盛夏のふたり+3人
お化け屋敷の入場券をやたらたくさんくれるので、炭治郎と善逸にあげた。「どのお化けが私かわかったらアイス奢るよ」
券を渡しながら何気なくそう言うと、ふたりはおお!と意外にも意気込んで、この日に行くからとメールをくれた。
*
当日。
ウサギだと何となく私だってすぐにバレてしまいそうで、
「ねぇ、今日は伊之助がウサギやってよ」
私は伊之助に血塗られウサギを渡した。
「いいけどよォ」
伊之助は少し嫌そうにウサギ頭を指先で摘んでいる。
涼しいアトラクション内であれ、出る汗が染み込んだそれは毎日ファブリーゼしていても臭うのだ。
伊之助の気持ちはすごく、わかる!
でも私にはふたり分のアイス代がかかっているから我慢して欲しい!
そう思いながら私は猪頭を被った。
ヒュオオオ〜
おどろおどろしいBGMが流れる中、猪頭の目玉の先に炭治郎と善逸が見えた。
「ヌ゛ォオオオ〜」
低い声で襲いかかる伊之助ウサギに、「ンギャッ!」。善逸の高音の悲鳴が聞こえ、私は必死で笑いを噛み殺した。
あ、禰豆子ちゃんも来てくれたんだね。
怯えまくる善逸に苦笑している二人。
私はその三人めがけて、気配を殺しつつそうっと近付いた。
「ォオォオ!!!」
そして背後から三人を襲うフリをする。
もちろん声を変えて。
すると途端に炭治郎がパッと顔を明るくした。
「さくら!」
振り返った炭治郎の満面の笑みに迎えられる私がいた。
襲いかかろうと振り上げた私の手を握って、炭治郎はブンブンと大げさに振ってくる。
「見つけたぞ!」
「ぁあああ!さくらチャン!!」
半泣きの善逸が縋るように私のもう片方の手を握るのも同時だった。
…あらら。
あっという間にバレてる。
私は唖然とするしかない。
「…わかったの?」
被り物の奥で小声でそう聞くと、炭治郎と善逸は当然のように言った。
「匂いでわかるよ」
「声でわかるってばぁ!」
なでなで。
炭治郎と禰豆子ちゃんは私の頭を撫で回し、善逸はぎゅううと手を握りしめた。
「ベタベタ触んなぁ!!」
するとウサギの伊之助が炭治郎たちに飛びかかっていった。
*
「匂い、ねぇ…」
禰豆子ちゃん含め三人分のアイスを奢るはめになった私は控え室で猪頭を見つめた。
声でわかる、ならまだしも匂いで気づかれるのは何となく、納得がいかない。これに染み付いているのはほとんど伊之助の匂いなのに。
でも炭治郎は私のお弁当のおかずを毎日正確に当ててくるほど鼻がいいことも知っている。
「何で私だってわかるの??!ねえ!私そんなに特徴ある匂いかなぁ?!」
「…お前は甘い匂いがする」
「え?!」
すると伊之助はウサギの被り物に触れながらボソッとそんなことを言った。
「アイスと綿菓子と蜂蜜を混ぜたような匂いだ」
「…」
…とりあえず、嫌な匂いでなさそうなことには安堵する。
伊之助はそう言い終えると、むむっと口を結んで控え室から出て行った。