オッサン部屋 | ナノ
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▼ 若と姫様E


今日も若様はかっこよく…じゃなく、げんなりとした暗い顔で俯いて座っていた。とある日の午後だ。出かけていたのに(私についてくるな監視するなと散々言い含めて)早々に帰ってきた若様はハァ…と重苦しいため息を吐きながら家の外にある庭園の岩に座ってこの世の終わりみたいな顔をしていた。


「若様!どうしたの!?」
「ほっとけ…」


夫の精神状態の安定に努めるのも嫁の仕事!そう思って近づくも、邪見にそう言われる。なのでキッチンへ行って飲み物を作って持っていく。若様に「どうぞ」と言って差し出すと、彼はハァ…とため息を吐きながらコップの中身に目を向けずそれを受け取り、一口すすってブー!とそれを噴き出した。

「なんで牛乳だァ!!しかもクソ甘ぇ!!」
「だいじょうぶだよ!それわたしが毎日飲んでる特別な酪農家から取り寄せてる一本千ベリーの高級牛乳だから!なんでも飼育方法が普通と違って…」
「高ぇよ!!そして聞いてんのはソコじゃねぇ!!」
「あのね知ってる?世界中の人間が毎日ミルクを飲めば犯罪がなくなるんだって!つまり苛々がとれて…」
「俺は犯罪を犯そうとしてねぇ!!見てわかんだろうが!!!落ち込んでんだよ!!」
「その反動でヤケをおこすんじゃないかと心配して…」
「起こすか!!」

私の言葉にイラっとしながらそう怒鳴るも、手の中のホットミルクは顰め面で少しずつ飲んでいた。そんな優しい若様も素敵!私は若様の隣の岩に座ってよしよしと彼の背中を撫でてあげる。

「悩み事なら嫁に相談してみなさい」
「嫁じゃねえだろうが!!………フラれたんだよ」

いつもの突っ込みは忘れない若様。悩み事は恐らくは言ってもらえないだろうな…とそう思っていたが、彼はちょっとの躊躇いのあとそうこぼした。ええ!今何と言った!?


「フラれたって!?本当に!!女と付き合う暇あったの!?」
「あるわ!……てか、テメェの所為だ畜生が…」
「え?わたしのせい?何で?」


意外な言葉に私は思わず若様に聞き返した。若様はハァ!?とそう言った私を呆れ顔で睨む。自覚ねぇのかよ!と苛々とした口調でそう言ってくる。


「前に弁当持って来たろうが」
「うん!」
「あんとき会社の受付にいた女」
「うん!黒い髪の長いきれいな…ってもしかしてそれが若様をフった人!?」
「…そいつが、これ以上付き合えねぇって言ってきた。…あんな弁当作れそうにねぇからってな…」
「見せびらかしてくれたの!?」
「違ぇよ!!見に来られたんだよ!!そいつ驚いてたぞ!!」
「そりゃそうでしょ!!グラディウスの教えてくれた技術は中々すごいからね!!」
私は思い出した。入れたのはハートの卵焼きにちゃんと桜の花の細工をした人参とひじきやおからを入れたハンバーグとうさぎのリンゴ。ごはんには二色のそぼろ。もちろん作ったのは私。師匠の破裂せんばかりの指導がいいのか、私の料理の腕はファミリーの中でグラディウスの次にすごいと言っていい。私はふふんと胸を張る。
若様はそんな得意げな私を見てはーーーとまた深いため息を吐いた。
ミルクを飲み終えたコップをことりと私の持つお盆に乗せ、辛い…と吐き出した。

「こんなに落ち込むとは…思ってなかった…」

私は若様のその言葉にむ!!と顔を顰めた。

「許せない!」
「待て…、俺の恋愛は自由だろ…。テメェは周りが勝手に決めた許嫁だ…。俺は認めてねえんだからそんな風に勝手に怒られても…」
「その女…許せない!!!こんなに素敵な…世界一かっこいい若様をフるなんて!!信じられない!目が節穴なの!?何様なの!!そもそもどちら様なの!?」
「ちょっと待て!怒るポイントそこなのか!?」
「ちょっと話つけてくる!!取り消せって!!」
「だあああ!!待て!!何でそうなる!!てか、話がおかしくなってるぞ!」
「何で!?若様と付き合えるだけでも素晴らしくてもったいない話なのに、…なのにフっちゃったんだよ!?若様がフるならまだしも!!ありえないよ!」
「待て落ち着け。…ミナは俺が他の女と付き合っててもいいと言うのか?」
「…ん?」
「ずっと邪魔ばかりしていたろうが」
「……あれ?」
「トレーボルからもそう言われてんだろ?」
「……あ、れれ?」
「今お前が言ってる話は…だからおかしくねぇか??」
「そういえばそうね」
「だろ?……って、俺は何を言ってんだ…あああ畜生…」
「…何だか訳がわかんなくなっちゃった」
「……あああ……」


なんだか混乱してしまった中、若様は隣でまたまた深いため息を吐きながら肩を落とした。私はうーんと唸りながら頭の中を整理してこの状況をもう一度理解し直す。うん。わかったぞ。


「失恋おめでとう!私というものがいながらなんだから、当然の報いだよ!」
「うるせぇぞ!!この野郎!!」


若様はそして私の首根っこをつかんだ。
凄味のある顔で私を睨みつけ、…そして少し目を細めて眉を上げた。


「ミナ…、背…伸びたか?」


呟くようにそう言うも、すぐに気を取り直して身構えた。


ぽーーーーーーん!


そしていつも通り私はその場から庭園の端っこまで勢いよく放り投げられた。



…さっき、高級牛乳でホットミルクを作っている際、ローが現れて私は気づいた。
『ロー、あんたチビになった?』
『ハァ!??…急に何だよ!!失礼なやつだな!テメェが成長期なだけだろ!!少し年上だからってうるせぇぞ!』
『そっか成長期か〜。どうりで骨がギシギシいってると思ったよ。あとはこの牛乳のお陰かなぁ』
『クソッ!!おれにもその牛乳寄越せ!』
『誰があげるか!!去れ!チビ!!』
『チビ言うな!!!!』


確かに最近若様と並んだ時、私の顔が若様の顔にちょっと近づいた気がする。私…いい女にも近づいてるってことかな!?もっと大きくならなくちゃね!!


もっともっともっともっともっともっと!いい女になるからね!
だから待ってて若様!


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