柳に鬼の手 | ナノ
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君は狡い

「甘露寺さまは養蜂をされているんですねぇ」
「そうなのぉ〜!あ!さくらちゃんにも蜂蜜わけてあげるぅっ!スッゴク美味しいわよぉ〜!」

甘露寺邸を訪れた時何気なくそう呟いた私に、優しい笑みを浮かべた蜜璃さんは蜂蜜の入った小瓶をくれた。
とろりとした金色のそれは見るからに甘そうで、甘味好きの私の頬は自然と緩んだ。
とは言ってもパンなんて洒落たものはなく、普段の料理に使うのはもったいないので、匙で中身をひと匙すくい上げてそのままぺろりと舐めている。
口内にまったりと広がる甘み。
そしてとろとろと喉を滑り降りていく蜂蜜は私をたちまち幸福にした。

「んー」

思わずふにゃりと顔を緩めてしまう。
そんな私を横に座る義勇さんがちらりと眺めた。
今、私は冨岡邸に来ているのだ。

「ああ、甘い」
「そうか」

義勇さんは話を弾ませる気は全くないらしい。
いっそ清々しいほど素っ気なくそう言うと、彼は庭へと視線を戻す。
そしてまた部屋はしん…と静まり返ってしまった。

「義勇さんも少しお試しになられますか?」
「遠慮する」

やはりつれない返事。
せっかく好いた相手とふたりきりであるのに碌な会話もなく逢瀬が終わりそうである。
それを残念に思うも、まあ、相手が義勇さんならこんなものか、と妙に納得もした。

「…」

しかし、せっかくふたりきりなのである。
任務に追われる義勇さんの、つかの間の安息の日。彼と会えたのは本当に久しぶりだった。
だから私は少し彼との距離を詰めてみた。
肩先が触れ合うほどに近寄って、静かに庭の植木を眺める義勇さんにそっと囁いてみる。

「今口付ければ、甘いと思いますが」

すると、何ということでしょう。
隣の男は「ん…」とわずかに呼吸を乱し、戸惑った。

盗み見たその顔は、今まで見たこともない反応を示している。
鮭大根を食べた際に見せた微笑みとはまた違う、貴重な表情だ。

クス…。
私は微笑んだ。
すると義勇さんはコホンと誤魔化すように咳をしている。
この人は恥じらうと耳が赤くなるらしい。
かわいらしいな、と思った。

「少しお試しになられますか?」
「…」

耳が更に赤くなっていた。
義勇さんはもう庭の景色どころじゃないらしい。