わかんない


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彼女を見失って数ヶ月、痕跡一つ見つけられないまま時間だけが無駄に過ぎて行った。

脱ぎ捨てたコートを無造作に投げ捨て誰もいないリビングに独り座り込む。
もう二度と名を呼んでくれることはないのだろうか、この腕で抱きしめることは出来ないのだろうか。
零れ落ちそうなくらいの不安と焦りが俺を襲う。

「……フィー」
時折、彼女の名前を呼ばないと諦めそうになる。
もう手遅れなのではないか、心の何処かでそう思っている自分がいるのだろう。
俺は俺を現実に引き戻すため、彼女が止めてくれた行為に再び手を伸ばした。

ぬるり、ぬるり、

刃が腕を滑るたびにズキズキとした痛みが思考を冷静にしてくれる。
「…フィー、フィー」
自傷行為は愛しい彼女が俺から奪ってくれたものだった。
だから、また同じことを繰り返せば君に会えるんじゃないかって。

ぬるり、ぬるり、

手首から滴り落ちる血液に悲しんでくれる人は誰もいなくて、貧血気味の指先は徐々に冷たくなっていく。
頭の中ではわかっていても赤い線をなぞり続ける。

こんな赤い糸の先に君はいないのに。





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