柳に鬼の手 | ナノ
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炎暑のふたり

夏真っ盛りの遊園地。
人々はその暑さの中どんな形であれ涼を求めるのか、お化け屋敷は盛況だった。
顔をつたう汗が目に入って沁みて痛い。被り物のせいでそれを拭き取れないもどかしさに、いっそこのウサギ頭を取ってしまいたいが、今は炎天下の外野にて案内板を持ち、アトラクション案内中なのでそれはできない。
我々の身を案じてのたった十分の営業活動といえど、被り物のせいで頭から足先までがとにかく暑い!暑い!!暑い!!!

「はぁ、はぁ」

プラカードを持って隣にいる猪頭の伊之助の荒い息が微かに聞こえた。
彼も私同様相当暑いだろう。
男の子は元々の体温が高い人が多いし、だから今彼は灼熱地獄にいるような感じなのでは??「しぬ…しぬ…」。そう思っていると、あ、今にも彼の事切れそうな声が…。

バタン!

そして伊之助は倒れた。いや、意識はかろうじてある感じ。身を起こせないまでも、仕事はやり遂げようとする必死の意思があるらしく、ズル…ズル…と地面を這いつくばって落としたプラカードを取りに行こうとする彼の姿は、もはや、…猪ゾンビだ。

「うわあああ!」
「きゃあ!」
「わあ!イノシシがぁ!」

お客さんはそんな伊之助の行動を迫真の演技だとでも思ったか怖がりつつも喜んでいた。けれど、これは緊急事態である。

私は慌てて伊之助を助け起こし、どうにかこうにか彼を控え室に連れ込んだ。
極限まで冷やしてくれている部屋の椅子に彼を座らせ猪頭を取ると、そこには汗びっしょりで目を虚ろにさせた伊之助がいて。

「さくら…悪ィ、俺…」
「大丈夫!??しっかり!」

経口補水液のペットボトルを口にあてがってやると、伊之助はごくりごくり、それを飲んでハァー、目を閉じて大きなため息。

「三途の川がみえたぜ」
「戻ってこれてよかった」

冗談が言えるくらいの余力はあるようで、ホッとしながらびしょびしょの顔や頭に冷たくしたタオルをあてがった。


目を閉じてされるがままの伊之助の、その狡いくらい長い睫毛にクス、と笑った。
整った鼻筋、薄いピンクの唇。
彼は美人だ。かっこいい、と言うよりは美人。…羨ましや。ぐに。私は嫉妬心から伊之助の両頬を指でつまんで横に引っ張った。暑さでふやけているのか、なんだかよく伸びる気がした。

「ひゃにしてんやよ」
「ブサイクにしてる」
「ひゃめろよ」

いつもは威勢よく言う悪態も、バテのせいで今は迫力がない。
だけどガシ、と私の手を掴むその力は強かった。さすが男の子。そう感心しながら頬をつまむ手をとった。

「休んでてね」

私は立ち上がる。
…けど私の手を掴む伊之助の手は離れない。

「お前も休め。じゃねぇと三途の川を見るぞ」

彼のきれいな真円の瞳が真剣に私を見つめ、それは私をしっかりと捕らえて離さない。

…どきどきした。
こんなこと、初めてかもしれなかった。
私が伊之助に対してどきどき≠キるだなんて…

「二人とも大丈夫だった??!悪かったね!しばらく休憩してていいからねっ」

その時、部屋のドアが急に開いて、慌てたバイトリーダーが部屋に現れそう言った。

ドキンッ!
やましい事など何もないのに心臓がびくり、跳ね上がった。

伊之助の手は離れないままだ。