オッサン部屋 | ナノ
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▼ 若と姫様D


若様は今日も素敵にデスクワークをこなしていた。…私はそれを少し離れた場所からこっそりと眺める。そして鳴り響いたのは十二時を告げるチャイム。途端に仕事場の少し張りつめていた空気が一気に和んで何人もの人が財布を持って立ち上がったり、伸びをしたり、何かを取り出そうと鞄をあさり始めていた。若様はそんな中フゥ…と息を吐いてゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。それを狙って私はダッシュした。


「若様っ!!お疲れ様!!」
「だーーーー!!ミナ!!何でテメェここにいるんだよ!!」


勢いよく現れた私に、若様は叫ばんばかりに驚いて私を睨みつけた。すると途端に仕事場にいた人々が私と若様を見てざわつき始めたので、若様は慌てたように私の腕をつかむとずるずると外へと連れ出す。
そのまま引きずるように廊下を歩かされ、そして隅っこにまで連れて行かれる。誰もいなくて尚且つ人目に付きにくいその場所へたどり着くと、若様は手を放して大きな大きなため息を吐いた。


「お前!!何でここに入れたんだよ!!」


さっきより小声だ。私を睨みつけながらも声のボリュームと周りの気配にはかなり注意を払っている。私はふふんと笑って答えた。


「受付の人に入れてっていったら入れてくれたよ!」
「んなわけあるか!テメェみてえなガキを易々と入れるような…って…お前まさか…」
「若様の嫁です!って言ったら入れてくれた!」
「ああああ…、まさか…畜生……マジかよ…ハアア……」


そう言うと若様はがっくりと肩を落として項垂れた。きっとお腹すいてるから余計に腹が立ったり落ち込んだりするんだよ!きっと!私は持っていた鞄をごそごそと探る。


「はい!若様お弁当!持ってきてあげたよ!それでここに来たの!」


そう言ってチェックのハンカチで包んだ二段重ねのお弁当を差し出した。ちゃんとスープジャーにアツアツのお味噌汁も入れたもんね!男は汁物好きっていうのはリサーチ済みだよ!


「弁当って!!んなもん持ってこなくていい!!わざわざ!!」
「だって、嫁たる者夫の健康に気を付けたいし…」
「嫁じゃねえええ!!なら何故朝用意しねぇんだよ!!会社に来るな!!うっとおしい!!」
「だって若様、朝早すぎるし…」
「七時出発は普通レベルだろが!!ミナの起きる時間が遅ぇんだよ!!」
「まあまあ!どうせ暇だし、持って行くくらいなんてことないし、それに会社のみなさんにご挨拶もでき…」
「せんでいいわ!!」

若様は最後にはいつものボリュームで私を怒鳴った。イラっとした顔であーーーと唸り、髪をぐしゃぐしゃと掻いて、けれど私の持つお弁当の袋はひったくった。

「…誰が作ったんだ…。礼を言っておけ」
「わたしだよ」
「嘘つけ!お前が作れるわけねぇだろ」
「作れるよ!花嫁修業してるの知ってるでしょ!?料理は一番の基本だよ!!グラディウスに教えてもらってるもん」
そう。グラディウスはあんな見た目して何を隠そう料理男子なのだ。
「でええ…、マ、マジかよ…。本当にお前が作ったのか?」
「ならグラディウスに聞いてみなよ」
「………本当なのか」

若様は腑に落ちない顔をし続けるも、私の顔をじっと見て偽りがない事がわかったのか、その後ハァ…と幾分か勢いを失くしたため息を吐きつつお弁当の包みをもう一度見つめた。

「食うよ…。せっかくだしな」

そう言ってまたため息を吐くと、あーと唸って片手で顔を覆った。私はうふふとそんな若様に笑った。

「うん!!食べてね!!みんなに見せびらかしながら食べてね!!」
「見せびらかすか!!隠れて食うわ!!」


ぽーーーーーん!


若様はそして私の首根っこをつかむと、いつも通り廊下の端へと私を放り投げた。

「残さず食べてねーー!!」

投げられながらそう言うと、若様の「さっさと帰れ!」という声が聞こえた。




…今朝、グラディウスの腕を引っ張ってキッチンで愛が爆発しそうなメニューを一緒になって考えた。
『愛妻弁当の基本はハートだろ。…ほら、こうやって切ってつないでみろ』
そしてグラディウスは卵焼きをどうやって切ればハートの形になるのかを教えてくれて、私はたくさんのハートを詰め込んだんだ。そのせいで三角コーナーは卵の殻でいっぱいになった。
『バランスというものがあってだな…』
呆れたようにグラディウスが言ったので、慌ててハートを半分取って、残りは緑黄色野菜にした。もちろんブロッコリーは入れなかったよ!
『よし…。これを食えば若も全身破裂だ』
なにそれ!怖い!毒仕込んでないし!なので私は代わりに投げキッスを仕込んでおいた。残ったハートの卵焼きはヴェルゴとロシナンテにあげた。だって初代と二代目コラソンだもんね。


帰宅した若様に飛びついて「おいしかった?」と聞くと、若様は黙ったまま空っぽのお弁当箱を私に差し出してぐしゃりと頭を撫でた。
何も言わないけれどその表情で言いたいことはわかる。
私はえへへと笑って撫でてもらった頭に触れた。

「ハートはもう散らすな…」

一言そうとだけ言われたけど、グラディウスがソーセージでのハートの作り方も教えてくれると言ったから、言いつけを守るのがいい女だって言われたけれど今回ばかりは無視しようっと♪


「あと会社に持ってくるな。作るなら朝渡せ。できねぇなら作るな。…って…ッ!…というかもう作るな!!作らなくていい!!必要ねえ!邪魔だ!!うっとうしいんだ!!」


…とそう思っていたら、自分のセリフにハッとした若様がその後いろいろと文句を言ってきた。…素直じゃないんだから!


もっともっともっともっともっと、いい女になるからね!!
だから待ってて若様!



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