柳に鬼の手 | ナノ
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花の香


私の子ども、さくら。
その鬼殺隊士は以上の理由から不便が多いだろうと思われる。
すまないが彼の差添人として旅に同行してあげて欲しい。
くれぐれも頼んだよ。
耀哉

「…」
ある日鎹鴉が文を一通、私に届けた。
その手紙を読み終えればため息が出たが、大切にたたんで懐にしまった。
お館様の雅な筆跡をこの目にすると、気の進まない任務であってもどうにか受け入れようとしてしまう自分がいて可笑しい。
鬼を連れた鬼殺隊士、竈門炭次郎。
その差添…か。
正直、それはあまりに未知の領域過ぎて私には少しの躊躇いがある。
でもお館様よりくれぐれもと文にしたためられているとなると、私も腹を決めなければ。
私は藤の花の模様が入った葛籠を背負い、鎹鴉の示す村へと急いだ。
そこで私は初めて竈門炭治郎という少年と会った。
彼はまだ幼く子供のような隊士で、文にあった通り彼の側には鬼となった彼の妹もいた。
その子は初めて顔を合わせた時、大きな真ん丸の瞳で私をじぃと見つめ、もじもじと恥ずかしそうに炭治郎の後ろへと身を隠そうとした。
あら、可愛らしい…
私はその人間味のある行動を見て思わず微笑んでしまっていた。
本当に鬼かと疑ってしまうくらいだ。



「爪は…ああ、切ってもすぐ伸びてしまうのね」
「うー」
「はいはい。じゃあ次は髪を結いましょう」
「う!」

鬼になった妹の名前は禰豆子と言うそうだ。
長い豊かな黒髪に華やかな顔つき。
口に噛まされた竹がなければ普通に可愛い女の子であろう。
いや、今でも十分に可愛い。
始めは着物の中に隠してある守り刀の位置を常に気にしながらの生活だったが、彼女は驚いたことに普段は常に穏やかだった。
「う!う!う!」
しかも、とても懐こい。
私が座っていると側へやってきてコロンと寝転び、猫のように甘えてくることがある。撫でろ、と頭を擦り付けてくる。髪を結ってあげると喜ぶ。着物の着付けを手伝えばふわりと笑う。
だから私はまるで妹ができたような、そんな感覚に陥っていた。
炭治郎はそんな私たちを眺めてフ…と微笑んだ。

「たぶん禰豆子はさくらさんを母親みたいに思ってるんだと思います」
「あら」
母親、か。
私は苦笑した。炭治郎や禰豆子より少し年上なだけなんだけど。
「さくらさんは暖かくて優しくて柔らかい匂いがしますから」
「そう?」
「はい。…母のものと似ています」
「そっか」
炭治郎はそう言うと、その後目を伏せつつもじもじと手を揉んでいた。
何か言いたげに見えたその顔に、私は膝の上の禰豆子をあやしながら「あなたも来る?」、そう聞いていた。
3人で旅を始めてから幾度となく彼らが鬼と戦う姿を見てはいるが、やはりまだ子供なのである。炭治郎もまた、禰豆子同様母親が恋しいだろう。
おいで、と手招いてみると炭治郎は瞬く間にぽっと顔を赤らめた。恥ずかしがっているらしい。「いえ、俺は!」「かまわないのに」「そうじゃなくてっ」。身を引こうとする彼の手を引いてみると、炭治郎は焦った様子で身体を強張らせた。

「だ、だめです。俺は男だし、それに、」

炭治郎は目をギュッと閉じてあわあわと慌てた。
「さくらさんの、香りはっ、母とも似ていますがっ、それ以上に、ッとてもかぐわしくて!おれにはっ」
かああ、
そして炭治郎はしゅうしゅうと湯気のあがる音が聞こえるかのごとく顔を真っ赤に染め上げた。握った手がじんわりと汗ばんで、熱い。

「…」

私はそっと、炭治郎の手を離した。
ああ、どうやら彼は子どもではないようだ。

私が触れていた手をぎゅっと身体の前で握りしめた炭治郎は赤い顔のまま気まずそうに目を泳がせている。

彼は少年だ。
しかも思春期の始まった、少年だ。