超短編!(令和〜) | ナノ
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運命を摘む

私の能力ほどくだらないものはないと思っていた。
ハートの海賊団にて、皆と航海中にふと手に入った悪魔の実。
少しでも戦力アップになればと、私は自ら進み出てそれを食べた。

…結果として、その日から私は能力者にはなれた。
けれど戦力になるどころではなかった。


「…ローはあと2か月で死ぬ」


実を食べた直後、身体を悪寒が駆け巡ると共に頭に映ったのは愛する人の死の映像だった。
途端に足がガクガクと震え私は甲板に崩れ落ち、その恐ろしい現象に涙がとめどなく流れた。
「どうした」
その様子を見てローは私に近づくとそう言ってきた。「何が起こった」。いつもと変わらない落ち着きのある表情のまま、私を見てそう告げた。

…怖い。
…だめ。
…やだ。
…あなたには死んでほしくないのに。
…どうして、こんなことが…

見えた映像がまやかしでないことを、何故か確信できたから尚更震えが止まらなかった。
それなのに、ローは私の返事を待っていた。
私は実のもたらした能力について途切れ途切れに説明した。

「面白れぇじゃねえか」

すると、彼はこともなげに薄く笑った。
核心部分を言い淀んでいた私に「全てを言え」と詰め寄ったローに涙ながらに伝えた彼自身の運命を。
ローは何故だかどうして楽しんでいるようだった。


「お前。能力者の覚醒を知っているか?」


そしてローはやはり笑う。
泣き続ける私の側で、鬼哭を携え船の進む先を見つめながらそう言う。
「かく…せい…?」
オウム返しに聞き返した私を見下ろしたローは、「おれの船のクルーなら、そのくらいやってみせろ」。
鋭い、強い口調でそう告げた。


「単に死の預言者になっただけで終わらせるんじゃねェ」
「…」
「まだおれは目的を果たしていない」
「…」
「だからお前は、お前の見たおれの運命とやらを覆せ」
「…あ…」
「できるな?」

ぐしゃり。
そしてローは手のひらで私の頭を強く掻きまわした。
そこからいつも以上に感じた、ローの体温。
彼の中を流れる血潮のその熱さ。
私は涙を拭って、ただ頷いた。

私に下された、彼の、キャプテンの命令は絶対。
だって私たちはそう教えられてきた。

それに、変えられない運命なんてきっとこの世にはないはずだ…。
そうでないと…いけない。

私は何度も何度も、自身にそう言い聞かせた。







「ペンギン、その女の誘いにのったら死ぬよ」

ある日。とある港町。
上機嫌に買い出しから帰ってきたペンギンは、私の台詞を聞くや否や顔を歪めてがくりと肩を落とした。「マジかよぉ〜。すげぇイイ女だったのに〜」「まあ、死にたいなら止めないけど」。
ニコッ。笑顔を浮かべた私に「いや、やめます!!はい!」。ペンギンはすぐさまそう即答すればため息を吐きつつ倉庫へと消え、すると頭の中に映っていた彼のおぞましい未来はスッ…と消えた。

「アイツ、救われたな」

側にいたローがくつくつと笑った。
相変わらず隈の酷い不健康な顔をしているが、それでも彼は生きていた。

…あれから半年がたった。
その間、私は何度も何度も仲間やローの死の光景を見ている。


「ああ。ロー。ちなみにあなたは二年後に死ぬよ。ドフラミンゴに撃たれてね。それに腕も切り落とされる」
「そりゃ酷ェ。最悪の死だ」


けれどローは私が告げる自分の死に様に、いつだってあの日のように笑う。
私が必死で手に入れた覚醒≠ニいう進化は、今や私に死の回避方法を知る術をもたらした。
だから私は突然に頭をよぎる彼や仲間の死の運命に涙することはもうなくなった。

「さて、どうすればいい?」

薄く笑うローは私の横で船首の先を見つめながらいつものようにそう聞いた。
「…麦わらのルフィと手を組んで。そうすれば、ローは死なない」
「何だ。丁度そうしようと考えていたところだった」
彼はすぐさま、そう言った。

「…」

私は時々思う。
ローは。
彼ならばきっと。
例え死神が忍び寄ってきたとしても、ローは、自らの力でその運命を乗り越えられる人だろう。

「…私がいなくても生きていけそうだね」
「それは困るな。まだまだ死にたくはねぇ。それに、お前が側に居ねえのは単純に居心地が悪い」

それでもこんな風に。
ローは素直に私に居て欲しいと告げてくれる。

死を回避する預言を与える以上の存在意義。それを彼はいつだって私にまっすぐに教えてくれる。
その手で。
その瞳で。

…ああ、それ以前に彼の命令は私たちには絶対であったか。

だから私もいつだって、ずっとローの側にいるよ、と。
心の中でそっと誓っている。


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