柳に鬼の手 | ナノ
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優しい歩幅

私が今差添をしている隊士、不死川さんは常に不機嫌である。
しかも今は特に酷いようである。
どのくらいかというと、早い歩調でスタスタ歩く彼の後方を歩く私に、その苛々ピリピリした感情が伝わってくるくらいである。

「あの!気分が悪いんですか??」

だから彼の背中に問いかけた。
すると不死川さんはぴたりと立ち止まり、クワッと開けた口とつりあがった目でこちらを振り向きながら「死ね!」。怖い言葉を吐いてきた。
何度目になるだろう??彼の差添をし始めてから不死川さんに死ねって言われたのは。
でも、最初こそ傷ついたけど今はもう平気だったりする。
慣れるということは、すごいのだ。

「あああクソ!何でテメェみてえなのが俺の任務について来るんだよ」
「お館様のご命令ですので」
「あの野郎!!禄でもないもん寄越しやがって」
「きゃああ!おやめ下さい!お館様さまをあの野郎って言うだなんて!!」
「クソが!うるせぇよ!」

ダアア!不死川さんは大きな声で吠えると、また前を向いて大股で歩き出した。
相変わらず苛々ピリピリ。
髪が逆立ってしまいそうである。
そう思いながら私は道端にしゃがんだ。そして綺麗に咲いたタンポポを二、三本、手折った。「お前やっぱり死ねよ!!」。すると立ち止まった不死川さんの怒声が降ってきた。

「何ですか。何度も死ね死ねって。酷いですね」
「何ですか、じゃねぇわ阿保!さっきからずっと雑草なんか摘んで遊んでんじゃねぇよ!それにお前歩くのが遅ぇ!!愚図が!!」

今、私の手の中では道中で摘んだたくさんのタンポポがまるで花束みたいになっていた。
新鮮な匂いに鮮やかな黄色。
私はそれらを見たら和むんだけど、不死川さんはそうじゃないみたい。
でも、これを集めるのにはきちんとした理由があるのだ。

「あのですね。私、胡蝶さまから学びまして」

私が笑いかけると、「ハァ?」、不死川さんはぴくり、怪訝そうに片眉をあげた。意味がわからない、という顔をしていた。

「タンポポは薬草だそうです」
「だから何だよ」
「胃腸の病全般に効果があると聞きました。解熱、解毒作用もあるんだそうです。だから不死川さん、これ料理するんで食べましょう」
「…ッ」

不死川さんは昨日鬼殺隊士としての任務を終えたばかりだった。
青ざめた顔で山から降りてきた彼は、その時からずっと体調が悪そうなのである。

「まあ、気休めにしかならないと思いますが」

鬼を喰らう鬼殺隊士に会うのは初めてだった。
だから私はお館様に彼の差添を求められた時、その足で蝶屋敷へ向かったのだ。
少しでも不死川さんの役に立つ知識が欲しくて。

「ちょっとくらい気分が良くなるといいですね!」

あ、他にもたくさん、お腹に効く薬草のことは聞いてあるんですよ!

得意げにそう言ってみると、たくさんのタンポポの向こう側、不死川さんはなんとも言えない奇妙な顔をした。
ぐっと眉を寄せ、不機嫌そうな、どこか戸惑っているような、そんな顔だ。

「う、うるせぇ!死ねよ!」

しかしやっぱり、言われたのは決まり文句だった。
背を向けた彼はクソ、と呟きつつ再びスタスタ歩きだす。

「ま、待ってくださいっ」
「知るか!鈍間!!」

おや?
その背中を追いかけるのはさっきよりずっと容易い。
「ふふ!」
だから私は彼に聞こえないように小さく笑った。