学校へ行く!
「おっはよーー」
私が大きな声で家の扉を叩きながらそう言うと、暫くしてガラガラと引き戸が開いてガープじいちゃんがすまなそうな顔をして現れた。「すまんなぁマリちゃん」。そう言いながら困ったように頭を掻いた。
「あのバカ、やっぱりまだメシ食っててなぁ」
「あはは!そうだろうと思ってた!」
私はじいちゃんにそう笑って言って、身体を曲げてじいちゃんの身体の向こう側にある和室を覗いた。そこには背中を少し曲げてガツガツとものすごい勢いでご飯を平らげているルフィが見える。そんなルフィの側にはからっぽになったお皿が何枚か積み重ねられていて、相変わらずのその量に私はまた笑ってしまった。
「相変わらずすごいね!」
「おふ!!マリ!!おへまらメヒくっへっはら、ひょっほまっへへくえ!!!」
「飲み込んでからしゃべらんか!!!」
「うん、わかったルフィ!」
これはもう、毎朝の恒例行事と言っていい。だから私は呆れたようにため息をつくガープじいちゃんにそっと笑って見せて、いつも通り庭を横切って縁側のほうへ進み、そこへ腰かけて庭を眺める。するとガープじいちゃんがお茶の入った湯呑を持ってきてくれるので、私はそれを飲みながらルフィがとりあえず食事に片を付けるのを待つのだ。
「はよ。マリ」
「おはようマリ」
そして、そうしていると、近所に住んでいるエースとサボが現れる。だから毎朝、あたし達の集合場所はここ、ルフィの家の庭。まだまだ真新しい制服を着込んだ二人は、そう言いながら私の両端に座った。「あいっかわらず、ルフィのメシは長ぇなあ」とか「このブレない姿勢に尊敬するよ」とか言い合う二人に挟まれて、私もまた、真新しい制服のスカートから出た足をぶらぶらさせながらそんな二人の言葉に笑った。
「おい!!ルフィ!!高校は中学校より遠いんだからな!!いつもの時間に出てりゃ遅刻するってことそろそろ理解しろよ!!」
座っている縁側から身を乗り出して和室にむかってそう叫ぶエース。それにすぐさま「おふ!!ひっへふ!!」と何事か返すルフィにああもうと言いながらエースは怒った顔をしながら庭へと立ち上がった。「…俺、先に行く」。だなんて言って、鞄をひっつかんで歩き出そうとする。
「えー。待ってあげないの?」
「いっつも滑り込みセーフな登校なんてやってらんねえよ…」
「確かに毎日がマラソン大会みたいになってるもんなぁ」
あはは。サボはそう言って優雅に笑っていた。まあ、その通りなんだけどね。高校に入ってからほとんど毎日『あと三分!!』とか言い合いながら猛ダッシュして道を四人で走っている。
「ルフィーー!!あと五秒!!!五、四、三、二、一!!はい!時間切れ!!あたし達、先に行っちゃうよ!!」
「という事らしい!じゃあな、ルフィ。お前は走ってこい」
エースがもう背を向けて歩き始めたので、私は慌てて和室のルフィに向かってそう言うと、縁側に投げ出しておいた鞄を掴んで立ち上がった。サボも同様に。
「えええーーーー!」
という悲痛なルフィの叫び声が聞こえた気がしたけれど、サボと二人でニシシとそれに笑いながら庭を歩いて道路へと出た。まあ、仕方ないよね。たまには余裕をもって学校の門をくぐりたい。
さっさと歩いているエースを先頭に、次にサボ、そして私と一列に歩いていると、暫くして背中の大分後ろの方からおおおおーーという声と共に地面をけってルフィが走ってくる音がする。
エースはもう無視して歩いていて、サボと私だけがそれに苦笑いしながら振り返った。
置いていかれた子供が血相を変えて…というそんな感じで、ひっかけた麦わら帽子を左右に揺らしながら猛ダッシュしてやってくるルフィにサボは「あはは」とまた笑って踵を返して歩き始めた。
「待ってくれええーーーーーー」
あたしは止まってルフィを待ってあげる。
だって、ルフィはあたしたち兄弟の中で一番の末っ子だからね。ルフィはあの時杯のお酒をひと舐めしかできていなかったらしいから。
「うひゃああああ!!!!追いついた!!」
ガシ!!
ダッシュして、あたしにたどり着いて、その勢いのままルフィの柔らかい手があたしの手をぐっと捕まえる。身体を曲げて、顔をうつむかせ、ぜえぜえ言いながらも、あたしの手をぎゅっと握りしめたままだ。その手は少し汗ばんでしっとりしていた。ああ、もう季節は確実に春を終えようとしている。
「はあはあ!はあはあ!!…みんな、ひでえよ!!おれ置いて行くなんて」
「ならさっさとメシ食い終わってろ!!」
するとガッコン!!とルフィの頭に振り下ろされるエースの鉄拳。あれ?さっきまで遠い先頭を歩いていたのにいつの間に戻ってきたんだろ??
「痛ェエエエエ!!」
「馬鹿が!!ほら!行くぞ!!今日は早歩きくらいですむ!!」
エースはそう言うと、ガシっとルフィの腕をひっつかんでぐいぐい引っ張った。
くすりと笑うサボの横を通り過ぎて、さっき言った通りの早歩きでエースはどんどん先を行く。
「えー!待って待って!!」
「ほらマリ!俺らも早歩きだ」
なので私とサボも彼らの背中を追いかけて小走りで学校へと向かった。
食べたりなかったのかルフィは未だに手におにぎりを掴んでいて、私たちはそれを見て笑った。
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