超短編!(令和〜) | ナノ
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いとけなし

目の前に現れた少年に、私は暫しかける言葉を見失った。
これはとある夜の話。今日から1週間特別な客が来る、そう聞いていた私はいつも以上に着飾って自室にて待っていた。そして現れたのがこの少年だったのだ。それはあまりにも予想と違っていた。
この人、確か億越えの海賊で世間を騒がす有名船長では。それにしてもキョロキョロと辺りを見回す様子なんてまだまだ子供。というか何でここに来たのだろう。ここは遊郭なのだけど、わかっててここにいるのだろうか??

「おー!わかってるぞ!だって仲間たちがそういうの知ってねぇと海賊王になんてなれねぇって言うからさー」

だから来たんだ!おれを男にしてくれ!
…だなんて。屈託のない笑顔と共に言われると、ここの太夫である私でも調子が狂った。しかし楼主によるとかなりの花代を頂いているそうだし、こちらも玄人。例え少年であろうとそうでなかろうと、お相手は立派に務めなくては。

「わかりました。では、こちらに」

私は側にある布団を指し示す。少年は自分をルフィだと名乗れば、被っていた麦わら帽子を取ったので私はそれを受け取った。「そんじゃー」。そしてルフィは草履を脱ぐとまるでダイブするように布団の中へと飛び込んだ。「おやすみっ」。寝っ転がると同時に掛け布団をばふんと肩まであげて、そしてにっこりと笑う。
「…」
思わず、目が点になった。
「一緒に寝るんだろ?お前も来いよ」
ルフィはそう言って自分の隣の空いたところをぽんぽんと叩いた。

さて。どうしたものか。
私は再び、かける言葉を見失った。
ルフィは「ふかふかー」と気持ち良さそうな声を上げると、眠たそうに目をこすり今にも寝てしまいそうだった。さて、…どうしたものか。
私はとりあえず彼の隣に横たわってみる。でも何も起こらない。微笑まれて、だから笑い返して、そうしているとルフィは天井の方を向いてしっかりと目を閉じてしまう。
そしてルフィはついにすうすうと寝息を立て始めた。私は唖然とし、しかしこの無垢な少年を見つめれば、クス…、思わず小さく吹き出してしまう。それはあまりにも、予想と違っていた夜。

まぁ、あと1週間はあるし。気長に、ね

私は笑いを堪えながら気を取り直すと、今日のところはこの少年に合わせて眠ることにした。
それにしても、こんなに幸せそうに眠る人の顔を見るのはとても久方ぶりである。それはなかなか、悪くなかった。
なのでもうしばらく、この寝顔を見つめていようとそう思う。
このあまりにもいとけない、彼の寝顔を。


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