ふたりのキスアンドクライ
「今のは間違い」
…だなんて、言わせない。
そうだろう?
エマ。
…
「…」
溶けてしまいそうだ、と。
最初は熱に浮かされながらそんなことを思っていたっけ。
でも今となっては本当に溶けて、そして消えてしまいたい気持ちでいっぱいである。
今私は何も着ていない状態で、同じく何も着ていないサボ君とひとつベッドにいるのだ。消えたかった。
そんな能力者、いないかな?現れないかな??
そう思うも、そんな都合のいい人などいないし、現れない。
してしまったと嘆く私と、身体に残る甘い痺れの余韻に浸る私と。その両方が存在を主張し合っていて最早頭がおかしくなりそうだった。
だから歪んだり緩んだり、と複雑に変化するこの表情をサボ君にはとても見られたくなくて、私はごく自然を装ってベッドの上で身体を捻り彼に背を向けた。
クスと笑うサボ君の息遣いは本当に間近にあって、それは私の後頭部をあたたかく擽った。
すると未だに熱い彼の指先が私の髪を掻き分けてうなじを晒せば、そこへそっとキス。
「やっぱ、そそる」
そして囁かれるその声に、私は今以上に顔が赤く染まるのがわかった。
部屋に差し込む朝日が室内を照らすと四方八方に散らばったふたり分の衣服が鮮明にこの目に写って単純に泣きそうにもなった。その乱雑さの分、昨夜は気が早っていたということなのだ。サボ君も。私も。
「たくさんしたな」
耳を塞ぎたい。
「すげぇ良かった」
よくない。よくない。
「お前を本当に、」
やめて。それ以上は言わないで。
「愛してる」
あああ。
私は本当に耳を塞いだ。
「…私は…ドラゴンさんがぁ…」
「おいおい。こんな状況でよくそんな事言えるな」
苦し紛れに大好きな人の名前を出してはみたが、それはサボ君を余計に刺激するだけだった。
失笑する彼にガブリとうなじを噛まれ、その後肩を掴まれ、背中をベッドへと沈めて顔を上に向かされると、じっと見つめられてもう何度目なのかわからない深いキス。
「もう諦めろ。その好き∴ネ上におれの事を好きにさせるからな」
そう言ってニイ、と笑う。
それはまるで作戦を完遂せんとする参謀総長の本気の顔でもあった。
身が竦むほどに彼の眼差しは強く、爛々と光っている。
そしてサボ君は余裕ある笑みのまま、また私にキスをした。
私は今、悔しくてほろり、涙を落としている。
革命軍のNo.2がそう宣言したならば、私にはもう勝ち目はない。
だから泣くしかない。
認めたくはないけれど、これは殆ど諦め≠フ涙だ。
情けない顔であろう私は唇を噛む。
サボ君はそんな私を可笑しそうに笑った。
「愛してる」
「愛してない」
「今は、な」
「愛さない!」
「あ、もう1回しとくか?」
「ッ!」
泣けた。
キスされた。
*とりあえずこれで終わり
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