相合傘 | ナノ
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▽ 灰色の空



いつも通りの流れでキスをして、そして裸の肌を重ねる。最初キャプテンの肌は驚くくらい冷たいのだけれど、それが段々と熱を持っていく過程に私はいつも安心し、それがいつピークに達したかは触れてみればすぐにわかる。満足しているときの声も。息遣いも。
ハァ…
と悩ましい声をあげてキャプテンが私の膝を掴んだので、私はそれを受け入れようとして…ふとその近づいた身体に掌をあてて動きを制した。キャプテンは無言で眉毛をぴくりと上げた。

「待って…」
「どうした?」
「いい…から…」

そして身を起こしながら、更に手に力を入れてキャプテンの背中を布団へと押し倒す。同時に私の身体をキャプテンの胸へと預けながら。

「…リオ?」

少しキャプテンが訝ったような顔になったので、すかさずその唇を何か言う前に塞いだ。そしてその口を離しながらキャプテンの顔を見下ろし、そして笑って言った。

「私が…上になってもいい?」

その言葉にキャプテンは一瞬目を見開いた。


それはきっと、私が自ら上になるなんて今までした事がなかったからだろう。






本日もまた少し重たい雲がところどころに浮かぶ妙な天気だった。
甲板でシャチの隣に並んで私も軽く体操をした。シャチは昨日の私の問いかけのせいで何故か私に対して警戒しているようだった。ただ単に朝の挨拶をしただけなのにギク!と肩を盛大に強張らせているのだもの。

「今日も遊びに行ってきていい?」

体操をした後、私は眠りこけるキャプテンの部屋に侵入してゆさゆさと彼を揺り起した後そう耳元で囁く。キャプテンはんーとくぐもった声を出しながらああ…と返事をし、そして目を開けるとじぃ…と寝ぼけ眼のまま私を見つめた。しばらく私を見つめ、そしてふ…と眉を小さくひそめる。


「…昨日は…なんだか…いつものリオと違ったな…」
「そう?」
「ああ……。何だか…積極的だったろ?」

寝ぼけた顔のままではあるが、ひそめられた眉はどこか心配そうな雰囲気を漂わせていた。わずかなその表情の変化でも、私にはそれの意味するものがすぐにわかる。
キャプテンは寝転んだままの姿勢で私に手を伸ばして頬を指先で撫でた。これは何かを確かめようとする仕草だ。私は安心させるように笑って見せる。

「そういうのもいいかな…と思って」
「……そう、か」
「うん」
「それだけか?」
「うん」
「…そうか」
「…じゃあ、今日も行ってくる」
「…ああ…」


そう告げると、キャプテンはふわ…とあくびをして再び目を閉じた。きっと今日は昼過ぎまで眠るだろう。私はそう思って部屋へと戻ると、チェストからまたまた大分前に買ったシフォンのスカートを出して皺を伸ばした。靴は昨日と同じでいっか。それらを着込んで、またお化粧をして、今日はきちんと梯子を使って船から降りた。
そしてまたあの店へと赴き、目立つ席へと座る。
すると暫くしてまた男性に声をかけられた。昨日とは毛色の違う人だった。またしても意図せずして現れた人物に驚くも、この人も観察してみればまあまあの及第点のような気がしたので、私はにっこりと笑い返して隣の椅子をすすめた。







日が落ちかけるころに船へと戻れば、キャプテンがいて私を見るなりニ…と笑った。それだけ。どこに行っていたんだとか、何をしていたんだとかは彼は聞くことはしない。
「ただいま!」
だからそうとだけ言うと、私はぴょんっと甲板に降り立って、手の中の荷物を急いで部屋へと置きに行く。今日は着替えにツナギを持って行っていたから、今朝着たシフォンのスカートは手にした袋の中に入っている。だからキャプテンは私がこれを着て外を歩き回っていたことは知らない。見せてあげればよかったかな?…とふと思ったけれど、まあいいか。見せる機会はまたある。


「ねえ、ロー。髪を切ってあげようか?」

荷物を置いてキッチンで暫く作業をした後、寝そべったベポを背もたれにして新聞を読む彼にそう言うと、彼は少しだけ訝しげな顔をするも私が持っていた椅子や道具たちを見れば仕方ないと言わんばかりに立ち上がり、それに腰かけた。
帽子をとって、首にケープを巻いて、櫛を通してはさみで余分な毛を切ってあげる。

「サイドを短めにしてあげるね。いつも帽子に押さえられて妙な型がついちゃうでしょ?」
「ああ…。…どうした?急に…」
「伸びてたから」
「そうか」


そう言いながら指で挟んでそこから出た毛をしゃきんと落とす。キャプテンの髪は私が定期的に切ってあげているから、腕前はまあまあだとそう思う。女子の髪を切るのと比べて、細かな技術が必要なさそうだから私の手でカットしてもそこそこ問題はない。まあ失敗してもキャプテンは常に帽子を手放さないから気にはならないよね。


「今日の夕ご飯は…、新しいメニューに挑戦してみてるからね」
「あぁ…」
「レシピを覚えたの!」
「勉強熱心だな」
「まあね」

私は意味深に笑ってみせる。ローはしばらく切り落とされていく自身の髪を見つめていたが、そういえば…と私を見上げた。

「昨日朝妙な事を言ってなかったか?あまりはっきりとは聞こえなかったが…。何とかまがいなことをする…とか言っていた」
「ああ、浮気まがい、ね」
「…は?」
「あ、動かないで!あーもう、長く切りすぎちゃったじゃない」
「お前今何て言った?」
「おいリオ!鍋煮込んでから三十分経ったぞ」
「あ!ありがとう!ロー、はいできあがり!短い毛がたくさん顔についてるから、ごめんね、それは自分ではらって」
「おい!待て…」

焦ったような口調のキャプテンだったが、私はケープを取り去ってそれをたたむと、はさみをもって急いでその場を後にした。
今回の料理は煮込んでからの作業が重要なのだ。


背後からはキャプテンの強い視線を感じたけれど、気にせず私はキッチンへと走った。


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