柳に鬼の手 | ナノ
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新人隊士の戯れ

「ねぇ、私たちもさ、腕相撲勝負しようよ」

蝶屋敷でたまたま同期6人が集まった時があったのでそう提案してみた。
あの柱の人たちが腕相撲をして驚きの結果を出したと聞いたので、何となく私たちもやってみたくなったのだ。

「んなの決まってんだろ!俺様が一番だ!!」
伊之助は勝負する前から自信満々にそう言っている。
「ハァ?」
その余裕そうな笑みに玄弥がイラついた顔をした。
「お、俺は別にやらなくてもいいよォ。手、折られたくないしぃ」
ちらりと炭治郎を一瞥し、怯えた声でそう言う善逸は弱気だ。
「腕相撲かぁ。弟達とよくやったな」
炭治郎は楽しそう。
「…」
カナヲちゃんはニコニコしているが銅貨すら出してこないあたり多分やる気ない。
…まあ、いいか。審判やってもらお。


@負けたくない伊之助編


「じゃあまず伊之助、私とやろ?」

一番やる気満々の伊之助を呼んで机の向かい側に座らせた。
肘の下に布を敷いて隊服の袖を捲り上げていると、「ハァー?さくらなんて秒で負かせてやるよ」。伊之助はウハハ!と高らかに笑い、どんっ、威勢良く肘を置き身構えた。

「よーし」

見てわかるくらいゴツゴツした無骨な伊之助の手に自分の手を添えた。「ッッ、ち、小せえんだな」。すると焦ったような伊之助の声がした。
確かに私の手は伊之助よりひと回りは小さくて、手を合わせるとまるで包み込まれるようだった。身長はそこまで変わらないのにね。

「お、おい伊之助!本気でやるなよぉ??!さくらちゃんの手が折れちゃうからね!??」

すると焦り顔の善逸が慌てて伊之助に駆け寄り、そう言った。

「は、はぁ?!本気でやるなって、んなのどうやってやるんだよ!?」
「手加減してやるんだってば!」
「手加減!?んなもん今までしたことねぇよ!」
「ならお前は指一本でやるとかさぁ?!」
「んなっ!?そ、そんなの狡ィだろうが負けちまう!」
「勝とうとしてんのかよ!?」
「そりゃ勝ちてぇよ!勝負だろうが!」
「はぁああ!?」
「ね、ねえ、私は大丈夫だから普通にやろうよ」
「駄目ッッ!ぜーーーったい伊之助、さくらちゃんの骨折っちゃうから!折っちゃうから!!伊之助!お前は指一本で戦え!」
「い、嫌だっ!」
「…用意はいいですか?」
「「待て!!」」
「じゃ、じゃあ私が両腕でやるとか?」
「い、嫌だッッ」
「ワガママッッ!」
「じゃあ普通に…」
「駄目ッッ!」

…始まらない。



A苦悩する玄弥編


「じゃあ、玄弥、私と勝負しよ?」
「ッチ。つまんねぇことさせんなよ」

私が手を差し出すと玄弥は舌を打ったが、嫌々ながらも机の前には座ってくれた。
そしてお互いが手を組みいざ始めようとした矢先、突然の来客があった。

「邪魔するぜぇ?」
「!!」

それは不死川実弥さんだった。

私は慌てて居直る。「し、師範!」。まさか蝶屋敷に実弥さんが現れるとは思っておらず、そのおぞましい表情に背筋が凍った。
ビクリ!
ちなみに向かいの玄弥は顔を強張らせている。

実弥さんは私達を睨み目で見渡すと、「オィオィ、さくら」、眉を寄せ低い声を出してくる。

「傷が癒えたんならサッサと戻ってくるべきだろうが何油売ってやがるゥ??お友だちと腕相撲かよ?楽しく遊んでやがるのかぁ」
「師範、も、申し訳ありませんっ!」

私は玄弥から手を離すと必死に手をつき頭を下げた。
私は実弥さんに殆ど強引に師事させてもらっている状態だった。
継子は取らないと突っぱねた彼の屋敷前に七日七晩座り込み、鬱陶しいと呆れられながらもようやく受け入れられ稽古をつけてもらっているのだ。
そんな彼に遊んでいるところを見られたのはまずかった。
私は自分の背中に痛いほどの冷たい視線を感じながら泣きたくなる。

「おい、テメェ。しかもまさかコイツなんかに負けたんじゃねェだろうな?」

そして冷淡な声でそう言われる。
私はハッと顔を上げ、必死に首を振ってみせた。

「ま、まだ勝負する前です」
「ヘェ?ならよォ。お前今すぐコイツと腕相撲しやがれ。そんでもって負けたら鬼殺隊辞めろォ。辞めて里に帰れェ」
「え、そ、そんな」
「俺が稽古つけてやった奴が何の勝負であれ誰かに負けるなんざ許されねェんだよ。そんなヤワな奴に仕上げたつもりはねェ」
「は、はい」
「なぁ、さくら?テメェあんな呼吸も使えねぇような雑魚にやられるような女だったか?」
「いえ!師範の教えに従い、必ず勝ちます!勝ってみせます!見ていてください!」

私は必死にそう告げれば畳に額を擦り付ける勢いで頭を深く下げた。
まだまだ実弥さんから教えてもらいたいことはたくさんあるのだ。今彼に見捨てられる訳にはいかない…。
実弥さんはフン、と息を吐くと私達がよく見える位置に腕を組んで座り込んだ。
そして玄弥へ「テメェはまだ鬼殺隊やってんのかよ」、吐き捨てるようにそう言って彼を睨みつけている。

「さっさと辞めろっつったろうがぁ、ァア??何の才覚もねぇ癖によォ」
「あ、兄貴、俺は」
「黙れ。俺に弟はいねぇ」
「お、俺はずっと兄貴に認められたくて鬼狩りを…」
「五月蝿えつってんだ。腕相撲すらまともにできそうにねぇ奴は黙ってろ。再起不能にすんぞ」
「…っ」
「玄弥ぁ!手、出して!」
「さくら…」
「真剣にやってね??お願い」
「…ッッ」

私の差し出した手を玄弥が震える手で握った。
冷や汗がつぅと伝う彼の目は揺れて、顔は酷く青ざめていた。


(お、俺はどうすれば…!?)