超短編!(令和〜) | ナノ
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だから、辞められないのです

私は今選択を迫られていた。目の前に置かれた物はチョコレートが3つ入った小さな箱。それを私の背後から差し出した人物は、身をかがめて私に顔を近く寄せれば「1つ、食え」と冷たく言った。私の上司である彼、ドフラミンゴは失敗≠許さない人だ。先日彼から受けた仕事をうまくこなせなかった私が彼から制裁を受けるのは予測できたことだった。だから、チョコレート。この3つの内2つは毒入りらしい。今まさに試されるのは私の運だった。私は側にいるドフラミンゴの射抜くような視線を感じながら、震える手でチョコレートを手に取った。ごくり。喉がなる。先に進めずそのままの姿勢で止まっていると、早くしろと言わんばかりに彼の吐くぬるい息がうなじにかかって逃げ道はないと悟った。目を閉じてチョコレートをガブリとひと口。途端に口内に広がったのはチョコレートとは思えない焼けつくような味だった。…ハズレだ。そう思った。喉を流れ落ちていく甘すぎる物質に冷や汗がつぅ、と背を伝った。

「残念だったなァ。だが、度胸がある奴は嫌いじゃねェ。だからほら。褒美だ」

背後の上司はくつくつ笑えば目の前に小瓶をかざしてきた。解毒剤だ、と言いながら瓶の蓋を取り去り目の前で中身を揺らす。それを凝視しつつも受け取らないでいると、死にたくねェだろう?と笑ってくるので奪い取って私はそれを飲んだ。

「…ッ」

だが、飲み干した途端に今度は口内から食道が刺すように痺れ始めた。嗚呼。私は泣きたくなる。わかっていたはずだ。ドフラミンゴが役に立たなかった部下に情けをかけるはずがないということを。結局の所、どちらも毒なのだ。自然と涙が溢れてはらりと落ちる。「おいおい、泣くほどか?」。ドフラミンゴは私の顔を覗き込んで悪人面をして笑った。イッヒッヒッー!と。笑った。そして言う。あばよ。テメェには失望した。せいぜいあの世でテメェの失敗を悔やむんだな。…とかなんとか。「…」。で、私が黙ったままでいると、上司はあれ?って感じで首をかしげて、おーい、とひと言。それでも無視して黙っていると、そんなにヤベェ味だったか??って心配そうに聞いてくる。

「いっ、たい…。何てもんを買ってきてるんですか…。口がおかしくなりそうですッッ!!!!」

怒り爆発で噛み付くも、痺れた口では喋りにくかった。ゲロみたいなチョコの甘みと、その後にきた渋みとのドッキングで最早顔が曲がりそうである。

私の上司、ドフラミンゴ。
彼ははっきり言って…嫌な人だ。
そんな上司に私はいつも揶揄われている。
同僚に言わせればそれは可愛がられてるってことだろ?とのことだけど、は?アホか?と、私はそいつに言ってやりたい。
この上司のせいで私は今、どこで仕入れてきたのかわからない(ヴィレヴァンかァ?!!)変なお菓子と妙な液体を、下手な小芝居と共に食べさせられているわけで。

「契約取れなかったことは本当にスイマセンでした。けど!こんな酷いもの食べさせてくるのは!どうかと!思いますが!!仮にもいい大人が!パワハラですよ??!」
「まぁいいじゃねェか。悪い組織ゴッコだ」
「ハァア??何が悪い組織ゴッコですか!子供じゃないんだから部下のミスは普通に叱ってくださいっ!」
「お前もノリ良かったじゃねェかよ」
「うるさーい!!ああ口が痛いっ!!もぅーー!!なんなのこれらの成分??!」
「よしよし。悪かったよ。じゃあこの普通の飴をやろう。食え。そんで、あとはこっちに任せて隠れて泣くのはもうやめろ」

そして上司はまともな飴玉をひとつ机に置くと、私の頭を軽く小突いてフッフッフと愉快そうに笑いながら去って行った。
…。
私は口を引き結んだ。
あのヤロウ、私が泣いてたの、知ってたのか…。しかも去りながら、次は頑張れよ、だなんて言ってるよ。私が書いてた始末書も、あのヤロウさりげなく持ち去っちゃってるよ。失敗を許さない鬼上司って言われてる癖して…。

どうやら私が今回会社に与えた損害については、まずいお菓子を食べさせられる以外のお咎めはないらしいし、気づけばそれを補填できるほどの契約をあの上司が取ってきていた。
正直言って、こんなのズルい。
違う意味で泣けた。
私の上司は嫌な人で、でも、全く嫌いになんてなれない人だ。


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