柳に鬼の手 | ナノ
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図々しい女

「はぁああああー!疲れたァっ!お邪魔しまーす!!」
「…おい、待てさくら。お邪魔してんじゃねェ」

強くもないけど弱くもない鬼たちを狩りまくり、疲労困憊の私が訪れたのは不死川の家だ。
彼は数少なくなってしまった私の同期。
そんな彼は柱にまで登りつめ、かなり広い屋敷をあてがわれていた。
その屋敷は部屋数も多いし持て余してるようなので私は任務後の休息目的でよくお邪魔していた。大体が唐突に、だ。
だから彼は私を見るなり盛大なしかめ面をする。
何故藤の花の家に行かねぇんだとうるさく喚く彼の意見はごもっとも。
でも、「ここの方が近かったんだもん」。
私が羽織を脱ぎながらそう言うと不死川はハァ!?と更に怒気を含んだ声で抗議してきた。でももう私は体力の限界だった。
「布団、布団…」
刀を置いて、押入れから布団を引っ張り出す。「お前ェ!」。背中に不死川の怒声が聞こえるけど眠たくてたまらない私にもはや彼の声など聞こえなかった。

「おま…。…。…せめて着替えろよ」
「、むり」

ボスン、と敷布団に倒れこんだ私の上からため息とともに不死川の声がする。
何だかんだ文句を言って私を追い出そうとしていたけどもう諦めたんだろう。口調が変わった。

「ここは、いつも、綺麗だね。…おちつく」
「うるせぇ落ち着くな。厄介者め」

不死川ひとりが暮らしているこの屋敷はいつも片付いていた。
一応私にも階級に見合った家が与えられているのだが、どうにも掃除が苦手で部屋は散らかり放題で。
ここは綺麗で、尚且つ布団が清潔でフカフカ。
すん、と鼻で息を吸い込むと太陽の匂いがして益々落ち着くのだ。
途端に瞼が重くなって私が目を閉じれば、ハァ…、また不死川のため息が聞こえた。
でも私にとって、その不機嫌な息遣いが側にあることは安心して寝られる要素のひとつだったりする。

「怪我は…ねぇみてぇだな」

私を見下ろしているらしい不死川のそんな声がうっすらと聞こえた。
多分この後私が脱ぎ散らかした羽織を畳んで置いてくれるであろうと思うと緩やかに口角が上がった。彼はマメなのだ。
マメで、そして、優しい。
他の隊士は彼を恐れているようだけど、私は彼の優しさを知っている。

「…うひひ」
「笑ってんじゃねェよ」

気持ち悪りィと毒づく不死川に更に笑いながら、私は意識を気持ちよく手放した。
ありがとう不死川。
今日もよく寝られそうです。