オッサン部屋 | ナノ
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▼ 若と姫様I一旦完


空は快晴。一年の中で一番気持ちの良い季節とされる立夏。六曜も八卦もまた最高の今日。
私は手元にある紙をひとつひとつ取ってそれを若様の前で読んだ。若様は腕を組んでいて、サングラスの向こう側の目は閉じられている。
開いた窓から気持ちのいい初夏の風が吹いている。その風が若様の金の短髪を揺らした。緑のいい匂い。私は風で揺れる紙片の文字を読んで微笑む。

「ベビーからの手紙。…彼女婚約したんだって!サイって男。一緒に連れてくるって書いてあるよ??どんな男だろうね!楽しみ!」
「アイツのことだ…。強引グマイウェイで無理やりに自分だけ婚約したって騒いでんじゃねぇだろうな…。…てか、あいつまだ十三歳…だよな…ハァ」
「そうかもしれないね。わたしとほとんどずっと一緒に暮らしてたから。グイグイやるのが正解って思ってるもん」
「…ハァ…。…で?そっちは?」
「モネさんとシュガー。…モネさんパンクハザード支社に転勤になってたんだね…。そこから行きます…って!シュガーは自分で育てたグレープをお土産に持ってくるってさ」
「…そうか。…で、それは?」
「これはロシナンテとローの手紙。ローは持病の治療で連れて行かれる先々の病院の先生がことごとく気に入らないから、なら自分が医者になるって医学の学校に通い始めたらしいよ。あいつらしいね。…で、今日は仕方ないから参加してやるって書いてある。ロシナンテとの一方的な兄弟喧嘩は今日は休戦にしといてよ?」
「…ああそうだな。アイツらしい。ロシィのことも…今日ばかりは…許してやるか…」
「そうだよ。根に持ちすぎだよ。ちょっと背中流しの練習台を引き受けたからって。…あれからもう四年もたつんだよ?それにあれはわたしが頼んだんだし…」
「うるせえ…。いろいろと引っ込みがつかなくなってんのもあるが…、そもそも俺は二番手ってのは好きじゃねえんだよ」
「そっか」


クス…。
そう言った若様の隣で私は笑った。ちょっといつもよりうまく笑えないのはきつく巻かれた帯の所為だ。着物ってこんなにも締め付けるものなんだね。ジョーラが泣きながら着付けしてくれていたから、普通のより余計に力が入ってる気もする。


「あ!ラオG!!魂が抜けかけてるよ!!せめてあと三時間生きてよ!」
「ん?えー?何か言ったかの??」
「言った言った!戻ったし、もういいよ。グラディウスはもうケーキ作り終えたかな??楽しみ」
「キャー!ミナ超キレイじゃん!素敵っ!!」
「デリンジャー…。今日は気合入った靴履いてるね。ヒール何センチそれ?」
「当たり前じゃーん!今日はやっとバブー以外の言葉を話せる日なんだから!!ヒールは十五センチ♪」
「なんじゃそりゃ!あ、セニョール、今日はボンネットつけてないね。どうしたの?」
「つけてぇときにつけるのよ…。というか、プレゼントだ。将来産まれる跡継ぎに…つけてやってくれ」
「ウソ!!いいの!?大切なボンネットを…ありがとう!!ディアマンテもひらひらのガーランドで部屋飾ってくれて嬉しい♪」
「おうよ…。グス…。馬子にも衣装だなぁおい!」
「何それ酷い!…あ、ヴェルゴほっぺたにから揚げついてるよ。…つまみ食いしたんだね。もう…」
「してなどいない。…ああ、そうだ。俺はつまみ食いをしたんだった…」
「んねー!いい日だよ!ねーー!やっとこの日がきたんだねー」

トレーボルがいつも以上に鼻水垂らして喜んでる。…汚いわ!でも今日ばかりはそれも許そう。なんたって待ちに待った日がようやく私に訪れた。
若様は隣でずっと目を閉じている。私は彼の目の前でひらひらと手を振ってみるも、彼は頑なにそれを閉ざしたままだ。

「若様??」

私がつんつんと若様をつつくと、暫くしたのちようやく彼は目を開けた。ううう…と唸っている。歯をギリギリと噛みながら、組んだ腕をほどくとそれをぬあー!と言いながらわなわなと震えさせた。


「やっぱり夢じゃねぇ…。…待て待て待て!!!おい!この日が本当に来ちまったぞ畜生!!大安吉日開催場所の方角も完璧だときたかこの野郎!!一体何の冗談だ!?俺は今何でここにいて何でこんな恰好をしてんだ!?訳が分からねェエエ!!」
「ちょっと…、本気で言ってるの若様??今日は祝言の日で、若様が着ている物は羽織袴だよ!似合ってる♪ウフフ!」
「やっぱり現実かよ…。ハァハァ…。クソ…。俺は今パニックだ…」
「現実だよ!…もしかして…嫌なの?」


私は今日はれて十八歳になった。
小さかった背はこの五年でぐんぐん伸びて若様の肩に並ぶまでになった。ぺたんこだった胸も成長したし、足もデリンジャーと一緒になって行ったエステの甲斐あってきれいになったはずだし、髪も長く伸ばしてつやつやにしている。若様メモのとおり足と胸は隠して控えめに笑うようにしているし、お化粧も今日ばかりははっきりくっきりメイクになっているけど普段はナチュラル系。
お料理の腕はグラディウスを超えたし、掃除洗濯はベビーちゃんと並ぶくらい上手くなってるし、お茶もお花もジョーラ仕込みで師範代の腕前だし、他にもいろいろ。…だからきっといい女になっているはずだとそう思っていた。
でも隣の若様は今日、普段通りの態度をとっていたかと思えば、気が付けば苦虫をかみつぶしたような顔で現実逃避するように黙ったり、ハッと気づいて延々と今日についての文句を言ったりしている。
まだ…修行が足りなかったかな?


「まだいい女度が足りなかったかなぁ…。若様、延期しようか?」
「は!?何!?」
「んね!!何言ってんだねーー!!せっかく準備したってのにぃー!!ベヘ!」
「だって若様ちっとも納得した感ないんだもん。…どうせならお互い合意の上でやりたいじゃん。……わたし、待てるよ?」


ふー


そうため息を吐きながら言った。だいじょうぶ。待つことは慣れている。得意だ。五年間待てたんだから、あともうちょっとくらいなんてことない。だから「ジョーラ!これほどいて!!」そう言ってジョーラを呼び、この苦しいばかりの着物の帯から解放してもらおうとした。
すると、この手は一瞬にして糸がからまり動きがしっかりと止められる。かっこいい若様のかっこいい能力であるイトイト。優しい力で巻かれたその糸を引っ張って、若様は私を身近にまで寄せた。

「…待て。…待て待て…。だああ…もう…何でそうなるんだよ…。わかったから、脱ぐな。…せっかく……きれえなんだからよ…」

ハアアアー…

大きなため息をつきながらだけど、若様はそう言った。私はその言葉にぱっと気分が晴れて明るくなる。

「ほんと!?キレイ!?わたしキレイ!?」
「詰め寄るな!!キレイだキレイだ!あーキレイだ!!クソ!………きれいに…なったよ…」

最後のほうはボソっと聞こえないくらいの呟きだったけれど、都合のいい私の耳はそれをしっかりキャッチする。私はその言葉を聞いて不覚にも目が涙で潤んだ。
私、幸せだよ。今日は本当に幸せ。

「じゃあこのまま祝言あげていいのね!?わたし、今日から本当に本物の若様の嫁になっていいのね!?」
「……仕方ねえだろ!!俺にはミナがまとわりつくから他の女は全く寄ってこねえし、会社の人間にミナの顔はしっかり覚えられてるわ作る料理がうまいから何だか胃袋掴まれてるわ俺好みの女に成長しやがるわ…なんやらかんやらもう…ハァ…いろいろと納得以外できねぇとこまでもってかれちまってるんだよ……ハァ…」
「うん!」
「……想定外だ…全く……」
「やっぱり嫌?」
「……………嫌じゃねえよ
「え?聞こえない!」
「嘘つけェエエエ!!!絶対聞こえてるだろうがァアアアア!!!!何度も言うか!!!!この馬鹿野郎が!!」
「えーでもー、結局決定的なプロポーズの言葉ってものがないもんなー聞きたいなー」
「うるせぇええ!!言うか!!この状況だけで満足しやがれ!!!」
「あーあ。…はーい」

やっぱり顰め面になった若様に、私はあきらめてそう答えると部屋の窓から外を眺めた。
今日のこの日を祝ってくれる人達がぞくぞくと集まる。ベビーちゃんもいればロシナンテもいる。あ、ローってば何だか前よりずっとおっきくなってるね。


「若様見て!ロー、背が伸びてる!もうチビってからかえないよわたし。おーーい!!ロー!!」
「そういえば…ちょっと来い」


祝言の準備で控室にいたファミリーの皆は去って行って、気づけば私と若様二人になっていた。
窓から見えたローを呼ぼうとして声をあげかけた私を、突然に絡んだ糸が引っ張って私はぽすんと若様の腕の中に入った。少しだけしん…と部屋が静まり返る。
あれ?どうしたのかな?
若様がサングラスを外してじぃ…と私を見つめている。そして聞いた。


「そういえば…お前何で十八歳にこだわった?いつもあと五年待て、四年待てと言っていた」
「ああ、それ?十八歳って結婚が本当にできるようになる年齢でしょ?!法律的に。だからそれを目安にしてたの」
「…お前それ本気で言ってんのか!?男は確かに十八からだが…女は十六からできるんだ。知らなかったのかよ…」
「え!ウソ!!!じゃあ私二年損したって事!!??まさか!!やだもう!!失敗!!」

私はぎゃーと盛大に叫んだ。若様ともっと早く結婚できてたなんて!若様はそんな私にこれ以上ないほどの呆れ顔をしている。あーもう…。何でトレーボルそれを教えてくれなかったんだろ。

「二年前に戻りたい!!若様!過去に戻れる悪魔の実見つけてきてよ!!わたしそれ食べるから!!」
「そんな都合よく手に入るか!!!しかもそんな実あるわけがねぇぞ!!それに…、テメェは悪魔の実なんて食わなくていい!!!」
「どうしてよ!!私もっと早く嫁になりたい!!」
「いいじゃねえか!今日から嫁だろうが!!それで納得しやがれ!!」
「やだ!!」
「黙れ!!」

ドン!
ドドン!!


覇王色の覇気がぶつかり合う。
部屋の空気が凄まじく揺れて…、あ、なんだか遠くからバッタバッタ人が倒れる音が聞こえるな。うめき声と共に。


どうやら祝言はそんな人達が起きてからになりそう。若様の最高レベルの覇気っぽかったから…、目覚めるのはいつになるやら。


「悪魔の実…探してくれないの?」
「誰が食わすかよ…」


若様はそして言った。私はだから心の中にそれをメモした。しょうがないなあ。そういうことなら、この先永遠に実は食べないでおくよ!


「風呂でおぼれたら助けんのはお前の役目だろうが」
「うん!わかった若様!」


私は若様に抱きついた。もう引っぺがされたりしなかった。
二番手になるけど許してね♪今夜お背中お流しいたします!だから楽しみにしててね、若様!
あ…そういえば!私一個確認しないといけないことがあったんだ。


「ねえ若様?私いい女になった?」
「アァ!?…あー………、はいはい。なったなった」
「何それ!全然気持ちこもってない!ちゃんとしっかりなったって言ってよ!」
「おいテメェら式が始まるって言ってるぞ。倒れたやつ全員起こしてやったよ。カウンターショックで」
「あ!ロー、サンキュー!ねぇ若様ったら!!」
「…ハァア…もう腹くくるか…」
「ねえったら!!若様聞いてる?!」
「…行くぞミナ。もう黙ってろクソ…命令だ…」
「…夫の命令?」
「そうだ夫の命令だ」
「はい若様!」


とりあえず一旦Fin



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