相合傘 | ナノ
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▽ 重たい空



次の日は空全体を覆い尽くす曇り空だった。

甲板にはやはりシャチがいて体操をしていたので、私も横に並ぶとやはり盛大に肩をびくつかせる。何よーと言いながら軽く睨むと、シャチは少し目を泳がせた後おずおずと切り出した。

「このあいだ…、カフェで…男と会ってたよな?」
「いつの日の話?」

間髪入れずにそう切り返すと、シャチは先ほどまでの困惑顔を更に更に酷いものにして「三日前だよ…」と言った。


「違う日も…会ってたのか?」
「二日前も会ったよ」
「続けて…会ったのか??」
「同じ人じゃないよ。別々の人なの。ふふふ。おもしろかったぁ…てか、シャチ近く通ったなら声かけてくれたらよかったのに」


出会った人たちの顔を思い出すと笑みがこぼれた。そしてそう言うと、シャチは「声なんてかけられるかよ…」と、今度は泣き出しそうな顔をした。


「あんなふわふわな恰好をして…男と会ってたのか…。しかも二人も…」
「そう。だって、このツナギじゃシンボル入ってるから堅気の男なんて相手してくれそうにないじゃない。普通の服を着てにっこりしてれば全然ばれなかったよ。しかもね!二人とも向こうから私に声をかけてきてくれたの。すごくない?二人とも有意義な時間をくれたなあ。知識が増えたよ」
「ちちち知識…って」
「あ、そうだ。今日も出かけてくるね!!ローはもう目さえ開けなかったから許可はもらってないけどきっと起きないと思うし!ふふ!!今日はここで新しいワンピース買ったからそれを着るんだ」
「リオ〜。やめてくれよぉ〜。お前船長一筋のはずだったろう??俺らを危険にさらさないでくれよぉ〜」

何故かそう言いながらすがりついてきたシャチに、私はえー?と怪訝な顔を向けた。

「もちろんローのことは大好きだよ。…でも、これは必要だと思うんだよね。今後のためにも」
「うえーんリオ〜」
「よし!じゃあ行ってくる!留守番よろしくシャチ♪」


今にも崩れ落ちそうなシャチに私は笑顔を向けて、私は自室へと戻って花柄のワンピースを着込んだ。ピンクのリップがまたピカリと光って、鏡の中の私は普通の女の子の姿でしかも満面の笑みを浮かべて映っていた。






同じカフェの目立つ席に座っていると、今日はなんと二人組の男が声をかけてきた。
知らない人をいっぺんに二人も相手なんてできそうになくて、私は一人なんだけど…と告げるとその人達はいいじゃんと軽い笑顔で言った。見るからにチャラそうな外見と服装と喋り方。こいつ等から得られるものなんてたかが知れてそうだと直感でそう思った。なので私はしっしっと手で彼らを追い払うようにした。

「ごめん、話す気になれない」
「何だよ…。あんたこの間からずっと男物色してんだろ?ヤリてぇなら俺らが相手してやるよ」
「物色はしてるよ。けど私にも選ぶ基準があるからね。あんたらは何となく論外」
「…な…。テメェ…どういう意味だよ!」
「何も得られなさそうだもん。すっからかんに見える」
「な…!ふざけんなよ!!」

男たちの声が一際大きくなって、カフェ中に怒号が響いた。一瞬にして店内に緊張が走り、驚いたお客さんたちが一斉に私たちの方へ向く。恐々といった風にチャラい二人組を眺め、そして私へと向けられたお客さんの顔は戸惑いながらもどこか不思議な感情を含ませていた。幾人かの男性が立ち上がってこちらに近づこうとする。もしかして…助けしようとしてくれているのだろうか?

「ちょっとあんたたち…」

そう言って、体格のいい男が二人組の肩を掴もうとしている。
なんてこと!!
普通の女の子ってこういう時誰かに助けてもらえるんだ…。私は座ったまま静かにそれに感動していた。だって、こんなこと…初めてだ!


「うるせぇ!!すっこんでろ!!」


すると二人組の内の一人がポケットからナイフを取り出してその男に突き付けた。「ヒ!」という声が男から上がり、腰を抜かしたので私は慌てて立ち上がる。自分が原因で堅気に対して迷惑をかけるわけにはいかない。私は二人組を睨みつけながら「やめてよ」と言いながら近づいた。

「ああああ、危ないって御嬢さん!!離れてろ!」
「…一般人に怪我なんてさせるわけにはいかないから」
「ああ!?何言ってんだテメェ。…お前は後から切り刻んでやるよ!その服をな!ハッハッハ」
「もう…。やっぱりあんたらすっからかんな野郎ね!見た目通り!!」

私はそう言い放つと、小さく息を吐いて拳を握りしめ身構える。普段はあまりお披露目できない武術がここで役立とうとするとはなぁ…。とりあえず本気は出さないでおくよ。だって相手は海賊でも海兵でもないからね。


わーーーきゃーーーー


カフェの店内で一際大きな叫び声があがると共に、二人組は私の鉄拳にきれいに吹っ飛ばされて床へと派手に身体を打ち付けながら転がった。あ、白目むいてる。かなり手加減はしたはずなんだけど…、すっからかんな上に惰弱でもあったか…。やっぱりどうしようもない二人組だったな。


「ギャアアア!!!海賊!!!!」


あきれ顔でそんな二人を眺めていると、次の瞬間そいつらの身体が二つに割れた。サークルが広がるのとほぼ同時だった。
驚いて視線を店内入口へと向けると、そこには不穏極まりないオーラをまとわりつかせたキャプテンが、鬼哭を薙いだ、その姿勢のままでそいつらを睨んでいた。
そしてその視線のまま今度は私を睨みつけた。


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