超短編!(令和〜) | ナノ
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隠してしまった者の負け

「すまないが、これからもサボを手伝ってやってくれないか?」

ドラゴンさんにそう言われてすぐ、エマは盛大に顔を歪めた。「異動ですか!?」。叫ぶようにそうも言って。
おれはくるりと変化した表情に笑い出しそうになるが、口をきつく結んでそれに堪えた。
それにしてもそんな悲愴感漂う顔をしても可愛いのだから君は狡い。
「そういうわけではない。お前は私の秘書に変わりはないさ。時々でいいんだ。時々で」
「…そうですか」
悲愴の顔から一変して紅潮するエマの頬、緩む目元。
私の秘書、という部分をいささか強めに言うあたり、ドラゴンさんも中々に狡い人だとそう思った。案の定エマは嬉しそうに目を伏せているし、ドラゴンさんも彼女の機嫌が直ったことに安堵しているようだし、おれも時々であれエマとふたりきりになれるのならこの提案は願ったり叶ったりだ。
そういうわけで、今日もおれの部屋に愛しのエマが来ている。
仕事への気合いの表れか、彼女は長い髪を後頭部にまとめ上げているんだけどその姿は正直言って目の毒だった。
何せ、エマの白いうなじがおれに丸見え。



ここへ行くにあたりドラゴンさんから「頼んだぞ」、と肩ポンされただけで満たされている私がいた。この間片付けたばかりだというのにすでに山積みになっている書類にはげんなりするけれど、仕事後にドラゴンさんと食事する約束を今日もちゃんととりつけてあるので最早やる気しかない。頑張ったな。ありがとう。助かるよ。向かい合って座った席でドラゴンさんにそう言われたら疲れなんてあっという間に吹っ飛ぶ。だから私はこっそりとにやけた。
「じゃ、早速やっていこう」
私はサボ君を椅子に座らせると、書類の全てに目を通しながら重要度の高いものを選びとって彼の目の前に置いた。「へーい」。サボ君の声は面倒そうであるが、羽ペンを手にすれば淀みなくサラサラと要点を書き上げていってるのだから事務処理能力はやはり高いみたい。作業するサボ君を横目で見てそんな事を思いつつ、私は残りの書類も仕分けしていった。

今日は天気も良く、気温も高いようで部屋は少し暑かった。窓を開けようかと思うも外は風が強いみたいで、書類が散乱しているこの部屋にそれは危険そうだ。なので着ていたカーディガンを脱ぐ。きっとサボ君も暑かろうと思い机の方に視線を送ってみると、彼はボタンをきっちり上までとめたまま、じ…と書類を眺めている。首にはクラバットも巻いたままだ。
「暑くないの?」
そういえばサボ君が服を着崩しているところを見たことがないと気づいた。シャツの袖口のボタンだっていつもしっかりと止めているし。
「そんなにかっちり着てたら、疲れない?」
サボ君は私の問いに一瞬目を見開きながら口をつぐんだ。少し何かを考えるように目を軽く反らしながら伏せ、暫くしたのちフ…、と息を吐いて小さく笑う。
「…子供の時そう躾けられてたんだ。染み付いてるんだな」
そして独り言のようにそう呟くと、頭をぐしゃり、乱暴に掻いて青いシャツの第1、第2ボタンをむしるように外した。クラバットも緩めながら。
そうすると隠れていた鎖骨があらわれて、シャツの袖を捲り上げもするから手首から肘の筋肉が露わになった。少し浮き出ている腕の血管。…ちょっとだけ、どきんとした。
「何見てんだ?もしかして、ここ、好き?」
私の視線に気づいたらしいサボ君は、さっきの違和感のあった顔からニヤリとした笑顔に変わった。むきだしの腕を私へと見せつけながら、触る?だなんて調子よく言ってくる。
「そう言えばここって女の好きなパーツなんだろ?よし!今度から惜しみなく晒すわ」
はは、と笑うサボ君はもういつもの顔をしていた。
でも見間違いじゃないと思う。サボ君はさっき、少しの間だけどとても苦々しい顔をしていた。

「ちなみにエマはうなじが最高に色っぽい」

すると、サボ君の手が伸びてきてスルリ、指先で私のうなじを撫でてきた。「ッちょっと!」。私は慌てて身を引いて、すぐさま髪を留めていたピンを外した。
前言撤回。苦い顔だなんて、あり得ない。にやにや笑い続けているサボ君がそんな顔をしていたはずが無い。

「あ、そうやって髪をおろす瞬間もそそる」

ほら、いつも通りのサボ君だ。


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