図書館


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伝説のポケモンと人々との諍いを止めて2年後。
平和になったイッシュ地方で両親のことを探してた僕は最悪な形で父のことを知ることになった。
その後なんやかんやでカロス地方に来たんだけど。
そこは別にどうでもいいや、どうでも。
「………はぁ。」
フクジタウンの図書館で大量の本に囲まれながらため息をついた。

カロス地方に来た僕が心を惹れたのは 新たな進化 メガシンカだった。
生物として進化を終えたはずの者が更に一時的に新たな進化を遂げる……、それも一部の者しか出来ないという。
(調べずにはいられない!)
僕は早速資料を探し始めた。

「……のは、いいんだけど。」
他の物に比べ圧倒的に情報が少ないのだ。
まず、一部の者しかメガシンカすることは出来ないということ。
そして、このカロス地方で新たに発見されたということ。
最後に、メガストーンという石が必要なこと。
情報はこれだけ。更には適合する人もあまりいない。
僕の研究はどん詰まりであった。

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「あー、もー!」
探しても探しても同じようなことしか書かれていない本達にイライラが募る。
(まだ、僕の方がわかってることが多いっての!)
役に立たない本達を棚に収めながら、ハッと目にとまった見知らぬ扉。
自分で言うのも何だけれど僕は本マニアだ。
各種地方の図書館はほとんど通い詰めていて知らないことはほとんどない。
「こんなとこに戸とかあったっけ?」
鍵はかかっておらず手をかけたら簡単に開いた。
(見てない本があるかもしれない!)
期待に胸を膨らませながら僕は扉を進んでいった。

本、本、本。
進んだ先もほとんど見たことのある本ばかり。
「期待はずれだぁ…。」
期待を裏切られたことに少しだけガッカリしながら進んでいく。
あぁ、懐かしい。ミオの図書館にもこれ置いてたなぁ。
手に取ったのはシンオウの神話について書かれた本。
「記憶を奪うとか出来る奴いるのかな。」
あの頃思い出しながらふふっ、と笑う。
小さい時は怖かった気がする。今は信じてないけどさ。
本を棚に戻すと誰かの話し声が聞こえた。
(僕の他にもこんなとこまで来た人がいるんだ)
物好きもいるな、自分のことを棚に上げて物好きの顔でも見てやろうかと覗いてみる。
そこにいたのは、

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「あー、もー!」
小さい頃の僕だった。
あれ、あれれ?あれ?僕どうしたんだろ、本の読みすぎでおかしくなったのかな?
もう一度覗いてみる。
生意気そうな話し方、少しハネた水色の髪、目つきの悪い橙色の瞳。
どう見ても僕だ。何度見しても僕。
(夢でも見てるのかもしれない)
気味の悪い経験だ、そうは思っても未知との体験に心踊る僕もいる。
(話しかけてみよっかな。)
我ながら勇者である。研究者は未知と出くわすと突っ込んで行かずにはいられないのだ。

「こんにちは。」
僕は小さなボクに話しかけた。
「…何なのオマエ」
クソガキだなぁ、僕こんな可愛気無かったっけ。
そんなことを思いながらボクと向かい合う席に座る。
「カジュア、って名前だよ。」
「……ボクもカジュアって言うんだけど。」
「そっか。」
わぁ、混乱してる混乱してる。小さいボクは怪訝な顔で僕を見てる。ちょっと面白い。
「ふざけてるの?」
苛立ちの混ざった声音で僕に問いかけるボク。
「別にふざけてないよ?カジュアくん。」
「ふざけてるよね。」
ビシッと否定するボク。……ホントこんな可愛く無かったっけ……,。
「別にいいでしょ、ふざけても。」
「ボクが腹立つから良くない。」
「はいはい、…ところで何読んでるの?」
この頃の僕が何を読んでいたか単純に興味が湧いただけ。
小さい頃のことあんまり覚えてないんだよね。……本を漁ってたことは覚えてるんだけど。
「……。」
無言で僕を睨みつけながら読んでいた本を手渡すボク。

"優しい手紙入門"
僕は思わず噴き出した。
「な、な、なんだよ!笑わなくてもいいじゃんか!」
小さいボクは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。
恥ずかしさや怒りやらが入り混じっているのだろう。よく見ると涙目だ。
「ごめん、ごめん。……僕こんなの読んでたんだ。」
「……悪いかよ。」
「別に悪くないよ。意外って思っただけ。」
目の前のボクの声は先ほどのような威勢がなくなっておりブツブツ呟いている。

「父さんと…母さんに……手紙、出したくて。」
あぁ、そうだった思い出した。
目の前の小さなボクと記憶の中の小さな僕が重なる。
あの頃のカジュアは寂しがっていたはずだ。
「そっか」
「……うん」
さっきまで喚いていたボクはすっかり大人しくなり俯いてる。
両親の名前も顔すら知らないあの頃の僕は、住所も知らないのに手紙を出そうと考えたのだ。
紙飛行機にして飛ばしたら届くはず、そう信じて。
(我ながらメルヘンチックだよなぁ…。)
俯いて喋らなくなったボクを見ながら思う。
あの時のカジュアは必死だったんだね。

「ねぇ、カジュア。」
名前を呼ぶと顔を上げる。……今にも泣きそうな酷い顔だけれど。
「……なに。」
声は震えていて涙を堪えているのがよくわかる。
だから、僕が言ってあげなくちゃ。
「カジュアの手紙、無駄じゃなかったよ。ちゃんと届いてた。」
泣きそうだった酷い顔は意味がわからなかったのか不思議そうな表情を浮かべる。
「だから大丈夫だよ。安心して。」
意味を理解してもらうつもりはないけれどボクの不安が少しでも拭えたらいい、そう思いながら言葉を紡ぐ。
「……なんだよそれ。」
「わかんなくてもいいよ。」
「全然わかんないし!」
威勢を取り戻したのだろうか、身を乗り出しながら大きな声で反論してくる。
泣きそうな自分を見るよりはずっとマシだ。
「そのうちわかるからいいんだよ。」
僕は椅子から腰を上げるとボクに背を向けながら入ってきた扉へと歩いていく。
「……ほんと何なの、君。」
不服そうな声が後ろから聞こえてくる。
僕は歩みを止めてボクの方に振り返りながら言った。
「だから、カジュアだって言ってるでしょ?」

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その後、変な顔をした小さいボクを置いて扉を通った僕は驚くことになった。
扉が消えているのだ。
怪奇現象?ミステリー?伝説のポケモンの仕業?
謎が謎を呼ぶ不思議な体験だったけれど、研究者としては心踊る経験ではあった。
あと、研究は全然進まなかった。


そうそう、あれから少し経って面白い事があったんだよね。
久しぶりに帰った実家の本棚を漁ってたら明らかに図書館から借りたままの本が出てきた。
表紙を見てまた噴き出しちゃったよね。

"優しい手紙入門"




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