超短編!(令和〜) | ナノ
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勝者触れなば、敗者は落ちん

「もちろん構わない。エマもいいだろう?」

おれの仕事を手伝わされた後はドラゴンさんに労ってもらう℃魔恒例としたらしいエマは、食堂の片隅にてワインと前菜とドラゴンさんを前に嬉しそうな顔をしていた。
けれどおれが登場すると瞬時に眉をつり上げて不服そうな顔へと仕様変更。しかもおれが空気を読まず(まあ、読む気なんてないけど)「おれも腹が減りました。御相伴しても?」と言ったものだから更に顔が強張っている。対するドラゴンさんはそうとは知らずそれをにこやかに了承、だ。
もちろん構わない
ドラゴンさんがそう言えば、エマは断れない。
ひくり、と顔は引きつっているけれど。

「それは…」
「丁度よかった。多すぎて食べられないとエマが言っていたところでな」
「…」

ドラゴンさん違うそれそういう意味じゃない。
もちろん指摘しないけど。
ドラゴンさんのとなりの席に座りながらおれは「ック」、喉の奥でひっそりと笑った。
しかも都合のいい事にドラゴンさんの部下がやってきて何やら急らしい用件を告げている。「すまない」。ドラゴンさんはひと言断りを入れれば「あとはふたりで楽しんでくれ」、そう言って席を立った。というわけで今やこのテーブルはおれとエマ、ふたりの晩餐会だ。

エマはかなり怒っているようだった。
しかめ面をして片手でワインボトルを持てばグラスにドボドボと注いでいるし、無言でそれを手にしてぐいぐいと飲んでいるし。
次第に赤く染まるエマの顔。回らなくなっていく呂律。
「大丈夫かよ」
「だ、いじょーぶ、れす…っ!」
なあ、これはおれにとって好循環ってやつだよな。
しかもこちらを睨みつけてくる彼女の瞳はうるうると濡れていて、それは控えめに言ってもかなり扇情的。



ぼすん。
あつく火照った身体がベッドに沈み込むその感覚は、少し遅れてやってきた。
緩慢に目を開ければぼんやりと見えるのは自分の部屋の見慣れた天井の模様。あれ、いつの間に?そう思いつつ瞬きすると、ギシリ、ベッドの軋む音がして目の前には私を覗き込むサボ君がいた。
「あ…れ」
「大丈夫、じゃねえよな。お前飲み過ぎ」
サボ君は私に跨るような形でこちらを見下ろしている。回転の鈍い頭でそれがどういう事なのかを理解するのには少々時間がかかった。でも理解したところで、ではどうすべきなのかを考えるのにもまた時間がかかる。
それよりも何でこうなった?
さっきまで食堂にいたのに。
ドラゴンさんといて幸せだった所にサボ君が現れて、そうしたらドラゴンさんが席を外したからサボ君とふたりなって、腹が立ったからしこたまワインを飲んだ…そこまでは覚えている。
そのあとは、意識が途切れ途切れになる中…「部屋に帰る」と告げたんだっけ?で、こうなっている、と。成る程。そりゃそうだ。もしドラゴンさんが酔って足元が危うそうだったら私は嬉々として部屋へ帰る手助けをする。まあそんな事絶対に起こらないと断言できるけども。

「好きな相手に振り向いてもらえねぇってのは辛いだろ?」
サボ君は薄暗い照明を背に、私を見下ろしながらそう言った。
ぱちり、ぱちり、
ゆっくりと瞬きする先にいるサボ君は、そう言う台詞を吐くときは嘘みたいに真摯な顔と声になるから嫌だ。
「それなら、おれの辛さもわかるよな?」
さわり。
サボ君の手が動いて、私の頬を撫でた。ひんやりとした手に思わず身がすくんだ。深く酔った身体は思うように動かない。頬を撫でた手の指先は次いで私の唇の輪郭をなぞった。びくん。酔っているくせにそういうのには敏感に反応してしまって嫌だった。サボ君はそれにクス、と笑うとためらうことなくそのまま顔を近づけてキスをしてくる。ああ2回目も許してしまった。目を閉じて唇を噛みしめる。

「なあ、わざとこうなるまで酔った?」

そしてサボ君は唇を少し離したあと至近距離でそう言う。声の調子からして、彼は笑っているようだった。
「そうすりゃ、言い訳できるもんな」
「…」
「ま、どうであれ、このまま抱くけど」
「…っ」
「好機は逃さねえ質なんだ」

サボ君の台詞を聞いて頭が恐いくらいに冴えた。けど、無理矢理に私は思考をぼやけさせた。
そうだ。サボ君の言う通り、私は自分や他人に言い訳できる状態が欲しい。数年も拗らせた一方的な恋と、度重なる失恋は時折り私をひたすらに人恋しくさせるのだ。

私は、愛されたかった。


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