチャイムが鳴ったり教師がよく注意しに回ってきたりするんだよな〜。サクラに事情を伝えられないまま、放課後になってしまうのだった……



***



「ど、どうしよう……」


とうとう放課後を迎えてしまった……!


『早めに伝えてあげて、今言わないと……取り返しのつかないことになるから』


みよに言われてから数分、下駄箱で靴を履き替えて外へ出る。言おうにも、サクラは部活中だろうし……直接言わないと意味がないし……


「坂内」

「あ、設楽先輩」


眉間にしわを寄せていると、すぐ後ろから先輩が声をかけてきてくれた。本当なら嬉しい声を上げるところだけど、今の状況じゃ無理だ……


「なんだよ、考え事か?」

「ええ、まあ……」

「悩みがあるなら言え。話しか聞けないけどな」

「あ、ありがとうございます……」

「ついでだ、一緒に帰るぞ」

「はい!」


なんだか、今日の設楽先輩は優しいな……

ついこの前までは、一緒に帰ろうと声をかけても『無理、車待たせてるから』の一点張りだったのに。



―ブー……ブー……



「? おい、何か音が聞こえないか?」

「あ! 多分私の携帯です」


鞄の中からゴソゴソと音を立てながら取り出すと、ディスプレイには『サクラ』と表示されていた。


(この時間に珍しいな〜)


もしかして、今日の夕飯のメニューを聞いてくるのかな。今日の夕食当番はサクラで、今日も出る前に『なにがいい?』って聞いてきたし……


「もしもし? どうした?」

『ゴメンお姉ちゃん、今から沖縄行ってくる!』

「…………は?」


我が妹の言葉を理解するのに数秒かかった。

い、今から沖縄に!?


「ちょ、サクラいきなりどうしたの!?」

『詳しい話は後! いつものスーパーの前に琉夏先輩待たせてるから、今から向かって!』

「え、あ、ちょ……!」

『琉夏先輩、今からお姉ちゃんがそっちに向かいますから待ってて下さい! 跡部先輩、すみませんが……』


―ブチッ! ツー、ツー、ツー、……


人の話を聞かずに、サクラは勢いよく電話を切った。私はただ唖然としながら、携帯電話を見つめる。


「お、おい……どうした?」

「えっと、とりあえず……先輩はこの後用事とか……」

「? ないぞ」

「それでは、行きたいところがあるので一緒にいいですか?」

「ああ……」


と、とりあえず。さっきの電話口でのサクラの口調は異常だった。何か遭ったに違いない。しかも、さっき琉夏君の名前を言ってたってことは、どっかで彼と遭遇して一緒にいたってことだ。

とにかく、スーパーに行って待ってるであろう琉夏君から話を聞かないと……!


「お、おい! 坂内、俺を置いて行くな!」


足取りを速くしながら、私は設楽先輩と一緒に駅近くにあるスーパーへと向かうのだった。


 



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