オッサン部屋 | ナノ
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▼ 若と姫様G

今日も若様はかっこよく町を歩いていた。ついてくるな監視するなとはいつも出かける前に言われるけど、夫の私生活の乱れは嫁が正さないといけないからね!まあ、ある程度は許さなくちゃだけど、夫の恥は嫁の恥!…あ、えーと嫁の恥は夫の恥…反対だったかな??まあいいや。とにかく若様の監視は嫁の仕事!私はそう思いながら双眼鏡で若様を眺めた。黒のシャツにネクタイ。フォーマルな格好をした若様って無条件に素敵!いやもう裸でも素敵だったんだけどね!

「若様女の趣味変わっただすやん!前は派手目が好きだったのに、少しナチュラル派に転向してるだすやんねー」
「ほんとう!ちょっと前に深夜にすれ違った人もそんなだった!どうしたんだろうね!?でもまあ美人好きなのは一緒だけど!」
「バブー♪」
「…あれだろ。遊びなら派手系、しょうらいのことを考えるなら清楚系。…そんなとこじゃねえのか」
「なるほどだすやん!若様そろそろ身を固めたいと思いはじめただすやんか!?」
「えー!でも若様にはミナちゃんが…」
「…くだらねぇ」

なんだかんだ背後で言っているベビーちゃんたちの会話はそっちのけで、私はテイクアウトした飲み物を飲みながら公園のベンチに座った若様と一緒にいる女をそっと眺めた。デートか…。私はそれを見てぶすっと頬を膨らます。前にフられたって話を聞いて思わずフった女に逆上したけど、本当は怒るべきところはそこじゃないのだ。私という存在があるのに…。そう歯噛みしながら私は双眼鏡を外した。緑が多く、身を隠す場所が多い公園なのでそれがなくても私は若様にばれない様に彼らに近づくことができている。

「ちょっとロー、これ持ってて!」
「おれに命令するな!」
「持ちなさいよロー!あんたそのジュースミナの驕り…」
「これはおれが自分で払ったの知ってるよな!?」
「ううグス…。そう…」
「まただすやん!すぐ泣くんだからもう凄んで話すのやめるだすやん!」
「バッブー!」

ローの代わりにバッファローが双眼鏡を受け取ってくれ、私はそよそよとそよ風が緑を揺らすその植え込みの影から若様を見守った。
何を話しているんだろう。胸がキリ…と痛んだ。
それにしても、本当に、女の趣味が変わった。側に座っている女は、今まで肌の露出ばかりが多かった女と比べて胸も足も隠していた。というか、ジーンズをはいている!メイクも薄くて、そして笑い方も控えめだ。私は若様メモを開いて、過去の記述に二重線を引いて消した。そして新たにそれらを書きこむ。若様の好きなタイプ変更。大人になって味覚が変わるのと…似ているのかな?生クリームより餡子が好きになるみたいに。まあ私は今断然生クリームのほうが好きだけれどね!

若様はそんな女の隣に座ってフッフッフと笑っているようだった。日差しを浴びて気持ちよさそう。…日差しなんて似合わなそうな人なのに。というか、公園デートなんて…若様どうした!?昼間からカフェでお酒飲んで女の身体の各所を触ってた人が!
若様はそして何か言って二人して笑った後、目があったその女にそっと……キスをした。「「「「あ!」」」」思わずその場に隠れていた全員で声を上げた。運よく若様にはその声は聞こえなかった。ほっとするのもつかの間、私の心は何故か盛大にざわついた。ぐっと心臓を掴まれたみたいにもなる。しかも私は茫然としてその場に立ちすくんでいた。…あれ?なんだかおかしい。


夕食のとき、いつも通り若様の隣に座って食事をとったが、不思議と胸がつかえてご飯が喉を通らなかった。大好物のグラタンなのに。ローは反対隣りで私を少しだけ心配そうに見つめていた。
「エビ…やろうか?」
そう言って、私の好きなグラタンの具材を指し示す。でも私は首を振った。エビは一人につき三匹しかないんだよ…。重要でしょ?もらうわけにはいかない。あ、そうそう。若様のグラタンはエビが五匹あるんだ。若様もグラタンのエビが大好き。だから私がそうやってわざと不公平に作ったんだ。みんなにばれない様にお皿の底に隠しているの。ふふ。私っていい女でしょ??


「おい…ミナ、残さず食えよ…。てか、お前グラタン好きだろ!?何で食わねえ」
「若様!ミナは心に傷を負っているんだすやん!!大目に見るだすやん!」
「そそそ、そうなの!ミナちゃんちょっと今大変なんだよね!?」
「ハァ?傷??お前でも傷つくことがあんのか!?」
「黙れドフラミンゴ!!こいつだって…そういう時もある!」
「何だロー。熱くなりやがって」
「バブバブバブ!!」
「デリンジャーもいつになく喋るな…。みんなどうしちまった?」
「…ごちそうさま」
「待て!おい!いただきますとごちそうさまは一緒だと忘れたか!?それがファミリーの血の掟だろうが!!」
「うるさい!!若様のスケベ!!」
「はぁ!!??」
「おいおい、ウチの戒律を破ったぞミナ…」
「スケベってなんだよ!?…もしかして!おい!お前ら…」
「…」


私は自分の部屋に飛び込むと、ドアに鍵をかけてベッドに突っ伏した。ごろんとうつぶせから仰向けになり、ポケットから写真を取り出す。それはトレーボルがくれた若様の写真。ずっと持っているからちょっとしわくちゃ。けどそこにいる若様はどんなにくたびれた紙の中にいてもカッコいい。そう。一目ぼれだった。


「許嫁なんて…。所詮言葉だけ…」


そう言ってしまうと…、何だか泣けてきた。
料理を頑張って、ダイエットして、他にもいろいろファミリーの皆から教えてもらっても、若様はずっと私じゃない違う女を追いかけている。覇王色の覇気が使えて若様とお揃いだからって、そんなの何にも関係ない。若様はだって…私を見ていないもの…。違う人に…キスしたんだもの……。私はいっつも近づいても放り投げられるばっかり。あーあ。なんだか疲れちゃった。


私はそっと部屋の窓を開けて手をかけ足をかけて部屋から外へと出た。一階だからそれは簡単。血の掟を破った私には制裁が待ってるからどっちにしろこの家には居たくない。


ぽーい!

…と部屋の中に若様の写真を投げつけた。

もっともっと……いい女になってやろうと決めてたけど、いつもそう誓ってたけど…、なんだかもうどうでもよくなっちゃうね。
ぐす…
あ、あれ?ローに睨まれたわけでもないのに、涙が出てきちゃった。ベビーちゃんより…これじゃ重症。


私はぐいっと涙を拭うと庭園を翔けて門を開けて外へ出た。
ぐすぐすどうしても流れ続ける涙をぐいぐい拭いながらあてもなく歩く。


その時だった。
私は突然現れた黒い車の中へと連れ込まれた。あっという間だった。「え!」。叫ぶ間もない。そしてそのまま目隠しされて口を塞がれて手足を縛られて椅子に転がされた。
ちょっと待って!これって誘拐!?何でまた今なの!?
そうパニくってる私に知らない男の声がかかった。首筋に冷たいものが当てられて、見えないくせにその先端から伝わる鋭い感触からそれが刃物だとわかるのは何でだろう。

「おとなしくしろ。お前、ドフラミンゴの家のモンだな。言うこと聞きゃ、殺しはしねぇ!」

…なんて、言われた。
あーもう。あーあーもう。私それどころじゃないのにな。
そしてそのまま車は走って行った。どこに行くかなんてちっともわからない。そして残念なことに今更お腹がすいてきた。…ローのエビ、やっぱりもらっておけばよかったな。




…あの日。
ずっとずっと前の話だ。
トレーボルに許嫁になれと言われて手を引かれて着いた家。写真じゃなくて本物の若様と対面したあの日のことを思い出した。

『何だこのガキは』
『捨て子だね、んねー!かわいそうな子だよ!見込みはあるんだねー。若、この子をファミリーに加えるんだねーベッヘッヘ』
『俺の意見を聞かねえのか?』
『今回はおれの意志で加入させるんだねー。許せ若』
『ふぅん…』

そして若様は私を品定めするみたいにして頭からつま先までをじっくり眺めた。そしてその後微かに笑う。いい目だ…とそう言った。

『お前を認めよう…名前は?』
『ミナ』
『歓迎するよミナ』


そう言って若様は私にとって極上のスマイルを見せてくれた。私はその時二度目の恋落する瞬間を感じた。


『腹減ってるのか?』
『うん…』
『…キッチンの場所を教えてやる。自分で作れるようになれ。料理くらい…できねぇとな。女なら』
『わかった』
『胃袋を掴めば…、男は大抵落ちるぞ…フッフッフ。将来役に立つ』
『わかった!…若様はなにがすき?』
『俺か?…そうだな』


私はそれに頷いた。最初の若様メモに、それを書いた。
「いい女であること」
若様が求めるのは、そんな人。


『いい女の作ったもんなら、何でも好きさ』




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