若草物語 | ナノ
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  一緒に帰ろ!


最後の授業の終わりのチャイム。それが鳴り始めた途端、皆一斉に「あーー!」と解放感によるため息のような歓声をあげた。あたしもうーんと伸びをして、机の上の教科書を片付ける。今日の授業も終わったことだし、さーて、じゃあ本当の最後に、当番の場所の掃除を頑張らなくちゃね。

「おい!マリ」

すると暫くして教室にエースが現れてそう声をかけてきた。「はーい」ってあたしがそれに答えてほうきと共に振り返ると、鞄を持ってもう帰る気満々のエースがあたしを見てへへっと笑っている。

「もう終わるか?」
「もう少し」
「わーった!」

そう言ったエースはぐるりと教室を見渡しながらずんずんと侵入する。そしていつも通り、あたしの鞄を見つけ出すとそれをぐいっとひっつかんで「じゃー、待ってるな」…なんて言って、そして教室を出ていった。
別に鞄を持って行ってくれなくてもいいのになぁ。…いつもそう思ってるんだけれど、エースは「いーから!」と言って有無を言わさずそのまま行ってしまうんだ。

「ふふふ!相変わらずねぇ。エースくんは」

ナミちゃんはそして、エースのその行動にいっつもくすくすと笑って呆れたような、感心するような顔をしているんだ。「逃げられないわねェ」。そうも言って、ニヤリと弧を描いた目であたしを楽しそうに眺めた。まあ、エースはあたしの家を当然知っているから「家に置いといて」とか言っちゃえば、この後行こうと思えば彼をおいてどこへだって行けるんだけどね。財布と携帯は別のバッグに入れてあるし。


「マリ〜。助けてくれぇ〜」


ほうきやちりとりを片付けて廊下に出てみると、午前中ルフィを叱った先生が彼の首根っこをひっつかんでズルズルと容赦なく生徒指導室、通称「お仕置き部屋」に連行している所だった。あたしはあははとそれを指さして思わず笑ってしまった。「ごめん無理!」。そう言ってやるとルフィは「うえー」と見捨てられた子犬みたいな目をしてお仕置き部屋へと引きずり込まれていった。かわいそうだけれど…多分一時間はお説教が続くだろう!

「あーあ。まあ、仕方ねえわなぁ。授業抜け出してたら…。はは」

すると、背後からサボの笑いをこらえながらのそんなセリフが聞こえた。

「あー、サボ。今日は委員会なんだよね?」
そう言ったあたしに、サボはちょっとだけ残念そうな顔をしつつ「そう!毎週水曜日はどうしても集まんなきゃいけねぇ」そう言って息を吐いた。

「だから今日は一緒には帰れねえわ。全く、残念だ」
「そうだね。じゃあ、また明日!」
「今日はルフィの野郎がつかまっちまってるし…。…本当に、残念だよ」
「えー?」
「いや、いいんだ。独り言だ」

サボはそう言ってフフ…と笑うと、「気を付けて帰れよ」と言って手を振って歩いて行った。


下駄箱へ行くと、柱を背もたれにして立っていたエースが「おう!」と嬉しげな笑顔を浮かべてあたしを迎えてくれた。「待たせた?」と聞くと「全然!」と言いながら、あたしの鞄を差し出した。
「どうせならずっと持ってくれればいいのに〜」
って、冗談で言ってみると
「おう!わかった!」
…と、エースはすぐさま素直にうなずいてその手を引っ込めた。嘘だよ!と言ったけれど、彼はいいよってそのまま鞄を二つ持って歩き始めた。彼は時折妙なタイミングでものすごく優しい!

「なーんか、二人で帰るのって初めて??久しぶり??すっごくレアな気がするー」

小さなバッグだけで軽やかなあたしは、まるでスキップするみたいにして歩きながらふとその事に気がついてそう言ってみた。後ろにいるエースはへへっと笑いながら「だなー」なんて言ってる。

「たまにはいいね」
「!!…そ、そうか!?」
「だって、四人並んでたら道路からいっつもはみでそうになって危ないでしょー?ルフィなんか毎回轢かれそうになっちゃうし」
「…はー。そういうことかよ」
「んー?」
「いや何でもねえ!」


何だか少しだけ不機嫌そうなエースの声がしたけれど、振り返って首をかしげても彼は何でもないって言った。そうは見えないけどな…と思いながらそのまま二人して歩いて、そしてとあるお店の前まで差し掛かると歩みを止めた。
「ありがと!」
ここで、差し出された鞄を受け取った。

「じゃあ頑張れよ!…終わったら、メール送れよな?迎えに行くから」

このお店はあたしが高校生になって始めたアルバイトの場所、だ。マキノさんっていう素敵なお姉さんがいるカフェで、あたしはいつかここで働きたいなって思ってたから高校に入ってすぐにお姉さんに雇ってもらえるようにお願いした。そしたらちょうどウェイトレスを募集しているところだったみたいで、あたしは今晴れてそのカフェのウェイトレスだ。

「うん。あ、でも、今日はお迎えいらないよ」
「え!?何でだ!?」
「サボが終わりごろにここに寄るって言ってたから」
「ハァ!?」
「今日お母さんいないらしくて、夕ご飯食べにくるって言ってたの」

それは今日帰り際にサボが突然言ってきた。委員会に行こうとして、そして急に振り返ってにっこり笑いながら『今夜行くから』とそう言ったのだ。

「あーーークソ!あいつめーーー」
「どうしたの?…あ、もうこんな時間!じゃあ、行ってくるね!バイバイエース!」

何故だか怒り出したエースに、あたしは何でだろうと不思議だったけれど、バイト開始時間が差し迫っていることに気が付いて慌てて手を振ってカフェの中へと入った。マキノさんは窓からあたし達が見えていたのか、何故だかくすくすと笑いながらあたしを迎えてくれた。


「いらっしゃいませー!…って、あれ?エースも来たんだ。あ、ルフィも」


そしてあたしのバイト終了時間まであと一時間というところ。カランカランというドアベルの音がしてそこへと視線を送ってみれば何とそこにいたのは兄弟たち!ははは…とどこか残念そうに笑うサボの両端にはにやっとした顔のエースと、お腹がすいてしょうがない顔をしたルフィがニシシと笑って立っていた。
「結局、皆で来ちゃったよ」
なんて言うサボに、あたしは慌ててマキノさんのほうへと振り返って言った。

「大変!マキノさん、食べ物全部なくなっちゃうよ!」

それにマキノさんはあらあら、と言って苦笑した。だってこの兄弟たちの食べる量って尋常じゃないからね!!出世払い!って、そんな子供の時みたいな支払い方されたらどうしよう…とそう思いながらあたしは彼らを奥の席へと案内した。
そしてあたしのバイト終了後、あたしたちは四人並んで家へと帰った。
キキキーーーー!!「ぎゃー!」
…て、やっぱりルフィが車に轢かれそうになってるし!…どうにもこうにも、そこはいつまでっても成長しないから人間って不思議だね。


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