オッサン部屋 | ナノ
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▼ 若と姫様C


今日も若様はかっこよく仕事をこなして家路へとついた…みたいだった。
みたい、というのは表玄関からじゃなくてこっそりと裏口から帰ってきたらしいから…だ。私はいつも帰宅時間は表玄関がよく見える窓の枠に座って若様の帰りを待っているから(その際に、ネクタイをグイグイっと緩めながら門を開ける動作がたまんない!)、今日は中々帰ってこない若様に何があったのか不安に思いつつもおとずれた眠気に負けてそのまま寝てしまっていた。

「あ…寝ちゃってたよ」

がくんと落ちた首にびっくりしながら、寝てしまっていたことに更にびっくりしながら起きた。側にはローがいて、手には毛布を持っていた。かけようとしてくれていたらしい。私はローに顔を向けた。

「今何時?」
「もう深夜一時だ」
「うそ!若様まだ帰ってきてないの!?」
「気配はしたが…」
「ほんと!?ああもう!!失敗!!」
「おい、待て!」
「うるさい!ガキは寝てろ!!」
「お、お前もじゃねーか!!ってか、今は…」

今は行かない方が…!!

というローの忠告を無視して、私は若様の寝室へ向かった。仕事から帰った夫におかえりなさいも言わずぐーすか寝てた嫁なんてありえないでしょ!?この時間ならまだ若様は起きている時間!まだ間に合う!そう思いながら若様の寝室をノックするとともに開けようとした、ら。

…ガタ!

開かなかった。奥から「ギャ!」という悲鳴が何故か聞こえた。ちょっと声の質が若様と違う気がするのは気のせい!?…というか、鍵をかけてある!…でも大丈夫、鍵はトレーボルからすでに預かっているもんね!

ガチャガチャ、カチリ、バターン!!


「若様お帰りなさいっ!!寝ちゃってた!ごめんね!!」
「んな!!クソがッ!!あああ開けやがった!!」
「…って、その人誰!?」

盛大に驚いた若様の隣には、同じように盛大に驚いた顔の女がいた。長いつやつやの髪が多少乱れて、つるりとした白い肩が布団から見える。若様はぬあーと叫びながら顔を覆っていた。若様の鍛え上げたたくましい裸の胸板が目に飛び込んできた。うーん♪うっとり!…いやいや、それよりも気になるのは隣の知らない女だ!…けれど、この状況…。…ということは…。


「テメェ…、いいからさっさとここから去りやがれ!クソォ…」
「わかりました!」

私は頷いてくるりと踵を返した。「え?」何故か驚いた若様の声がした。「…どうしたんだよ」。そんな心配そうな声もした。

「いえ、申し訳ありません。お邪魔しました」
「おい…ミナ?」

私は再び若様に身体を向けるとぺこりと二人に頭を下げてそそくさと部屋を後にする。ぱたんと扉を閉めて深呼吸をした。
これは…私すら手を出していい、口を挟んでいい世界じゃないということは教えられている…。仕方ないのだ…。私にはそれはできないから…。


「ミナ…おい!」


するとガチャリと扉が開いて若様が私をおいかけてきた。
裸の身体にローブをまとい、とぼとぼ歩いていた私の腕を強引につかむ。

「なに?」
「…いや、……何というか…いつもと態度が違うじゃねぇか…と思って」
「そうかな?」
「…いや…その…、あ!…まさか何か企んでんじゃねぇだろうな?!」
「たくらむ?」
「途中で侵入しようとか考えてんだろうが!どうせ!」
「侵入!?しないよ!!だって若様あの女と一緒に寝るんでしょ!?」
「!!おまえ!!何故それを…!……、意味わかってんのか!?」
「教えてもらったから知ってるよ!夜のソレはお前でも手を出すなって言われたもん。私はその相手はまだできないから、そればかりはあきらめろって」
「んな!トレーボルか!?あいつ…そんなことまで教えやがって…」
「仕方ない…よ。わたしはまだ面積が足りないから…」
「めめめ、めんせき!?」
「そうだよ…。若様の身体を包めるくらいまだ身体が大きくないからね!…でもだいじょうぶ!!すぐに成長するから!そしたらわたし、若様の抱き枕になるからね!!」
「ハァ!?抱き枕って…」

私は若様を見上げて笑うと、駆け寄ってぎゅう…と若様の足に抱きついてみた。ほら、まだ私はこれだけしか背が届かない。

「今は足だけしか暖められないなぁ…」
「暖める?」
「ウン!若様は寒がりなんでしょ?だから夜に女を抱き枕にして寝ることがあるって言ってたの!わたしは身体の面積がまだ小さいからそれはできないけど、もっと大きくなったらしてやれってトレーボルが…」
「ハァ!?……なんだよその教育は…」

だああ…
そう唸って若様が頭をぐしゃぐしゃと掻いた。暫くそう言って唸り続ける若様を訝しげに見ていると、がちゃりと若様の部屋のドアが開いてさっきの女が現れた。きっちりと服を着て。


「帰るわ。ありえないし。萎えちゃった」
「……あああ、クソ」


そして女は私をちらりと見てふ…と笑うと踵を返して去っていった。…あら?今までの女の去り方と違うなぁ…。香水のキツイ匂いもしなかった。そう思っていると若様の盛大なため息が頭上から聞こえた。


「クソ…。帰っちまった」
「あ、なら…わたしでよかったら、背丈が足りないけど抱き枕になろうか!?」


若様にそう言うと、彼はほんのちょっとだけ私を妙な目で見つめた。
だがすぐにブルブルっと頭を振ると、ギロっと私を睨みながら首根っこをつかんで持ち上げた。


「誰がテメェみてえなガキと寝るか!!」


ぽーーーーん!


そして私は廊下の端っこまで放り投げられた。



…あの日トレーボルは私に教えた。
『昼間の女は排除していいんだが、夜ばかりは仕方ない。それはさすがの許嫁のお前でもあきらめるんだ。いずれお前にもそれが可能となる時期が来る。その日を待つんだねー』
私はその話の意味がよくわからなかったけれど、はい!と言って頷いた。
一体「可能となる」…って何の事だろ?


「なんでその辺はシッカリ教えてねえんだよ!?」
「…いやぁ、教えてしまって『じゃあ相手になる!』って言ったら、困るだろ?んねーー?ね?そうだろ若?」
「グ…、クソ…その通りだな」


遠くで若様とトレーボルが言い合ってるのが見えた。
ああ、早く私も若様の抱き枕になりたいなぁ。早く背が伸びるように牛乳を飲みながらそう思った。


もっともっともっともっと、いい女になるからね!
だから待ってて若様!



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