柳に鬼の手 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

ほわほわ

嘴平伊之助。
私がその異質な鬼殺隊士の差添人を命じられてそろそろ1週間が過ぎようとしていた。

通常私たち差添人は上位階級の隊士や柱の任務に同行して彼らの世話をすることが多い。しかし私が今回この新人隊士の差添を命ぜられたのは…
『その子は読み書きができないようでね。何かと不便だろうからお前がついておあげ』
そんな、御館様の御意志あってのことだった。

初めは警戒心露わにとことん私を邪険にしていた伊之助だったが、7日も経てば私が同行することについて諦めたのか頭突きされそうになる回数は格段に減った。
…否。諦める、と言うよりは。

「おいっ!今夜は何だ?」
「そうですね。昨日の魚が残っていますし、それを煮ましょうか?」

諦めるよりも役立つ存在として認めた。…その方が合っているだろう、と私は思う。
夕刻。そわそわし始めた伊之助が携帯用台所道具を取り出して夕飯の支度を始めた私に近寄って落ち着かなげにそう聞く。最近毎日こうだ。
差添をし始めてすぐの野営時。彼が取った獲物を雑に捌いて荒っぽく食事しようとする姿を見て呆れた私は彼の代わりに料理をしてあげた。
その時、私の作った物を食べた伊之助はその顔をほわっと綻ばせたのだ。
というわけで、味付けというものをあまり考えていないらしかった伊之助はその日以降仕留めた獲物は黙って私に差し出すようになっている。

「煮るのは厭だ。天ぷらにしろ!」

しかも最近はこんな風に献立に物申すことも増えていた。
しかし、天ぷら…か。
私は自分の持ち物を頭の中で思い出した。

「それは難しいです。油が足りません」
「ハァ? 」
「山菜はすぐ手に入りますし魚もありますが…。何せ天ぷらは油が大量にいる料理ですから」
「ねぇのかよ」
「すみません。必要最低限しか」

私が眉を下げると、伊之助は盛大に舌打ちした。「クソォ!」。けれど、彼は少し唸った後私の肩をがしりと掴めばイノシシの被り物の奥に見える目を爛々とさせながら「待ってろ!」、そう告げた。
ダダダーーッ!!
そしてその後荒れ狂う四足獣のごとく、この場を走り去った。…一体どこへ?私は小さくなっていく彼の背中をぽかんと見つめた。

「…」

彼が私たちの野営地に戻ったのは一刻を過ぎたころ。日はすっかり暮れて夜空には星がきらきらと瞬いていた。
伊之助はハアハアと息を切らしながら持っていた甕を私へと突き出す。

「ハアッ!藤の花のっ、家紋の家から…ッハア!もらってきたぞ!これで作れるだろ??」

何とその甕には食用の油がたっぷりと入っていた。
どうやら彼はここから村里まで走り、油をもらってここまで戻ってきたようで。

「…」
「何だっ!?テメェ!これじゃ不足か?!」
「…いえ」

私は吹き出しそうになるのをグッとこらえて甕を受け取る。
藤の花の家紋の家を訪れたなら、天ぷらはそこで頂けばよかったのでは?
…そんな思いを心の片隅に抱きながら、私は伊之助にクスリ、笑いかけた。

「ありがとうございます。すぐにご用意しましょうね」

私がそう言うと、伊之助はフンス!、荒い鼻息を吐けば食事の支度に再度取り掛かった私の傍にどすんと座った。

物が揚がっていくその匂いに鼻をひくつかせ、彼はその雰囲気をほわほわと和ませている。