オッサン部屋 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 若と姫様H

今日も若様はきっとかっこよく目覚めて、かっこよくご飯を食べて、かっこよく仕事に行っている…んだと思う。そんなふうに想像しかできなかった。私は今ファミリーの家じゃない別の場所にいる。
朝の光がどこかの倉庫の窓から差し込んだ。埃っぽいなあ。若様にはこんな所五分といさせたくない。

私は目の前で目が真っ赤に血走ってしまった男たちに「でね…」と話の続きを話そうとした。…が、そのうちの一人が「待て…」とナイフを突きつけた。

「もういい…。お嬢ちゃんの花嫁修業の苦労話しと若様とやらの魅力は充分に伝わった。まさか一晩中語られると思っていなかった」
「でもここからだよ…。わたしの許嫁としての心意気が崩壊するストーリーが始まるんだから…」
「ええ!?崩壊!?あんた、…こんなに頑張ってたのに…婚約解消されたのか!?」
「ううん。されたんじゃなくって、これからするの…。ああ、だからわたし誘拐しても意味ないよ。もうファミリーの人間じゃなくなるんだから」
「えええ!ならもうちょっと許嫁でいろよ!事態がややこしくなる」
「まあ、でもどちらにしろ、若様はわたしの事許嫁じゃないってずっと言ってたから…やっぱり初めからわたしを誘拐したメリットないかもね」
「ええええ!本当かよ!!…おいおいおい。まあでもとりあえず電話だ」


誘拐犯さん達は私の発言に慌てたようにするも、無理やりに気を取り直して電伝虫を取り出すとどこかにダイヤルを回した。そして暫くしたのちに誰かが出て誘拐犯はゴホゴホと咳をした後凄味のある声で言った。

「もしもし!お前ドフラミンゴか?こっちはお前に恨みがあるモンだ!あんたのファミリーの人間を一人誘拐してる。若様という野郎の許嫁って女だ!名前はえーと」
「ミナ」
「そう、ミナ!返してほしくばテメェが強引に結んだ契約から手を引くんだな!いいなわかったか!今からミナと話をさせてやる」

そう言って受話器を私へと向けた。
電伝虫は静かに今は口を閉ざしている。
私はふーと深呼吸をすると言った。

「若様?」
『…ああ』
「わたし…あのね。…もう疲れちゃったから許嫁やめるよ。…トレーボルにそう言っといて」
「待て!お嬢ちゃん!若様ってドフラミンゴの事かよ!それでもって今話すのはそんな内容じゃねえ!!助けてとか言う場面だ!!」
『どういう意味だ…』
「言葉の通りだよ。また前みたいにストリートチルドレンに戻る。皆との生活や花嫁修行は楽しかったけど、頑張っても意味がないって痛感しちゃったもの…」
「だからお嬢ちゃん!!怖いとか言えって!!そういう状況だっての!!」
『…』
「だからバイバイ。最後に若様にグラタン作ってあげられてよかった。…まあ一番の好物は何だったかわかんなかったけど…」
「って、もう!!何語ってんだ!!貸せ!!ってことで、今はコイツ生きてるけど契約破棄しなかったら殺してやるからな!!わかったか!」
『…殺す…だァ?』
「ああそうだ!いいか!?今日の正午までに契約破棄の連絡が来なかったら…」
『おいミナ…。テメェ、俺の代わりに今覇気使ってそいつら倒しやがれ。腹の立つ野郎だ…』
「えー…もうなんで?命令しないでよ…もうわたしはただの…」
『夫の命令だ』
「え!?」


私は耳を疑った。今何と言った??おっとっと??音??嘔吐?応答!?…よくわからない。なので「ねえ今何て聞こえた?」…と私は隣の誘拐犯さんたちに聞く。誘拐犯さんはガッチャンと電伝虫を乱暴に切って私を睨んだ。


「おい!許嫁って思われてねえって嘘じゃねえか!夫ってなんだよ!結婚してんじゃねえか!」
「うっそ!!本当にそう聞こえた!?わたしの聞き間違いじゃない??ねえ本当に夫って言ってた??」
「ああ!ああ!言ってた言ってた!だからお前には人質としての価値が十分あるよ!一番あると言っていい!」
「やったぁ!わたし今若様がらみで価値があるんだ!!ってことで、ねえねえ!!見てみて!人生で一番すごいやつ…出しちゃうよ!」
「何言ってんだお前…って…グハァ!!」

ドドドン!!!

私は思い切り彼らを睨みつけ、覇王色の覇気をバーンと出してやった。
空気の揺れがハンパない!ああ、でも若様の最高にすごいやつに比べたらまだまだ、だね。でも今までで一番爽快な気分。誘拐犯さんたちはそしてブクブク泡を吹いて倒れていった。もう、男のくせにこれくらいの覇気で倒れちゃって…本当に情けないね!


私はそしてそいつらをぽーんぽーんぽーんと倉庫から外へと放り投げた。腕力はラオGのお陰でしっかりついている。本来は掃除洗濯をきっちりこなせるように身に着けたものなんだけどね。
倉庫から外に出ると…朝日が眩しい!そして…お腹すいた!!ついでに言うと部屋から飛び出してきた状態だから履いているものはスリッパだし、お風呂も入ってないから気持ち悪い。こんな姿…若様には到底見せられないな。あ…そうだそうだ。連絡とらなくちゃ。私は誘拐犯さんたちが使っていた電伝虫をとって、リダイヤルボタンを押した。

『…俺だ』
「あ、もしもし若様?覇気使ってあいつ等のしといたよ!一発でやられてやんの!」
『…テメェは…。…おい、ミナ。今どこにいる』
「どこだろう?港の倉庫?地名わかんないや。ちょっと一人起こして聞いてみる」
『だああ!待て馬鹿野郎!お前何考えてんだよ全く!……無事か?』
「無事じゃない…」
『マジか!!何されたんだ!!クソが!!』
「…お腹すいたの…。大変だよ…。ふらふらしてきた」
『ハア!??テメェ…今聞きてぇのはそんなことじゃねえに決まってるだろうがァアアア!!』
「そうなの?でも本当に大変だよ…。だって…目の前が霞む…倒れそう…覇気使いすぎたかな」
『どんだけ本気出したんだよ!!見聞色で探してやるから待ってろ!オイ!!今から向かうからせめて意識は保ってろ!!いいな!』
「はい若様」

ブツ!!

電伝虫が乱暴に切られる音がして若様からの声はそれで消えた。私はふらふらする足で倉庫から出て倒れた誘拐犯さんたちをゆさゆさ起こした。うーん…と起き上がった彼らに何か食べ物を出せと言うと、彼らはヒィ!と情けない悲鳴を上げつつもチョコレートをくれた。ああ、おいしい!甘い!!まあ、若様のさっきの怒鳴り声に比べたら…って、今のこのチョコレートの甘さならそれに負けないくらい私の空腹をどうにかするのとどうしようもなく精神を安定させる力があるよ。うん。



「…でね!若様ったら私にね!!…」
「はい…はい…」
「くおらああああ!!!何やってんだ!!ミナ!!」

暫くして、私がどうにもこうにも抑えきれなくて、のした誘拐犯全員を起こして今一度若様の魅力について語っていた所にイトイトの力で空を飛んできた若様がものすごい剣幕で上から降ってきた。
そして開口一番そう怒鳴り、私の前で正座していた誘拐犯たちを一瞬で糸巻状態にするとそれらを隅っこへぽいっと投げた。あー。ここから話すところがメインだったのになぁ。

「若様!」
「ミナ!!テメェは…何であいつら起こしてんだよ!」
「いやぁ…、夫の魅力をもっと知ってもらおうと思って…」
「語らんでいいわ!あいつらお前を誘拐したんだぞ!?危険なやつだってことわかれよ!!アホが!……ほら、おにぎりだ」
「わー!これローがいつも朝ごはんに食べてるやつ?取ってきちゃったの?アイツかわいそ!まあいいや、いただきます!」
「座って食え!…というか帰るぞ」
「はーい!」

若様はハァ…とため息を吐くと私を腕に抱えた。私は若様のたくましい腕の中でおにぎりをほおばりつつ、空の旅を楽しんだ。風が気持ちいい。そしておにぎりがおいしい。しばらく空をスイスイ飛んで、気が付けば目の前には私たちの家。ちょっと離れただけでこんなにも懐かしいなんて。はやくベビーちゃんや他の皆と会いたいな。

「…入る前に一つ言っておくが…」

すると若様が突然に改まった口調でそう言ってきた。私はん?と若様を見上げる。あ…私はまた背が伸びたみたい。腰の位置までしかなかった私の背丈は今はもう胸に届くくらいになった。

「なあに?」
「…昨日の公園での…ことだが…」
「ああ、キスね。…もう動揺も落ち着いたよ。トレーボルがキスは挨拶みたいなもんだって言ってたのに、目の当たりにするとびっくりしちゃったんだ。ほっぺたのキスでいちいち驚いてちゃやってけないよね」
「…おお。…まあ…そうだな…。そうだあれは挨拶だ。…ガキどもにとってはあんなのでも大事になるんだな…」
「大事と言えば!若様、ついに私の事嫁って認めてくれたんだね!!夫って言ってくれたし!」

私はそして突然にそれを思い出してぱっと顔を輝かせてそう言った。う…、若様はそれに盛大に顔を歪めぐしゃぐしゃ頭を掻いている。そして慌てた口調でそれを否定してきた。

「馬鹿が!あれはあの場限りの出まかせだ!!とっさの嘘だ!ああも言わねえとテメェは素直に素早く動かねえだろうが!」
「えー!ううううう、嘘!?本当に!?わたしあの男たちに結婚おめでとうって言ってもらったのに!」
「何言わせてんだァア!!テメェは嫁じゃねえ!!結婚もしてねぇだろうが!!」
「……そんなぁ…。…嘘…。うそ…かぁ…」


若様のキツイ口調で言われたその言葉に、私は盛大にがっくりと項垂れた。…やっぱり…これが現実。…はあ。せっかく気分が盛り返したというのに、また昨日の晩みたいなどん底に戻りそうだった。…私やっぱりファミリーを抜けようかな。こんな状態でここにいても意味がないし全然幸福じゃない。
若様はすると項垂れていた私の首根っこを掴もうとして、掴みかけてその手を外す。少し驚いたような声をしていた。
「でかくなりやがって…。もうこれじゃ持ち上がらねえじゃねえか」
そう言って、かわりにぽんと頭に掌をのせた。ぐりぐりと少々乱暴に頭を撫でる。それがとっても気持ちがよくて、ゴロゴロと猫みたいに喉が鳴りそうになった。

若様は言った。
仕方なしに、といった風にも聞こえたけれど、私の耳は都合よくできているのでその部分は気のせいということにしておこう。
その言葉はどんな魔法よりもすばらしい威力を持ってして私の沈んだ心を浮かび上がらせる。ああ、若様。私幸せ!
「テメェはまだ…ただの許嫁だろうが!嫁だとか結婚だとか…言うんじゃねえよ」
うん!うん!!わたし許嫁だもんね!!嫁や結婚は…将来の話だよね!!


「それよりミナ。テメェ昨日ファミリーの血の掟を破った件は忘れてねぇだろうなぁ?制裁が待ってんぞ…。わかってんだろうな」
「う…、やっぱりしなくちゃだめ?」
「あたりまえだ…。向こう一週間の皿洗いとファミリー全員の要求を何でも一個聞き入れるんだ。早速ヴェルゴは新しい竹竿を森から取ってこいって言ってたぞ。武装硬化に耐えてよくしなるやつが欲しいそうだ」
「ヒェエエーそれ面倒くさいヤツじゃん…」
「黙ってやれ!悪いのはテメェだ!…ちなみに俺の要求は…」
「ななな、何?」


若様はニヤリと笑って言った。



「お前の作る俺の飯は…これから全部俺の好きな物にしろ。…俺の一番の好物が出てくるまで、だ」
「え!」
「ああ…あとは、グラタンのエビをもっと増やすのもいい」
「わかった!その時はローのを減らしとく!!」
「フッフッフ。ばれないようにやれよ?」
「はい若様!!」



prev / next

[ back to index ]