超短編!(令和〜) | ナノ
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声に出した者の勝ち

「お子さんがいることはわかっています。でも私はあなたがす…」

そこまで言ったところで、スッ…、ドラゴンさんの指先が私の顔の前にやってきた。もうやめろ、と。声無くしてこちらを制するその仕草はもう何度見てきたかわからない。
「あとはひとりで大丈夫だ。ありがとう。もう休め」
その後は優しく私を労う言葉をかけて、彼はこの場を収めようとする。途中やめになった私の彼への告白は、こうして初めから無かったものとなった。ドラゴンさんから休めと言われれば彼の秘書である私は休むしかない。私は大げさに溜め息を吐くと頭を下げて彼の執務室から去った。
彼に恋をしてからもう何年もこんな状態が続いていた。
その何年かの間、私の告白が最後まで言えたことは一度だってない。


革命軍アジトの食堂。
私はキッチンの棚から勝手に拝借したワインのボトルを開け、何度目かの溜め息と共に手酌でそれを飲んでいた。

「ワイン?おれにもくれよ」

すると、いつの間にやってきたのかサボ君が現れてナチュラルに私の隣に座ってそう言った。
ドラゴンさんの右腕的存在の参謀総長である彼。
ドラゴンさんに気に入られているし、きちんと実力もあるそんな人。私は彼があまり好きじゃなかった。
「グラスないよ」
素っ気なくそう言うと、サボ君はクス…と笑って私のグラスに手を伸ばしてなんと、そこからワインを飲んだ。私が口をつけたその場所に敢えて自身の唇を当てて、だ。そして言う。

「なあ、そろそろおれへと方向転換しない?」

口をつけたグラスを私へと差し出しながら、いつもの台詞。「相変わらず全く見込みねえじゃねぇか」。しかも私の心にグサリとくる言葉も一緒に添えて。

「うるさいなあ。私が好きなのはドラゴンさんなの。あなたとは全然タイプが違うでしょ」
「そうだけど、釣り合うのは断然おれの方だと思うけどな」
歳とか、さ
そう言ったサボ君を私はひと睨みしてやった。
「年齢とか、そんなの関係ない」
「いい加減楽になろう。おれなら今すぐお前を幸せにできるのに」
「私の幸せはあなたじゃ無理」
「試したこともねぇくせに」
「試すまでもないわ」
「なあ、おれはお前がずっと…」

そこで私は手を上げて指先を彼の唇へと当てる。黙って、と。私は図らずもドラゴンさんと同じやり方でサボ君の言葉を遮っていた。
でもサボ君はそれで黙ったりなんかしない。
フ…と笑えば私の当てた指先にチュ…とリップ音をたてながらキスをして、自分の手で私の手を包みこみながら「ずっと前からお前のことが好きだ」、と。愛の告白を最後まで言い終えるのだ。
真摯な瞳でまっすぐに私を見つめて、真剣な声で。

悔しかった。
私がドラゴンさんにできないことを、彼はいとも簡単にやってしまうから。だから私は彼が嫌いだ。
それなのに私は毎回その言葉に強く心を揺さぶられてしまう。
酔っていなかったはずの頭が途端にくらくらし始めもする。
瞬きした先でサボ君は真面目な顔のまま、私の手を握るその手に力を込めてきた。

「おれじゃ、だめか?」

悔しい。
覗き込んでくるその瞳が、逸らせない。
握られた手を振り払えない。
私はドラゴンさんみたいに告白をきっぱりと遮断できない。
サボ君の声が甘くしっとりとこの耳に残って…離れない。

そして気付けばゆっくりと近づくサボ君の顔があった。
いつもなら簡単に逃げていたそれは、今宵はついに避けられない気がした。


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