オッサン部屋 | ナノ
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▼ 氷と海賊女王

うるさいくらいのざわめきが小さな部屋で大きく響く。
きゃあきゃあわあわあ
どうしたらあんなにずっと喋っていられるんだろうね。そう思いながらずれた帽子を被りなおした。「まじめにやってくださいよ…」心配そうにしつつ、けれど側にいる部下はこみ上げる笑いをどうにか抑えるような妙な表情をしてそう言った。ハイハイ。仕事はきっちりやりますよ。…仕事は、ね。

「はーいはいはい。おれは氷の海賊団船長クザンだよー。あなた達の町を壊しちゃうぞー」

きゃははは!!

登場したと同時に湧き起こる笑い声。目の前に集まった子供たちは俺が登場すると「海賊だー!やっつけろー!」と、指をさしては大きな声でそう言った。

海軍をもっと身近に…というコンセプトのもと、町の学校に赴いては海軍の仕事を子供たちに教えるという行事をやり始めたのはいつからだっただろう。
身近に…という言葉は組織その物だけを対象とした意味合いかと思いきや、それは中で働く人間にも当てはめるらしく、今日子供たちに教えている「海軍の仕事その3。海賊と戦う」…をわかりやすく教えるという名目の小さな劇に、大将である俺はかり出されて海賊の船長という役割を仰せつかっている。一体配役は誰が考えたんだろうね、ほんと。
「はいはいはい。目障りな海軍はこの氷の一撃でえーい、やー、とー!」
手のひらから氷を出せば、子供たちは「わあ!!すげぇ!」と喜び、対する海兵たちに扮した中将達はその氷をおもちゃのサーベルで弾いて、そして俺を取り囲めば「捕まえた!」と大げさに叫んで海楼石の手錠をかけてきた。…それは何で本物を使っちゃうの?


劇が終わり、大喜びの子供たちを見ればいつも以上に疲労した身体も悪くないと思いつつ外のベンチに腰かけてふーと大きく息を吐く。
相変わらずきゃーきゃーひーひー騒ぐ子供たちをどうにかまとめている先生たちに、心の底から尊敬のまなざしを向けた。荒くれ海賊を相手にしているほうがよっぽどマシよ…。そう思っていた時だった。

「あ!あそこにさっきの海賊の船長がいるぞっ!」

子供の群れの中の一人がそう言って俺を指差した。するとその声がすると同時に一斉に向けられる無邪気ないくつもの瞳。「戦えー!」誰かがそう言う。するとその群れは一気に俺の側に押し寄せてきた。えー、ちょっとちょっと、もう劇は終わりよ?もう俺、帰る所よ。

「氷の玉だせー」
「おれは英雄がーぷだぞー!ゲンコツくらえ!!」
「じゃーおれはたいしょうのきざるだー!ぴかぴかキック!!」
「あたしはだいさんぼー!ザブザブ!洗うぞー!」

あらま、みなさんうちの主要メンバーをよく知ってるのね。…そう思いながら群がった子供たちの割と容赦ない攻撃を受けた。ガシガシガシ。あららら。痛い痛い。結構痛いよ。

「皆やめてー。おじさん、もうインペルダウンに行くから許してー」
「あははっ!カンゴク行きー」
「れんこーれんこー」

その時だった。
俺にかけられたのは、頭上からの澄んだ子供の軽やかな声。


「あきらめるな!船長クザン!!私も加勢する!!」


見上げれば、土管を積み重ねたアスレチックのてっぺんに腕を組んで立ち、こちらを笑って見つめる小さな少女。
「私は海賊女王!!おまえたち海兵は私がやっつける!!」
そう言って土管から飛び降りると俺に群がった子供たちに走り寄って「くらえ!」とその小さな拳でえいえいと俺の側の子供を攻撃し始めた。

「わー海賊女王だー!」
「キャッキャ!負けないぞー」
「あ!ならおれ、海賊に寝返る!!女王、今日からおれはあなたのぶかとなります!」
「うむ!みとめる!お前も私につづけっ!」
「あははははっ」


そして始まった子供たちの頂上戦争の中、小さな海賊女王は座っていた俺の側に駆け寄れば、紅潮した顔を俺の耳に寄せて素早く言った。


「わたしね、だれよりも強い海賊になるの」


あららら。じゃあ将来君は俺の敵だねぇ。
…と、そう思いつつも、まあ今の俺は海賊の船長だったという事を思い出して彼女に小さく笑い返した。


「了解、海賊女王。あきらめずに戦いましょうか」
「いいぞそのいきだ!さあ!氷の玉を出してお前も戦え!!」
「はーい。それー」
「きゃはははは!!」


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