超短編!(令和〜) | ナノ
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声に出した者の勝ちA

「頼みがある」

そう言われれば私は、はい喜んで、と即答する。でもそれはドラゴンさんからの頼みごとだからであり、彼の力になりたいからである。…でも
「悪いがサボを手伝ってやってくれないか」
、と。何とそう付け加えられてしまったら私は愕然とするしかない。何でよりによってアイツの手伝いなんかをこの私がしなければならないのか。私はドラゴンさん専属の秘書であるというのに。

「いやあ、悪い悪い。ちょーっと報告書がたまっちまって」

重い足取りで向かった参謀総長の執務室。そこには悪びれる様子もなくニコニコ笑うサボ君がいた。そんな彼の机には山積みになった紙の束、束、束!私は思わず唸ってしまう。
「…何日分なの?」
「んー。2ヶ月分??忘れた」
「…」
一体どうしたらそこまで提出書類を溜めておけるのだろう??信じられなかった。そしてそんな疑問と共に生まれるのは純粋な憤り。でも、困り顔のドラゴンさんが眉を下げながら「頼む」と私に懇願するので仕方なく頷いた。確かにこの処理を終えなければドラゴンさんの心労が確実に増える。それにきっとドラゴンさんは自分が頼めば私が絶対に断らないとわかっているのだ。



「…はー。これで最後!」

おれは深いため息と共に、書き上げた最後の報告書を紙束の山の上に置いてそう言った。
今はもう夕方だろうか??
午後イチから始めた作業であるがすでに5時間以上は経過しているようで、窓から見える景色はオレンジ色をしていた。しかし本気で取り組んだおかげで限界まで溜めた書類は全て片付けることができた。仕分け作業に始まり、出来上がったものを次々と関係部署に提出に行ったり、途中お茶を入れてくれたり…とエマは実によく働いてくれた。彼女がいなければもっと時間がかかっていたに違いない。おれは苦笑するとともに後ろにいるエマへと振り返る。「おい、終わった……って、寝てんのか」。するとそこにはソファにもたれてうとうと船をこぐエマがいて。
文句を言いつつもあっちへこっちへと走り回って、おれの気遣いまでしてくれて。相当疲れさせてしまったらしい。おれはフッ、と吹き出しつつ椅子から立ち上がると、彼女にそっと近づいてその愛らしい寝顔を覗き込んだ。

「やっぱり好きだよ。お前が」

仕事中ずっとしかめ面しておれを睨んでいたその顔も、このあどけない寝顔も全部。なのに彼女はドラゴンさんをずっと慕っていて、好きだと言い続けているおれのことは全く気にかけもしない。でも…
「もう一度、キスしとくか?」
この間食堂で迫ったとき、彼女はおれのキスを受け入れた。すぐに『今のは間違い』、そう言ってその場から逃げられたけど。でもキスをしたのは事実。ワインを飲んで酔っ払い、戯れから…というわけではなさそうだ。だから少しずつおれへと気持ちが傾いてきているのだろう。自然と口角があがった。
「よ、っと」
肩を抱いて膝裏に手を差し入れてエマをひょいと持ち上げる。このままベッドへと移動させてみよう。起きた瞬間におれが目の前にいたら、果たしてどうなるか?想像すると頬が緩んだ。「!ッギャ!!」。が、持ち上げた瞬間に目を覚ましたエマに叫ばれた。全く色気のない声に思わず笑う。エマは自分がおれに姫抱っこされていると気づいてすぐに暴れ出した。
「ちょっ!下ろして!!」
「暴れんなって。寝てたからベッドに連れてってやろうと思ったのに」
「必要ない!下ろして!」
ボカ、と容赦なく肩を殴ってくるので苦笑しながらエマを下ろしてあげた。ああ、顔がほのかに赤くなっている。益々可愛いと思った。もう少し。もう少し、だ。あと少しでエマはおれのものになるだろう。

「入るぞ」

しかし、ノックの音がして何とドラゴンさんがやってきたので驚いた。
「全部終わったようだな」
彼は机の上を見渡してホッとしたようにそう言う。エマはドラゴンさんを見てすぐさま姿勢を正すと、「何とか終わりました。さあ行きましょう」、いそいそと彼の側へ近寄っていった。

「行く?どこへです」
「この仕事が終わったら自分を労って欲しいと言われてな」
「労う…」
「美味いワインが欲しいそうだ」
「ドラゴンさん、私とびきり美味しい物も食べたいです」
「そうか。ならコックに何か作らせよう」
「…」
「よくやってくれた。ありがとう」
「何てことありません」

おれは心の中で舌打ちした。
部屋を立ち去るドラゴンさんの後を追うエマは、おれの方を見てべぇと赤い舌を出している。
そしてそのままふたりはここから消えていった。
どうやら先手を打たれていたらしい。
やられた。
そう思った。


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